《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第37話 キラに聲をかけた

キラは突然かけられた聲に驚いて後ろを振り返った。もちろん聲をかけられてこと自にも驚いていたが、ラゴウという名前に何よりも驚いた。

「あっ」

そして振り返った先でまた驚いた。聲をかけてきたのは、一昨日つまりこの第六二四系第七星クルニについた初日にキラが緑のビル群を見上げていてぶつかってしまっただったからだった。

「あの、ですからラゴウに何か」

些か棘があるような言い方だった。ただ、キラはこの星で顔を覚えた人がラゴウと市場のおばちゃんとこのくらいだったものだからすぐにピンときたが、このは街中で々ぶつかってしまっただけの人間の顔を覚えていなくても當然だ。彼にしてみればおそらく知り合いの人間を見知らぬ人が真っ晝間から公園で探しているとなれば不審に思われても致し方がない。

「あの、昨日、ラゴウさんにお會いしたんですが……」

こちらを訝しげに見るに怪しまれないようにと慌てて説明をしようとして言葉が詰まった。何と言えばいい。ラゴウさんが調を悪そうにされていたから心配で? 昨日知り合った人間がそこまで深追いするのはしおかしい。ではラゴウさんに屆けたいものがあって? これもだめだ。シンプルに噓だし、このが屆けを預かると言ってくれた場合にどうしようもなくなる。じゃあラゴウさんにお願いしたいことがあって? これは本當のことだが、これだけだと弱い。ならば。

「その、ラゴウさんにお願いがあって探しているんです。もう一人と一緒に探しているんですが、その人が持っているものを持った想が、しくて……」

何とか噓は言わずに切り抜けた。ふとニジノタビビトがカケラを持っていることを思い出して、それを握って貰えば話が好転するのではないかと思い付いたのだ。

これなら預かりますと言われることもないし、二人で探しているとなれば説明として弱過ぎることもないと思ったのだ。持ってもらった想という表現が正直言って微妙かもしれないが、パニックになった末の言葉なのでそれくらいは許してほしい。

「はあ……」

の訝しげな視線は和らいだが、困はさてしまった。昨日會った人に、あるものを持ってもらった想がしいだなんて困されても仕方ないかもしれない。キラはこれ以上何か追求されてしまう前に、今度はこちらか質問することにした。

「あの、ラゴウさんとはお知り合いですか?」

「ええ、まあ……」

どうしよう、話が終わってしまった。ニジノタビビトはさっき別れたばかりだし、これ以上キラ一人でどうにかできる自信がなかった。

「キラ! ごめん忘れてたことがあって」

また背後から聲がかかった、今度走っている聲だ、助かった。こんなにタイミングがいいことがあるだろうか。キラは翡翠の渦に巻き込まれたことによってそれ以降ツキが回ってきたのかもしれない。ニジノタビビトに星メカニカまで連れて行ってもらえることになっているし、一人でどうしようもできなくなりそうな時に來てくれた。

「レイン、助かった!」

ニジノタビビトは今日、キラにお金を渡すのを忘れていたことを思い出して戻ってきたのだった。今日は昨日よりも探索の時間が長くなる可能があるのに、飲まず食わずで倒れてしまっては大変だ。

「なるほど、あのがラゴウさんと知り合いなんだね」

ニジノタビビトは正直驚いていた。昨日虹をつくる、カケラを生する候補であるラゴウを見つけたのも、そのラゴウの手がかりであるを見つけたのもキラだった。カケラとは別の意味で高能かもしれない。

「ミズ、どうかラゴウさんと合わせていただけませんか。一度だけでいいのです」

ニジノタビビトは頭を下げた。キラもならって頭を下げた。真っ晝間の公園で大人二人がに対して頭を下げている景の何と異様なことか。

「ちょ、ちょっと、困ります。頭を上げてください。もうし詳しく話してしていただかないと分かりません」

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