《【書籍化・コミカライズ決定!】過労死寸前だった私は隣國の王子様と偽裝結婚することになりました》24.日々に甘さを

次のお茶會までの間、私はクッキー作りに打ち込んだ。

他のお菓子にも興味はあったし、挑戦したい気持ちはあったのだけど、最初は無理をしない。

できることから順番に積み重ねる。

誰かに食べてもらうものを作っているんだ。

失敗したものを食べさせたくない。

限られた時間の中で模索し、自分にできることに一杯取り組む。

あの頃に戻ったみたいだ。

でも……。

「楽しい」

段違いに楽しい。

生きるために必死だった當時とは違う。

意気込みも、やる意味も、見ている先も。

目の前しか見られなかったあの頃と、し先の未來を見據えている今。

どちらが幸福かなんて、考えるまでもない。

そうして時間は過ぎて。

次のお茶會の日がやってきた。

私は普段よりし早く起きて朝食を終える。

殿下にはまだ教えていない。

サプライズにびっくりしてもらいたくて、こっそり廚房も借りた。

ライ君とレナちゃんにも。

「殿下には緒にしてね?」

「わかった! 緒にする!」

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「シーですね」

二人して人差し指をに當てて、緒のポーズをする。

しっかり約束は守ってくれているみたいだ。

おかげで気兼ねなく調理に専念できる。

昨日の夜のうちに、使う材料は準備してある。

お茶會前は晝食もあって、廚房もバタバタするだろう。

朝食と晝食の間。

わずかな時間で作って準備をする。

「材料よし」

さっそく作ろう。

作りながら殿下の顔を思い浮かべる。

殿下が一度だけ私に見せてくれた無邪気な笑顔……。

もう一度見られたらいいな。

◇◇◇

お晝が過ぎて、暖かな日差しに照らされた庭園。

テラスでは先に來た私が待っている。

いつも忙しい殿下がし遅れてやってくる。

「待たせたな、フィリス」

「殿下。今日は早いですね」

「早いといっても時間はギリギリだがな」

そう言いながら席につく。

いつものように。

「では始めようか」

「はい」

殿下が紅茶に口をつける。

まだ気づかない?

それとも気づいた上で、あえて気づかないフリをしている?

ドキドキする。

なんだかもどかしい気分だ。

今までじたことのない張が押し寄せて、自然と言葉數が減る。

殿下の視線が、テーブルの中心に向く。

「――! なるほどな」

殿下が笑う。

何かに気付いたようなセリフを口にして。

彼はちらっと私のほうを一瞬だけ向いた。

その後すっと手をばす。

テーブルの中心、お皿の上に盛り付けられたクッキーへと。

一枚とり、口にれる。

サクサクっと音が聞こえる。

かすかにゴクリと飲み込む音もした。

かみしめるように目を瞑る殿下。

張が走る中、殿下は目を開けて私に微笑みかける。

味かったよ、フィリス」

その一言が聞きたくて待っていた。

ただの言葉が全を駆け巡って、心とを震わせる。

この覚も、初めてだ。

「これ、フィリスが作ったんだろ?」

「はい。よくわかりましたね」

「わかるさ。見た目が違う」

それは確かにそうだ。

いつも用意されているお菓子はもっと種類もある。

プロが作ったものと比べたら、すぐ見分けはつく。

そこは自覚している。

「驚いたな。フィリスはお菓子作りもできたのか?」

「いえ、これが初めてです」

「初めて?」

「はい。家庭の事で料理はしたことがあったのですが、お菓子作りまでする余裕はなかったので」

殿下はクッキーをもう一枚とる。

今回は味を複數変えてみた。

プレーンな味付けと、カカオ豆のれたもの、チーズを混ぜたもの。

作ってみたら案外簡単で、なんとか形になってくれたよ。

「よくできてる。初めてなのに凄いな」

「そこまで難しいものではありませんから」

「いや、なくとも俺は料理なんてしたことがない。自分で作ろうとも思っていなかった。だからまず、挑戦できることが凄いんだ」

そういう考え方もあるのかと。

褒められた理由に心しながら、味しそうに食べてくれる殿下に見惚れる。

自分でもよくできているとは思った。

それでも一流の、売っているものと比べたら大したことはない。

正直食べてもらうまで不安もあったけど。

「こっちの黒いほうは甘さも濃くていいな。俺が好きな味だ」

殿下がそう言ってくれる。

嬉しそうな表を見るだけで、私の心は安らぎ満たされる。

なんでもいいんだ、きっと。

自分の努力を誰かに認められることが大切で、嬉しいことなんだと。

「挑戦してよかった」

ぼそりと呟く。

ただの思いつきで始めたお菓子作りだったけど、今後も続けて行こう。

「殿下は好きなお菓子ってありますか?」

「大抵は好きだぞ。甘いものならなんでも」

「特には?」

「特に、か。そうだな、しいて言えば――」

殿下の好みを見聞きして、より理解を深めていく。

今度作る時はもっと味しいものを。

より満足してもらえるお菓子を提供したい。

私のお菓子作りへの意は、殿下に喜んでもらえることだった。

さぁ、次は何を作ろうかな?

今から次のお茶會が楽しみになる。

新しい趣味を持つって、本當に大切なことらしい。

その一つで、人生の楽しさが大きく変わる。

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