《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第4話 キラの話

キラが自分の星に帰れるか、それどころか生きていけるのかはこの宇宙船に乗っていた人にかかっているといっても過言ではなかった。もちろん、宇宙船に乗っていた人にれてもらえず、渉が決裂したからといって、この先、キラが生まれ育った星、星メカニカに戻れる可能がないわけではないだろう。しかし、「おそらく自前の宇宙船を持っている人」に出會える機會なんてものはこの先ないといっても過言ではないだろう。それこそ翡翠の渦に出會う確率といい勝負だとすら言える。

「お願いします。話だけでも聞いていただけませんか。僕の一生がかかっているんです」

キラはを頭を深く垂れて心の中で何度も頼む、頼むと繰り返していた。宇宙船に乗っていたその人はキラのあまりの必死さに瞠目して、し心配そうな顔をした。

「わかった。私も暇というわけではないけれど、そんなに必死な君の話を聞く時間がないほど、なんてことは決してないからね。だからまずは顔を上げておくれ」

ひとまず、話は聞いてもらえる、キラは噛み締めたから細く息を吐き出した。キラの命運を握るのは間違いなく目の前のこの人であるが、自分がいかに話すかにだってもちろんかかっている。キラは元々、固く握りしめていた手を一度緩めてから、再度固く握り込めてゆっくりと顔を上げた。

「ありがとうございます。それが、自分の星で滅多にない、有名な事故があって、それで、それに巻き込まれてしまって、事故と言っても誰かが原因というものではないのですが——」

「大丈夫、きちんと最後まで話は聞くから一度落ち著いて」

キラはしだけ息を詰まらせて目を軽く見張ったあと目を瞑って、一つ大きく呼吸をすると、宇宙船に乗っていたその人の、グレーのようなそれでいての加減でを変える不思議な目をしかと見據えて改めて話し始めた。

「すみません。その、自分が住んでいた星メカニカでは翡翠の渦と呼ばれるものがごく稀に発生していました」

「……翡翠の渦?」

宇宙船に乗っていたその人はしだけ眉を顰めて目を瞑り、考え込むように思い出すようにしながらキラの言葉を繰り返した。

「はい。翡翠の渦は大きくて二メートルほどで、空間に突然発生します。れなければ吸い込まれないので巻き込まれる人間は本當に數えるほどだったのですが……」

「なるほど、もしかして君はその翡翠の渦の発生地點に偶々いてしまったがために巻き込まれてしまい、気が付いたらこの星にいたと?」

問いかけるような口ぶりでありながら、確信を持ってこの人はキラに問いかけた。キラが途中までしか話していないにも関わらず、キラのに起きてしまったことをすぐ理解してみせた。それから自らの考えを整理するかのように小さく呟いた。

「翡翠の渦、聞いたことがあるかもしれない。どうして聞いたことがあると思ったのだろう」

目の前の小さな呟きはもちろんキラの耳にもったが、今はこの人の小さな疑問よりも自分について話すことを優先したかったため、続きを話すために一度を軽く舐めてからまた話し始めた。

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