《【書籍化・コミカライズ決定!】過労死寸前だった私は隣國の王子様と偽裝結婚することになりました》21.新しい趣味

「今日もいい天気ですね」

庭園のテラスで紅茶を飲みながら、風の涼しさをじて寛ぐ。

平和なひと時。

誰に邪魔されるわけもなく、純粋に平穏を満喫している。

激務から解放され、意地の悪い嫌がらせもない日常。

なんて幸せなのだろう。

「すまない、遅くなった」

「いえ、私も先ほど來たばかりですから」

「その噓も何度目だ?」

「何度目でしょう。忘れてしまいました」

殿下と過ごす午後のお茶會。

三日に一度の決まった時間に、私たちは二人で集まってお茶をする。

この國の習わし、家族や夫婦を大切にする考え方から定められたルール。

殿下は強制されることに異を唱えていたけど、家族の時間を尊重すること自はやっぱり間違っていないと思う。

たとえ偽りの夫婦でも、こういう時間は大切だ。

「今日もお仕事で忙しかったんですか?」

「いつもよりはマシだ。ただ途中でライとレナに遭遇してな。遊んでくれとせがまれた」

「ふふっ、そういうことですか」

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彼の一言で大何があったのかは把握できた。

ライオネス殿下とレナリー姫。

雙子の兄妹は、兄であるレイン殿下のことが大好きだ。

殿下も家族には甘い。

遊んでほしいとお願いされて、無下にもできなかったのだろう。

微笑ましい理由に、自然と笑みがこぼれる。

「お前のほうはどうなんだ?」

「いつも通りです」

「相変わらず退屈を持て余しているか」

「持て余すというほどじゃないですけど」

この國へ來たばかりの頃より、私もここでの生活に慣れている。

最初の頃はよそ者だった私を王城の人たちもし警戒しているように見えた。

警戒、というより接し方に困っていたのだろう。

丁寧だけどぎこちなくて、探り探りやっているような。

月日が経ち、私が城にいることにも慣れてくれたのか、最近は自然な流れで聲をかけられることが増えた。

今だからわかることだけど、この城はいろいろとおかしい。

もちろん、いい意味で。

殿下や雙子の彼らが親しみやすい格と態度だからだろう。

王城の人たちもび仕事をしている。

王城や宮廷は窮屈な場所だと、私は思っていたのだけど。

ここには窮屈さの欠片もじられない。

だから私が、どういう人なのかわからず戸っていたのかもしれない。

貴族や王族は本來、當り前のように地位や権力を大切にする。

それは普通のことで、何も間違っていない。

一般の方からすれば偉そうで、怖く見えてしまう。

私もそういう、一般的な考え方の貴族だったとしたら、ここでの生活には合わなかったはずだ。

「のんびりする生活にもし慣れてきました」

「それはよかったな。普通に楽をすることを覚えないと、人間どこかで倒れる。お前はその一歩手前まで走り続けていたわけだから、慣れるのも時間がかかる」

「そうかもしれません。でも、慣れてきたからこそ、退屈な時間をどう過ごせばいいのか考えるようになりました」

「それもいいことだ。仕事だけが人生の全てじゃないからな」

殿下もそうおっしゃってくれる。

つまるところ、仕事以外に打ち込める何かを探していた。

この國でも付與師としての仕事はやらせてもらっている。

モーゲン大臣からの依頼を定期的にける。

おかげで腕は鈍らないし、適度に退屈を紛らすこともできていた。

ただ、お仕事ばかりを求めているわけじゃない。

お仕事に埋もれる生活は、もうしたくないと心から思っている。

何かほかに、楽しいと思えることがしたい。

と、最近はよく考える様になった。

「新しい趣味か。うん、いいんじゃないか?」

「ありがとうございます。でも中々見つからなくて、さっきも一人で考えていたんです。殿下はどんなご趣味をお持ちなんですか?」

「俺か? 俺の趣味……なんだろうな」

殿下はうーんとうなりながら考えている。

上を見上げ、下を見下ろし、目を瞑り。

「言われてみるとわからないな」

「殿下もですか?」

「ああ。よく考えたら俺も仕事ばかりで……あとは最近までずっと嫁探しをしていたからな。趣味というなら放浪か」

「ほ、放浪……ですか」

それは趣味と呼べるのだろうか。

目的も奧さんを探すことなら、それも仕事の一つな気がする。

「じゃあ、殿下が好きなことってなんですか?」

「この國にあるすべて。景も、人も、も、全部が俺の寶だ」

「王子様らしいですね」

「聞かれたらそう答えるように準備してるからな。ま、お前が聞きたいのはそういういのじゃなくて、俺個人の好みだろうけど」

わかった上でまじめな回答をしたみたいだ。

殿下は時々おちゃめな一面がある。

仕事に打ち込む真面目なところがあったり、他人のを利用する意地悪なところがあったり、冗談を自然と口にしたり。

関わるほど見えてくる殿下の新しい一面は、私をしワクワクさせる。

「好きなもの……か。運は好きだな。これでも剣には自信があるんだ。騎士団の奴らにも引けはとらないぞ?」

「そうなんですね」

「今度見せてやろう。他にはそうだな。食べものなら辛いものより甘いもの……そう、ちょうどここにあるお茶菓子みたいなのも好きだな」

「甘いほうが好みなんですね」

それはちょっと意外だった。

殿下なら辛い味付けのほうが好きそうだと思っていたから。

単なるイメージでしかないけど、甘いものを好んで食べている殿下……。

想像すると、なんだか可い。

「甘いもの……お菓子……」

「フィリス?」

「一つ、思いつきました。私のやってみたいこと」

「へぇ、なんだ?」

緒です。今度のお茶會まで楽しみにしていてくださいね?」

私はニコリと微笑む。

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