《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第77話 ククルとカメルカ

「お待たせいたしました。こちらカメルカと海鮮のククル三種です」

カメルカは見た目はビーフシチューに近いもので、ククルの見た目に至っては大きめの俵型のコロッケそのままだった。カメルカはオーブンにもれられるような耐熱のお皿に盛られていて、ごろっとしたお切りにされたにんじん、それからじゃがいもがっていて付け合わせにバケットがふた切れ添えられていた。ククルは俵型のコロッケだが、しずつ形が違っていたり、に何かっていたりで中に何がっているのか見分けられるようになっている。こちらにはレタスとトマトとレモンが添えられていた。

「冷めないうちに食べな」

「はい、取り皿。ククルは中が熱いから舌を火傷しないように気をつけてね」

ニジノタビビトはケイトから取り皿をけ取ると、深皿の方をキラに渡した。

「ねえキラ、これ全部中の材が違うらしいから全部半分こにしていい?」

「ああ、いいよ。レイン半分ってこれくらいか?」

ニジノタビビトはありがとうと言ってキラが半分よそってくれた深皿をけ取って右側に寄せると、慎重に半分の位置を見極めながらフォークを使って三つのククルを割った。

「わっ」

ククルの中にはクリームがたっぷり詰まっていて本當にキラのよく知るクリームコロッケのようだった。エビみたいな甲殻類がっているらしいのは何となく分かったが、他二つは何がっているのだろうか。

「はい、キラ」

「ん、サンキュ」

キラは虹の旅人から半分になった三つのククルをけ取った。中がクリームになっているので、斷面のところからしだれてきている。

「いただきます」

キラはどちらから食べようかと思いながら抜けていた食前の挨拶をした。ニジノタビビトも忘れていたことに気がついてキラに習って手を合わせた。

ラゴウとケイトはその異文化の食事風景を興味深く見ていたが、ちょうど自分たちの食事も運ばれてきたので一度目を逸らした。

キラはまずクリームコロッケのようなククルにフォークを刺した。口に運ぶと確かに似た味だが、クリームから魚介の味がよくする。これにはどうやら白魚のほぐしっているようで、主張しすぎない味がクリームとよく合う。

「これクリームから魚介の味がしてすごく味しいですね……」

「ククルはクリームに魚介の出を使うのが一般的なの」

キラの想に対して解説をしてくれたケイトになるほどと頷きながら、ククル半個をぺろりと食べて、次はスプーン持ち変えてカメルカにっているを一つのせた。これには牛とガウニの両方がっているらしいがこれはどっちだろうか。

「わ、こっちも味しい、とろける……」

どれくらい煮込んだのか、が口の中でほろほろととろける。これは多分ガウニのだろう。こんなにらかいガウニは初めて食べた。地酒で煮ていると言っていたが、あまり匂いが強すぎないお酒なのかおの風味の邪魔していない。ニジノタビビトも思わず口元を抑えたキラを見てスプーンに持ち直してカメルカを口に運んだ。

し口をモゴモゴとかしてキラの方を見てパッと顔を明るくした。カメルカの作り方の詳細は分からないが、ホワイトシチューは作ったことがあるからレシピがあればビーフシチューなら作れるだろうか。カメルカはビーフシチューとはし味が違うが、工夫すれば近いものが作れるかもしれない。

結局キラが食事をしながらも考えるのはニジノタビビトに、ニジノタビビトが好きなものを、味しいと思うだろうものを作りたいということだった。

冷める間も無くキラもニジノタビビトもすっかりカメルカもククルも完食してしまった。ニジノタビビトはお腹を軽くさすってまだるなという確信を得るとキラの方を見た。キラはもうすでに心得たというふうにメニューを差し出していて、二人でまた一つのメニューを覗き込んで今度はどの甘いものを頼むか考え始めた。

一連を無言で、アイコンタクトのみで行っていたものだからラゴウはセットドリンクで注文したホットコーヒーを飲みながら思わず聞いた。

「君たちは……、出會って半年くらいは経つのか?」

「いや、ええと、ちょうど今日で半月ですかね」

ラゴウは左肩をかくんと落として驚いた。半年でも短いかもしれないと思うほどの息が合いようなのに、まだたった半月とは。しかしそんな短い時間でこれほどまでに親しくなった二人の目前に、おそらく永遠となるであろう別れが近づいていることを知ったラゴウにしてみればこの景はただ微笑ましいと思うだけで終わらせることはできなかった。

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