《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第2話 白くて丸くてそれでいて四角張った宇宙船のようなもの

翡翠の渦なんて巻き込まれる人間を探す方が難しいものに巻き込まれてしまったキラにとって、それでも運がよかったのは、事故に巻き込まれた結果飛ばされた場所が、整備された道があることから人が生活していることが予想され、川と森のある比較的長閑な橋の側であるということだった。

不幸中の幸いとはよく言ったものだが、それにしては不幸の割合が些か大きかった。それでも生きている。キラはたくましく、冷靜で何より明るかった。貧しい分類にる人間ではあったが、それを悲観して嘆くだけの人間ではなかった。むしろその生き様はかであるといえた。

「……なるほど、あれが翡翠の渦か。まさか生きている間にお目にかかるとは思わなかったなあ」

実際にはお目にかかるどころか巻き込まれてしまったわけだが、それでもどこか他人事のような獨り言が出てきたのは、いくら冷靜な人間といえども突然知らない星に飛ばされてしまったからこその混であった。

「ここには水も草木も森もある。とりあえずしばらくは生きていけるだろうけれども、問題はどうやって星メカニカに帰るかだよなあ」

キラは貧乏であった。しかし別に日々の生活に追い詰められているか、というとそういうわけではなかった。頑張って勉強して、頑張って學した公立のユニバーシティに通う謂わゆる苦學生というやつであった。

ひとまず、自分が何を持っているかポケットを漁ってみたりはしたものの、っていたのは回線がなくて通信ができない通信機と、おそらくこの星では使えず、もしかすると両替すらも難しい貨と紙幣がった財布のみであった。

突然、翡翠の渦なんて一生お目にかかれるかわからないようなものに巻き込まれ、知らない場所に飛ばされてしまったキラは當然混していたし、どこか宙に浮いたような心地でふわふわとしていて、どこか人ごとのように考えを巡らせていたそのときだった。

ズドオォン――。

「なんだ、今の音……!」

地面に響くような音だった。しかしそのおかげで宙に浮いていた心地が地面に足をつけることができた。大きな音の原因は、どうやら比較的近くに何かしらが落下してきたことによるものであるらしかった。

「何だあれ、飛行船、いや、宇宙船か?」

音のした方に足を向けてみると、そこには長閑な草原の上に白くて丸くてそれでいて四角ばった大きな機械が落ちていた。キラのいる場所からはおおよそ三百メートル程だろうか。地面のえぐれ方からしておそらく空から落ちてきたようだし、テレビと教科書でしか見たことがなかったけれどあれは宇宙船かもしれない。そこまでを認識して、キラはその表に期待を隠しきれなくなってしまった。

地面は抉れてはいるものの、大きなができているわけではないし、宇宙船もおそらく橫転はしていない。あれが本當に宇宙船なのだとしたら。あの宇宙船が落下したのではなく、著地したのだとしたら。あの宇宙船に人が乗っているのだとしたら。その人が優しい人であったとしたら。もしかしたら、自分は星メカニカに帰れるのではなかろうか! キラはそんな期待を抱かずにはいられなかった。

キラは足と手を大きくかして宇宙船と見られる、白くて丸くてそれでいて四角ばった大きな機械に向かって地に足を取られ、何度も転びそうになりながら全力で走った。

キラはたくましく、冷靜で明るい人間である。そして夢や希を持ちながらも、その本質は現実主義者であった。だからもちろん、あれに人が乗っていたとしても悪い人間である可能は頭にあったし、その後に起こりうる可能が頭にないわけではなかった。それでも何も手がかりのない今、すぐにでも星メカニカに向けて帰還できる可能のある今、それを見過ごすほどキラは臆病でも度なしでも賭けが下手でもなかった。

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