《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第32話 黒くて大きくて小さい人

ニジノタビビトは、キラと男が座っているベンチに近づこうとして、何と聲を掛ければいいのか分からなかったものだから、キラに気づいてもらえるようにわざと足音を大きく立てるようにして歩いた。

キラはそれに気がついて、男の背に手を添えながら顔を上げてニジノタビビトが既に公園に著いていたことを知った。

「レイン、ごめん、ちょっと待って」

「いや、それはいいんだけど……」

ニジノタビビトがベンチに近づけば近づくほど、服の下に隠したペンダントの先のケースにったカケラがどんどん溫かくなっていた。ニジノタビビトは正直なところもう見つかったのかと思っていたが、それ以前にこのおそらく次の虹をつくってくれるだろう男がどうしてこんなにも參った様子なのかの方が気になった。二人がどことなく小さな聲で話していても男は顔を上げないどころか微だにもしない。

「キラ、この人は……」

「この人が誰かは、俺も分からないんだけど……」

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キラは公園が常に見える範囲で探索をしたものの、特にカケラは反応してくれなかった。自分の方向覚を信頼していた一方で、無鉄砲ではなかったのであまり遠くに行ってもし道に迷ったらその後があまりにも怖かったから、ぐるぐると算數の教科書に乗っている文章題のように公園の周りを何周もするだけだった。

時計のメモリが次のメモリまで五分の四ほど進んだくらいで公園に一度戻ることにした。立ち止まっていても見つかるときは見つかると言っていたから公園の近場をぐるぐるしていても、公園にいてもそう変わらないことに気がづいたのだ。

もともと虹をつくる人がいるのかカケラが自分に対して教えてくれるのか分からなかったとはいえ、こうも役に立っていないじがあると堪えるものがあった。

「あれ、今何か」

それでもカケラが反応を示してくれないかと思いながら、めげずに公園をぐるぐると巡っていた時、視界の端に何か黒いものが映った気がして思わず足を止めてしまった。この公園は、植によってビルの壁全が緑に染まったこの星らしく、さまざまな植の植わった公園だった。ベンチは木のをそのまま生かしたものだったし、遊はなかったのでこの公園ののほとんどは緑と茶に分類できた。この公園に來たの初めてとはいえ、ぐるぐる周回しているだけあって、どんなものがあるのかどんながあるかは把握していた。

もちろん、人が纏う服のだとか、貓やこの星にしか生息していないなどのなどである可能もあったが、それにしては低い位置に、大きな黒があった。

キラが恐る恐る黒が見えた場所、茂みの奧を覗き込むと木の元にその大きなをぐっと折りたたんでしゃがみ込むスーツを著た男がいた。キラが見た黒は間違いなくこの人が纏う黒いスーツのだった。驚いて固まってしまったあとすぐにハッとして茂みをいだ。

「お兄さん! 意識はありますか?」

うずくまった男はどうやら格のいい人らしいが、腕も足も中に仕舞い込むようにして背中を丸めていたものだから、きっと真っ直ぐ立ったらキラの目線の位置に顎がくるくらい背が高いだろうに今はとても小さく見えてしまった。

キラの掛け聲にのろのろと、目がギリギリ見えるくらいまで顔を上げたその人は健康的に焼けたを青白くしていた。キラの方をゆっくりとした瞬きで見つめたあと、下手な笑い方をした。

「ああ、大丈夫ですよ、には異常ありませんから」

息を吐き出すようにして話した彼の聲音は思っていたよりもはっきりとしていたが、またすぐに顔を伏せてしまった。これで大丈夫なら調不良の人はいないと思いながら、すぐそこに自販売機があったことを思い出してばっと立ち上がると駆け出した。

本當はニジノタビビトが渡してくれたお金は一銭も使うつもりがなかったのだが、非常事態なので致し方がない。

水を買ってすぐに戻ると、男の背中にそっと手を添えて熱を分けるようにして優しくでながら改めて聲をかけた。

「お兄さん、お水買ってきたんです。飲めますか」

はまたゆるゆると顔を上げて今度は口元までしっかり顔を覗かせた。キラは顔を上げた男の目の前にペットボトルを差し出して口が空いていないことを確認させてから蓋をひねって開けた。

「飲めそうなら、飲んでください」

はぼんやりとしていたが、やがてのっそりとを起こしてその長にあった大きな手でそっとペットボトルを摑むと水を口にした。

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