ラゴウは安全裝置のカバーを外してゆっくりとスイッチを押し込んだ。そして何かに促されるかのように下ろした瞼の裏に、そっと白い景が浮かぶ。

不思議な覚だった。しかし今までに一度だけ験したことがあるような覚。カケラを握ったときの、あの激を目撃したとき。確かにあのときと似ていたが、それでも今回は自らの、自らだけのものであるのだから、慣れ親しんだ覚としの孤獨があった。

目(・)を(・)開(・)け(・)た(・)ラゴウは白い空間にいた。目の前には白をベースに青が混ざり、ところどころにあんずのった渦がある。渦は大きくラゴウの背丈よりも五十センチほど高い。橫幅は両腕をばしてもし足りないくらいある。ふと、上と下が絞られていて人口グラフのツボ型みたいだと思った。

どうしてかあれが自分のなのだろうと勘で分かったラゴウは渦に向けて一歩踏み出す。この白い空間は歩くことは出來るが、かと言って足元に床のようなものがある覚もない。まるで空を歩いているようだった。

地面の覚がないせいで膝が外に向いて空振るような変な歩き方になったが、すぐにあと五歩で渦にれられるところまで來た。

「これが、私のなのか」

ああ、私のはこんなにも綺麗に出來ていたのか。ラゴウはもっとずっと、どろどろとして手でれるのを戸うような、醜くて目も當てられないものだったらどうしようと思っていた。きっとなんて綺麗なものだけでできているわけがない。なくとも自分はそうだと思っていたから誰にも言わなかったけれど頭の片隅で怖かった。

ラゴウは自分のの渦にあんずがあることを不思議に思って、すぐに思い當たるものがあることに気がついて一人顔を赤くした。

「いや、誰にも見られていなくてよかった……」

ラゴウは両手で顔を覆って呟いてから、気をとりなおすように両頬をパンパンと軽く叩いた。

「これに、れて取り出してを付けるって言っていたか？」

ラゴウは五歩分の距離をめて、ゆっくりと手をばして渦にれた。

「あっ、う、あ……？」

これらは全て知っているものだ。ラゴウが今までじてきた考えてきたものたち。心の奧底にあって自分を支えも苦しめもするものたち。

ラゴウは糸を手繰り寄せるようにして何とか手を引く。渦から離れた右手の中には手のひらからしはみ出すくらいの小さな渦があった。大元の渦は白をベースに青が混ざり、あんずがところどころにあるのに、手元の渦は青が多く、濃く、しだけ濃い赤が混じっていた。

「やあ、私の。君は私が鬱屈なときのものかな」

そう言ってからラゴウは左手で渦を覆うようにして、しづつ力を込めて握りしめた。自分にもよくわからないが、こうするものだと思ったのだ。小さな風がラゴウの前髪を揺らす。

ゆっくり左手を開けて右手に乗っていたのはもう渦ではなかった。それはニジノタビビトに見せてもらったものとは違って、幅広の八面に近いカケラに形を変えていた。カケラは渦だった時とは異なり、そのもの自がを持っておらず、無明なカケラが濃い青や赤を反しているようであった。

「好きなと言っていたけれど、やっぱり虹をつくるんだから虹の七にしたいな」

そう言ったラゴウが最初のカケラにつけたはケイトと旅行に行った時の暖かい地域の、凪いだ海のようなあおだった。

「ねえ、本當に大丈夫なの？」

ラゴウはスイッチを押して瞼を下ろしてからときどきぴくりと手足がいたりするものの目を瞑ったままで、ケイトが隣で小さな聲でニジノタビビトに問いかけていてもそれに対する反応はなかった。

「はい。異常は起こっていませんから大丈夫ですよ」

ニジノタビビトもラゴウの邪魔をしないように座るケイトに顔を近づけるように屈んで極々小さな聲で言った。

ケイトはもどかしい思いをしながら、見た目はまるで椅子に座ったまま居眠りをしてしまったようなラゴウを、そのあんずの瞳で見守るしかなかった。