《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第51話 改めて約束

ラゴウはケイトが泣き止むまでずっと額を突合せて頬を何度もでてやっていた。やがて涙が引いてくると小さく二人にしか聞こえない聲で話して、ピッタリ橫にくっついてキラとニジノタビビトの方を向いた。

「ごめんなさい。勝手に決めつけて怒鳴ってしまって」

「私からも謝らせてしい。ケイトは私の事でずっと我慢をさせていたのに、何もしてやれていなかったせいで、君たちにあたってしまった」

キラとニジノタビビトは一度お互いの顔を見てから寄り添う二人の方を見て笑った。

「私たちは気にしていませんよ」

「そうですよ。元はと言えば俺たちがお二人を引っ掻き回してしまったんですから」

そうしてやっとケイトは笑ってくれた。隣で一緒に笑うラゴウの笑い方はケイトとそっくりで、眉を八の字にしてちょっとだけ右口角の方が上がっている。キラはこれまでというをしてこなかったが、自分が星メカニカに帰っていつの日か自分が誰か唯一を見つけたのならばこんな形になれたらいいと漠然と思った。

「そういえば、ラゴウさんはどうして戻ってきたんです?」

キラはふと思い出して問いかけた。すっかり失念していたが、ラゴウとはまた明後日、と言って別れたはずなのに、すぐに公園に戻ってきていた。ラゴウは涙を流してはいなかったが、つい両目を拭うようにしてから瞬きをして言った。

「ああ、それがすっかり待ち合わせ場所も時間も決めるのを忘れてしまってね、確認しなきゃと思って戻ったんだ」

「あ!」

キラもニジノタビビトもすっかり忘れていた。ラゴウは自分が負のサイクルから抜け出せるかもしれないと浮き足立って、キラとニジノタビビトはラゴウが前向きになってくれた事で虹をつくることが進展したのが嬉しくて忘れていた。

「それじゃあ待ち合わせはこの公園にしましょう。宇宙船はし歩くんですが、その間にまた虹をつくることについて説明しますよ」

「分かった。……一つお願いがあるんだが、ケイトも一緒にいいだろうか」

ケイトは驚いてラゴウの方を見上げた。ラゴウの瞳は真っ直ぐニジノタビビト方を見つめていて目は合わなかったが、その意志の強い目を見たのは隨分久しぶりである気がした。

「……はい。ケイトさんがおそらく虹をつくることはできませんが一緒にいていただくのは構いませんよ」

「ありがとう。……ケイト、一緒に來てくれるかい?」

ケイトはまた涙がこぼれそうになった。普段ものだとかで涙を流すことはあったが、こんなにも涙腺が壊れているのは初めてだった。不安定だった緒はラゴウのおかげでだいぶ安定してきたが、ちょっとしたことで涙がこぼれそうになる。ケイトは“虹をつくること”がどんなことなのかよく分かっていなかったが、それでもラゴウにとって大きな何かになり得るのであろうことだけは分かった。

「ええ、一緒にいるわ。あなたと」

ケイトは、目に雫を貯めながら笑顔でラゴウを見つめた。

そうして改めて、明後日、朝この公園のベンチから見て恒星がラゴウの勤めるビルから顔を出す頃に、という約束をした。

「それでは今度こそ、また」

「ええ、また」

ラゴウとケイトは手を繋いで公園を後にした。二人にとって幾月かぶりの二人ぼっちの夜だった。

「……宇宙船に、戻ろうか」

「ああ」

キラとニジノタビビトは二人橫に並んでゆっくり歩き出した。もうすっかり夜になって、寒かったがそれでも不思議とどこかあたたかい気持ちがした。

ニジノタビビトは、ただ一人に向ける最を、ただ一人から向けられる最を初めて見たはずなのに、どうしてだか、それを知っている気がした。

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