《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第49話 しい虹を

「そうか、それであの子はあんなにも大きくて、強いを持ったしい虹をつくったのか」

ラゴウはふと力して、手のひらを開きカケラをまじまじと見た。手のひらに握るこむ前と同じように衛星セルカのを反してキラキラと目に映っているはすなのに、どうしてか先程よりも強くカケラの側からり輝いているように思えた。それはまるでカケラ自を発しているかのように。

「その子がカケラを握って見た虹が、私が見た彼のとそう違わないのなら、そりゃあ確かに虹をつくりたいと思うだろうね」

「彼がつくった虹も、彼がカケラを通して見たと言っていたその前に別の星のおばあさんがつくった虹も、違いはあれど間違いなく一等しいものの一つだと私は思っています」

ニジノタビビトはカケラをどんなに握りしめても、“虹をつくること”についてカケラが教えてくれることは無かった。しかし、過去の虹を見せてくれるのだけなのであれば、それはニジノタビビトにとって不要だった。ニジノタビビトは何度虹をつくったって、どんなにたくさんの虹を見たって、それぞれのしさを持つあの七の橋をどれひとつとして忘れることはない自信がある。それこそもう一度記憶喪失にでもならない限りは。

「私は殘念ながらカケラを握っても次の虹をつくる候補以外を教えてくれることはありません。けれど、私は今まで見てきた虹を忘れることは決してないし、何より忘れたくありません。だから、どうかまた記憶喪失になるなんてことがないことを祈っているんです」

「そういえば君は、記憶喪失なんだったね。虹を見る度に何か思い出せそうって?」

ニジノタビビトはしでも虹をつくることについて、今まで虹をつくってきてくれた者たちが素敵なことをしたのだと思ってもらえるように言葉を盡くしていた。しかし、ラゴウのその言葉で思わず詰まって、し返答に困ってしまった。

「……今まで協力してくれた人々は、自ら虹をつくることをんでくれていました。私は虹をつくることとそのほか生きるのに必要なこと以外を忘れて宇宙船で目覚めたんですが、どうしてか自分は虹をつくらねばならぬと思ったのです」

ニジノタビビトは言葉を探した。前にキラにもこの話をしたことはあったけれど、そもそもあまり人には話してこなかったものだから何を言えばいいのか分からなくなってしまうのだ。

「それで初めてできた虹を見たときに、何かを思い出せそうだと思いました。それから虹を見る度に、虹以外に見えるものが、よぎるものがあるんです。それは薄ぼんやりとしてよく分からないけれど、何となくあれは、私が記憶を失う前の景ではないかと思うんです」

私はあれを思い出さなくてはいけない気がしているのだとニジノタビビトは言った。キラは既に聞いたことのある話だったけれど、自分に話してくれた時よりも、次に虹をつくる候補の人がいて今までの虹を強く思い出したからなのか、聲に悲痛と庶幾が濃くのっていた。キラは一昨昨日ラゴウにしたように、自分の溫を分け與えるようにニジノタビビトが一人ぼっちだとは思わないように背中をでた。

「私にも、あんな虹がつくれるだろうか」

ずっと呆然としたままのラゴウがふとつぶやいた。キラはニジノタビビトの背中に手をおいたままラゴウの方を見遣った。

ラゴウは、もし今の自分の殻を破る方法があるのなら、それが自分の負のサイクルを壊すきっかけになるのならと思って虹をつくってもいいと思った。それで、このニジノタビビトという人の手助けも含まれるなら自分がやったことは無駄にはならないだろうという保険もあった。だから多ヤケになりながらも虹をつくることを決められたのだ。しかし、もし、自分があんな虹をつくれるのだとしたら、それだけでもう自分は前に進めるような気がした。

「私は、今まで同じ虹を見たことはありません。でも、しくなかったことはただの一度もありません。私は全ての人が同じ考えになることにはなり得ないと思っていますから、あの虹を見てもしくないという人はいるかもしれません。それでも、」

それでも、と繰り返してニジノタビビトはピンと背筋をばして先ほど滲ませていた悲痛と庶幾を振り払って言った。

「でも、あの虹がつくられる経緯を見ている私が、しくないなどと思う日はきっと來ないでしょう」

ニジノタビビトはその言葉に“ニジノタビビト”としての誇りをかけていた。

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