《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第46話 かの憎らしき衛星セルカ

「一つ確認しておくけれど、さっきそこの彼が止めていたってことは君は現化がだってことは理解してるんだね?」

「……はい、理解しています。が、先ほども申し上げた通り、宇宙船に実験結果も殘っていますし、今まで何度も虹はつくられてきました」

ラゴウは現化の話が出た時には目を見張って両肩を上げたので流石に驚いたようであったが、それでも何も言わずに話を聞いていた。何度もニジノタビビトとキラに話を聞いてくれと追い縋られたものだから、兎にも角にも話を聞かなければどうにもならないと思ったらしい。驚きでニジノタビビトの方に思わず向けていた顔を正面に戻すと元の前屈みの姿勢になって両膝の上に肘を乗せて手を組んだ。

そうして話が終わったのを見計らってからようやく現化の認識について確認してきたのだ。

「まさか、こんな話だとは思わなかったなあ……」

ラゴウは大きくため息を吐いて背もたれに重を預けると天を仰いだ。今日はよく晴れていて、住宅もビルも周りに點在しているようなところだったけれど、り輝く星がよく見えた。その中には星クルニの周りを回る大きな衛星が圧倒的存在を持ってしてぽつねんと浮かんでいてラゴウにはそのがなんだか憎らしく見えた。

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あの衛星セルカは第六二四系に屬する星の周りを回る衛星の中で一番大きい。そのため、引力の釣り合いが取れているからそこそこの距離があるはずなのに、ものすごく大きく見える。昔は悪いことをするとあれが落ちてきてしまうからね、と躾られたものだとどうしてか今思い出していた。

いっその事あの衛星が落ちてきてくれやしないかと思わないでも無かったのだが、そうするとケイトまで巻き込まれてしまうのですぐに考え直した。すぐに考え直す程度にはケイトのことをしているし、彼は臺風の目のようにラゴウの真ん中にある。ど真ん中から多ブレることはあっても、落ち著いた凪の部分から彼が大きく外れることは決してない。

口をへの字にして天を仰いでいたが、唐突に勢いよく立ち上がると、ニジノタビビトの目の前に立ってその高長で威圧を與えながら見下ろした。

ニジノタビビトは一つ唾を飲み込んで張を顔に出しながらラゴウのことを見上げたし、すぐ隣に座っているキラも目があっているわけではないのにその威圧に圧倒されながら固唾を飲んで二人を見比べた。

への字にしていた口を一の字にしてポケットに突っ込んでいた手を出すと自分の中で納得して一つ頷いた。

「うん、やろう。やって変わるならそれが一番いい」

「え……」

あんなにも拒絶していたのに、今日はすんなり、しかも現化の話だってされたのにれてしまった。

「あの、俺が口出ししていいのか分かんないんですが、ヤケになってませんか……?」

「いや、まあヤケになってはいるけど、正直な話もういい加減區切りをつけたいんだ」

思わず聲をかけたキラにラゴウは平然と返してみせた。ラゴウは自分がヤケになっている自覚があったし、もうどうにでもなれという気持ちがあった。でも決してそれだけではない。

今日、キラがラゴウに話しかけにいこうと決斷できたのはひとえにその様子と顔とをよくよく伺ったからだった。キラが察した通り、ラゴウは今日ここ最近で一番調子がよかった。調子が良いと言ったって、なんだか気怠いとか、何もしたくない、考えたくないというラゴウにとってもなくしたいものたちがなくなっていた訳では無いのだが。

ただ何となく、今日はマシだった。こんな日が続けばもうし素直にれられであろうくらいには。因みにここ最近で調が一番悪かったのは一昨昨日で、一番緒が不安定だったのは一昨日である。

「君たちに、酷いことを言った私が言うのもなんだが、私だってこんなに苦しいのはもう嫌なんだ。何が嫌って自分勝手に周りを傷つけて、傷つけたことを自覚して自分が傷ついて……。それに何より、ケイトには心の底からただ笑っていてしいんだ」

ラゴウは苦く笑っていて、その顔には後悔と悲嘆が滲んでいた。

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