《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第13話 星メカニカの場所
キラとニジノタビビトはキッチンに並んでお茶とお茶請けを用意しながら、話をしていた。
「じゃあ、キラは二十一歳なんだ。私も多分、二十歳にはなっているはずだから、ちょうど同い年くらいかな」
「年齢のことは覚えていたんですか?」
「いや、覚えていなかったんだけど、しでも手がかりがしかった時に、一滴で々検査できるやつがあるだろう? それの簡易検査をしてみた時に骨年齢とか、健康年齢とかが軒並み二十代前半だったんだ」
それは二十歳になっているといえる要素になるのだろうか。いや、何も手がかりがないのならそれで年齢を測るしかないのか。確かにキラがユニバーシティの健康診斷で計測した時も、おおよそ実年齢と一致していたから案外正確なのかもしれない気がしてきていた。
「よし、紅茶がったよ。キラは砂糖とか、ミルクとかレモンは使うかい?」
「あ、じゃあ、ミルクティーがいいです」
もう、もっとフランクでいいんだけどな、と言いながらニジノタビビトは、冷蔵庫からミルクのったボトルを取り出してわざわざピッチャーにれてトレーに乗せてくれた。その橫にシュガーポットを乗せると、トレーを持って食卓の方に歩いて行った。キラはお茶菓子のったボウルを持ってニジノタビビトの跡をついていってニジノタビビトの斜め向かいに座った。
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「じゃあ、まずは君の故郷の星メカニカの位置を出そうか」
紅茶のったカップに角砂糖を五つもれて右手に持ったスプーンでかき混ぜながら、左手でタブレットをいじってテーブルの空いたところに宇宙地図を投影した。キラはやっぱりこの人相當甘いものが好きなんだなと思いながら、改めて食生活が不安になっていた。
その間に先ほど準星アイルニムを飛び立った宇宙船の現在位置と次の目的地である第六二四系、星クルニの位置がでていた。そのままニジノタビビトがタブレット上でピンチアウトすると、テーブルの上に投影された地図も小さくなり、表示範囲が拡大された。
「ええと、星メカニカは第七五六系だったよね」
そう呟くとタブレットに今度は第七五六系の報を打ち込み、またテーブルの宇宙地図がいて今いる場所と星クルニが點になって、もう一つ點が追加された。その點は宇宙船から星クルニまでの距離の十倍以上離れているように見えた。
「もしかして今表示された點が、星メカニカがあるところですか」
「そうだね。こう、星クルニまでの距離と比較するとだいぶあるように見えるけど、いや比較すればだいぶあるんだけど、補給せずに行けたとして二ヶ月半の距離かな。だから、補給と私の目的を合わせると四ヶ月から半年以上かかってくることになると思う」
その言葉がキラの耳にったとき、頭に咄嗟に思い浮かんでしまったのは、ユニバーシティで一部免除してもらっている學費と奨學金と、出席日數のことであった。これは確実に半期の単位は落とす。
もちろん、この宇宙船に乗せてもらう以上の最短はありはしないのだから、半期どころか學校に通うことすらできなくなるところであったため、それに比べてしまえばずっといいのは間違いない。しかし、こうして數字として目の前に突きつけられてしまうと、やはりどうして自分がこんな目に、という思いがまた湧き上がってきてしまった。
「……キラ、大丈夫かい」
キラはハッとして、俯いていた自分の顔をそうっと覗き込んでいたニジノタビビトのの加減で味が変わって見えるし不思議な目を見た。宇宙船の中に場所が移ったからなのか、外の恒星ののもとではグレーに見えていた瞳は、今は青みがかって見えていた。
「はい、覚悟はしていたんですが、やっぱり數字として出るとやっぱり不安で……。でも、こうして帰れる目処がついているだけでも、事故とかがなければ半年後くらいには星メカニカの地を踏めているという事実は、今俺にとって何ものにも変え難い希で目標です」
ニジノタビビトは目をぱちくりとさせた後、何も言わずに優しく笑った。そして黙ったままふと首を傾げて思案した。
「キラの一人稱、本當は俺なんだ」
「あっ……」
キラは咄嗟にしまったという顔をしたが、ニジノタビビトはキラがだんだん自分に気やすく接し始めていることが嬉しかった。何せ、記憶のないニジノタビビトにとって誰かを旅をした経験もなければ、友達と呼べる人がいたこともなかった。目的のために知り合った人たちは幾人もいたし、キラとも互いの利益のために協力することになったのが始まりだったが、それでもそれ以上の関係になれる気がなんとなくしていた。
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