《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第61話 おかえりなさい
「ラゴウ……!」
「……ああ、ケイト」
ラゴウは瞼を揺らしてゆっくりと持ち上げた。そしてケイトが自分の名前を呼んだことに気がついてそちらの方を見たが、寢起きのようにしぼんやりとしていた。
ケイトはもういいだろうと膝に放られていたラゴウの手を両手で握りしめた。ラゴウはその覚で覚醒していく。自分はつい先ほどまで白い空間の中にいて、自分のの渦と向き合っていた。あの自分の背丈よりもほど高い渦は白をベースに青が混ざり、あんずがところどころにあるのに、手のひらに引き出すときたらもう。変に濃かったり、あるいはほとんど白だったり形が変わっているようなものばかりだった。自分はそんなに取り繕って生きているだろうかと考えはしたものの、それでも不安に思っていたような、れるのも憚れるようなものは一つしてなかった。
最後の七つ目のを引き出してカケラにして、みどりをつけたはずだ。一時的にポケットにしまったりしたカケラを両手いっぱいに持って、それで、もうこれで終わりだからニジノタビビトたちが、ケイトがいるところに戻ろうと思った。それで、それで?
そこまで思い出してケイトに握られている右手にも、膝に放り出された左手にもさっきまで持っていたはずのカケラが一つもないことに気がついて慌てて飛び起きた。
「カケラがない!」
「あっ! ラゴウさん落ち著いてください。カケラはこれから機械から取り出せますから!」
ニジノタビビトが慌ててそう聲をかけるとピタッと止まった。そういえば目覚めた後は機械のここから生されたカケラが出てくるという話を聞いたのを思い出して、思いっきり力してまた背もたれを倒した椅子に沈んだ。そして直ぐに自らの右手をし持ち上げて、眉を下げたケイトのあんずの瞳と目を合わせて軽く力を込めた。
「ハハ、ただいま、ケイト」
軽く、本當になんでもないように、ラゴウと頻繁に會っていた頃のように笑うものだからケイトは涙がこぼれないようにするのに必死だった。こっちの気持ちも知らないで、としだけ思って、泣きそうな顔を見せてたまるかと思って、ラゴウの右手を額に當てて俯き、その手を強く握り返した。そうしたら下を向いてしまったせいでぎりぎり保っていた涙がとうとうひと粒こぼれ落ちてしまった。自分だってラゴウの気持ちを推し量ってやれていなかったが、ラゴウだって私の気持ちを知っちゃいないのだ。
ケイトの膝にぽつりと濡れた跡ができたことで彼が泣いていることに気づいたラゴウは、また慌てて起き上がって何とか顔を覗き込もうとしたが、顔を逸らされてしまった。
「ケイ、ケイト? どうしたんだ?」
ケイトは口をへの字にして意地でも泣いている顔を見られたくなくて顔を背けた。それはラゴウにちょっと怒っていたのと、自分が子供のようにいじけていることが分かっていてし恥ずかしかったからだった。それでもラゴウがしばらくオロオロしているのをじて、ちょっとの怒りも恥ずかしさもすぐに気にならなくなっていった。
ケイトは自分がラゴウのことについて察するのが得意だという自負があった。これはラゴウだって思っている。それでも、ラゴウが自分ですら気づけなかった彼のことについて察することができても、彼の全てを察して理解することなど到底不可能なのだ。これはもう、致し方のないことだと言うほかない。
ラゴウは未だにオロオロとしてこちらを伺いながら恐る恐る顔を覗き込んでこようとしてくる。ケイトはそっと顔を上げてまず目だけで見返した。それからしずつ顔を上げて下からラゴウを上目遣いに見た。
「ケイト? どこか、痛いのか?」
ラゴウは今まで見たことがないくらい、困ってどうしたらいいのか分からないといった顔をしていた。ケイトはこの顔に見覚えがあった。自分が赤ちゃんの時から実家にいた犬が母親と口喧嘩をして庭の隅っこでうずくまっていた時に寄ってきてくれたときとおんなじような顔!
あの優しくてしヤンチャでころころした犬と重なって、ラゴウがよく分からない機械での現化なんてことをするのをずっと手の甲に爪が食い込むくらい力をれて手を組んで心配していたことなんてどうでも良くなった。ラゴウは無事に目覚めて、今目の前で自分を心配してくれている。しかもその顔は実家で飼っていたコーギーのレムみたいで、もはや笑いが込み上げてきた。
「ケイト……?」
「ふふ、あはは! ラゴウ、おかえりなさい!」
「……ああ、ただいま」
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