《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第45話 三度目の正直

「どうしてここが分かったんだ?」

話をするのは結局、あの公園のあのベンチでだった。そこそこの距離を持ってして座るには二人がけだが、電車の座席くらいの距離であれば普通に三人で座ることはできた。キラは最初立とうとしていたのだが、ラゴウに座るように言われて、恐る恐るニジノタビビトが詰めてくれて空いた端っこに腰掛けた。あまりの恐る恐るだったものだから、しだけおがはみ出していて居心地悪く座り直した。

「ケイトさん……すみません、馴れ馴れしいかもしれませんが他の呼び方を知らないのでこう呼ぶのは許してください。ケイトさんがお晝休みに來てくれるって言っていたのと指差したビルの方向、それから公園に來るまでの時間で大予想しました。あとは、気です」

「はあ……全く、暖かくなってきたとはいえまだ夜は寒いこともあるんだ。もうこんなことはするんじゃないぞ」

正直キラはもっと気持ち悪がられることは覚悟していたが、まさか心配されるだなんて思ってもみなかった。ラゴウもなんてことをするんだとは思ったものの、自分が傷つけるようなことを言って、多理不盡に突き放した部分があることを自覚していたので今回はお咎めなしとすることにした。

「まずは、私たちのエゴでラゴウさんを傷つけてしまったことを謝罪させてください。その上で、私たちがこれからお話しするのは、私のためであるということに他なりません」

ニジノタビビトがこう言ったのは、真実であるからに違いなかったからだが、ニジノタビビトのためだけということを強調すれば、もっと話を聞くラゴウの気が楽になるのではないかと思ったのだ。

虹をつくるという行為は、今まで協力してきてくれた人たちみんながすっきりしたような顔をして、ニジノタビビトにありがとうと言ってきた。だから、こっそりラゴウも上手い合に自分の中で區切りのようなものをつけられるのではないかという考えがずっとあった。

しかしこれは決して確定された未來の話ではない上に、あくまで自分のために協力してもらうのにも関わらず、あなたのためになるだろうという話から始めたのは不義理もいいところだと気がついたのだ。自分のに區切りをつけられる可能があるというのは、あくまで記憶を取り戻したいという自分の願の副産であって、押しつけることでない。

「初めから話をします。改めまして、私はニジノタビビト。虹をつくることと日常生活に必要なある程度以外、名前も含めて全てを忘れた人間です」

「レイン、というのは?」

ラゴウは最初にニジノタビビトと出會った時には茫然自失としていたはずなのに、たった一度、彼の前でキラが呼んだ「レイン」という名前のことを覚えていた。

「レインは、キラ……彼が私につけてくれた一つの名前です」

「あ、僕はキラ・ラズハルトと言います。ちょっと々あって宇宙船に乗せてもらっているんです」

それからニジノタビビトはずっと虹をつくることについて話をした。ラゴウもキラも何も言わずに黙って正面を向いて空(くう)を見つめながら聞いていて、ニジノタビビトの靜かな落ち著いた聲だけが響いていた。

「それともう一つ、お話ししておかなければいけないことがあります」

「……ッレイン!」

キラは「もう一つ話しておかなければいけないこと」が何なのかすぐに思い至って思わず聲を上げてしまった。

「いいんだ、大丈夫だよ」

やけに自信があるようにニジノタビビトは言ったが、「虹をつくること」についての説明をして、まだ返答も反応もない狀態でこの話をしたことはなかった。

ニジノタビビトが全てを話し終わる頃にはもうすっかり辺りは暗くなって、街燈の燈りと周りの建のかられ出てくるいくつかの明かりが三人を照らしていた。

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