《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第65話 雨上がりの

「分かりました。それではスイッチをれていただいてからしの時間を置いて飛び立つように設定しますね。宇宙船を飛び立たせるという都合上、虹をかける場所がここになってしまうことはご了承ください」

「ああ、よろしく頼む。……いよいよ、か」

最後の言葉は獨り言のように小さくつぶやいた。確かに自分のが渦という形となったものと不思議な白い空間で相対したし、れて取り出してカケラにもした。不思議な白い空間から戻ってきたら隣にはちゃんとケイトがいたし、自らのは白い空間で見たものと全く同じものがカケラとして生された。

しかし改めてなど今までと違う角度から見つめ直したりもしたものだが、あまり自分に変化があったという実がなかった。もちろん數日前の手負いの獣のようですらあった自分はとうにいないが、それはケイトと落ち著いて話せたからと言うことも大きくて、ラゴウは現化したことによる自らの変化が分からなかった。まだ時間がそれほど経っていないからだろうか。

ただこれは現化をしたところでマイナスの影響は今のところ全くないというふうにも捉えることができるものだった。

「あ、レイン、外……」

キラがふと窓越しに外を見て何か気づいたようで、ニジノタビビトの肩を軽く叩いて外を指差した。それにつられてラゴウとケイトも窓の方に視線をやる。

「わ、雨だ……」

今日の朝確認した天気予報では降水確率は十パーセントだったのに。

ニジノタビビトは壁の方に寄っていって空を覗き込むように顔を窓に近づけた。後ろからキラも近寄って膝を折って窓を覗き込んだ。

「ああ、青空が見えてるから通り雨だろうね、多分すぐに止むよ。ただ、これはもしかすると自然現象の虹も見えるかもしれないなあ……」

キラはせっかくのラゴウの虹が自然現象の虹と被ってしまっては殘念だと思った。寫真にも絵にもそれぞれの良さがあるが、作者の異なる同じ構図のものを真橫に展示してしまってはそれぞれの良さが伝わりにくくなってしまうように、自然現象の虹が出現してしまった場合にもそうなってしまわないか心配だった。

「いや、むしろいい。これで私の虹はどうしてか現れた虹ではなくなり、特別だと知っているのが私たちと君たちだけなる」

キラの心配をよそに、ラゴウはそれをプラスに捉えているようだった。

「ここにかかるとおそらく街の方からでも見られるからね。もし、突然空にかかった虹! なんて騒がれては落ち著かない。それなら街の人たちには普通の虹と捉えてもらった方がいいな」

なるほど。確かにという強くもらかく、確かでありながら儚くもある、心と繋がるものからできるカケラと虹。むやみやたらに事を知らない人たちに騒がれてしまうというのも煩わしいかもしれない。

それに可能は低くとも現を扱うニジノタビビトのことまで知られてしまったらキラの大切な隣人で、協力者で、何より友人であるレインのが脅かされることもあるかもしれない。

「それじゃあ、虹は恒星が地平線の方に傾いてくる頃に出やすいからその時間がいいよ。多分、雨が上がったらちょうどそれくらいじゃないかな」

キラの言葉で雨が上がり次第、虹をかけることに決めた。

ニジノタビビトは最後の調整のために機械を設置している部屋に行くと言うので、ラゴウとケイトを二人きりにしようとすることもないけれどキラはニジノタビビトにくっついて行くことにした。

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