《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第74話 旅立ちの前日

「それでは本當にこれで最後になります。ご協力いただきありがとうございました」

ニジノタビビトは小さな、ポプリをれるような袋にカケラを一つずつれてラゴウとケイトに渡してから頭を下げた。

「頭を上げてくれ。いいんだ、こちらこそありがとう」

ニジノタビビトはこの虹をつくることがただのエゴではなく他人にとっても何かしら実を結ぶものであるということが嬉しくて相好を崩した。

「直ぐに旅立つのか?」

「そう、ですね、明日には……。あと生鮮食品なんかを買いだめたら旅立つ予定でいます」

ニジノタビビトはラゴウの問いに自分で噛み締めるようにして答えた。昨日二人して別れることを今から想像して泣いたものの、予定を変更するというような話にはならず、予定通りにまっすぐ星メカニカに行くことにしたのだ。しずつここや立ち寄る星々での滯在をばしたところで余計に意識して悲しくなってしまう気がしたのだ。

「そうか……。それなら今日は一緒に食事にでも出ないか?」

「そうよ、ランチにでも行って、それからお買いに付き合わせて。鮮度がいい食材を取り扱っているところを知っているのよ」

ニジノタビビトはキラの方を振り返った。とにかく今日は殘りの買いを済ませるくらいしか予定がないので、キラも問題ないと思って頷いて返すことで賛をしめした。それに、いい食材を取り扱っている店を現地の人に教えてもらえるのならばそれ以上のことはない。生活にざしたものはやはりそこに住む人が一番知っているものなのだ。

それにキラはもう急にリミットが見えてしまったこともあって、しずつニジノタビビトに振る舞いたいと思っていた料理やお菓子なんかを出し惜しみしてられないと思っていた。あわよくば何かいいレシピも教えてくれたりしないかと考えていたりする。

ニジノタビビトがし首を引きながら、じゃあと言うとケイトがパチンと手を叩いた。

「決まりね。それじゃあ準備ができたら行きましょう、そろそろお晝時だものね」

ニジノタビビトとキラが支度のためにそれぞれ自室の方に向かっているときに聞こえたのはケイトがきゃっきゃっとラゴウとどこのランチがいいかを相談している聲だった。

「お待たせしました」

「それじゃあ行きましょうか。何か苦手なものとか、アレルギーはある?」

ケイトはウキウキしながら聞いてきた。ラゴウをてんやわんやに巻き込んでしまったのであまり好かれていないかと思ったこともあるがそうではなかったらしい。

ケイトの問いにキラは軽く首を振ったが、それを認めたニジノタビビトがしムッとした様子で訂正した。

「キラは食べられはしますがネットリとした食の食べが得意ではありません。私は辛すぎるものがあまり……」

これはキラと出會ったからこそ分かったことだが、ニジノタビビトは辛いものが得意ではなかった。ある程度の辛さと胡椒が沢山かかっているくらいの辛さであれば問題ないが、キムチも何かと一緒に食べるなどしなければ正直なところしつらかった。

ニジノタビビトがキラと出會う前の食生活は、栄養が偏らないように、時々バランス栄養食品を所々に取りれてローテーションのように食べていたので分からなかった。

因みにこの事実は先日キラ出してくれたキムチチャーハンによって発覚した。キラは食以外に苦手なものがあまりないので、普段のように作ったところ、ニジノタビビトにはし辛かったらしい。

しだけ見栄を張って我慢しかねなかったキラを無事に止めたニジノタビビトは満足そうにした。

「分かったわ、やっぱりこの星でしかなかなか食べられないものがいいわね」

「それじゃあ、この星の伝統料理のカメルカっていう牛やガウニを地酒で煮たのとか、いろいろ魚介類をれたククルっていう、コロッケみたいのを出してくれるいいレストランがあるからそこに行こう」

「あの、レインが好きなんですけど甘くて味しいデザートもありますか!」

キラはニジノタビビトにネットリした食の食べが苦手だということをバラされたのがし恥ずかしくて、ちょっとした意趣返しも込めてニジノタビビトが好きな甘いものがあるかを聞いた。苦手な食べがあるというよりも、まあいけるだろうと踏んで言わなかったことをバラされたことが恥ずかしかった。

「ああ、もちろん!」

「私たちの一押しだから楽しみにしていてね」

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