《高収悪夢治療バイト・未経験者歓迎》第10話 どちらがそれか

ベッドの上で橫たわる男へその刃がどう刺さったのかは分からない。ここからでは遠いしの腕が死角を作っていてよく見えなかった……けれどその景は凜太にとってあまりにも凄慘に見えた。

「大丈夫ですかー。これは夢ですよ。私たちが來たのでもう大丈夫です。……えっとこの患者さんの名前なんですっけ?」

「木下さん」

「木下さん。生きてますかー」

凜太は部屋のドアの位置からそのやり取りをずっと見ていた。早くこれが見えない場所に行きたい……その思いはあるが、見える景が衝撃的過ぎて逆にその場からくことができなかった。

「もう心配いりませんよ。私たちが來ましたから。これはただの悪い夢です」

桜田が勵ましながら男に近づく間もは刃を振るい続けた。何度も何度も……刺す場所を変えて、包丁らしき刃を振り下ろし続ける。

の手は青白い。けど、赤い管が蜘蛛の巣のように浮き出ている。髪は長くれて、服は雑巾みたいに汚い。典型的な霊と言えば、こんなじという見た目をしていた。

ここから見えないの顔はどんな表をしているんだろう……。

「わあ。危ないな」

桜田が無警戒にのすぐ橫まで近づくとは桜田に刃を向けた。

凜太はよくあんな化けに近寄れるなと思っていたが、案の定こちらにも危害を加える存在だった。

「増川さんお願いします」

「はいよ」

軽く答えた増川はおもむろに部屋にあった椅子を持ち上げると、あろうことかその椅子をに向かって振り回した。

衝撃をけたはベッドから振り落とされて床に倒れた。凜太の足下にちょうど顔がくる形で。

「あ。ごめん草部君」

眼鏡をかけた平凡な男なのにとんでもないことをする……。さらに増川は続けて、凜太の下で崩れ落ちたを部屋の隅に蹴り飛ばし、止めの一撃まで加えた。

凜太はその景が最も恐ろしかった。それこそが悪夢に見えた。

目を見開いて口が裂けるほど口角を上げたが、その表を変えぬまま首が折られた様子は當分目に焼き付いたままになるだろう。

「君たちはっ……。ありがとう……助けに來てくれたんだね」

「はい。もう大丈夫ですよ。こんな悪夢ぶっ壊しちゃいましょう」

男はというと……ようやく桜田の存在に気付いた様子だった。を起こし、桜田に抱きつきそうな勢いで迫っていた。

「よしよし。もう怖くない」

「ありがとう……ありがとう……君はなんてしいんだ。俺の神だ」

桜田は母のように男をれ、頭をでていた。男からしてみればあの貌の助けられたら確かに神に見えるだろう。

「ちょっと羨ましいよな」

「…………は、はい」

増川が腕を組んで言った。

「何だこれ。俺のだらけじゃないか。いってえ」

男がようやく自分のの痛々しさに気づく。現実では絶対に生きてないであろうほどまみれの手足を見て慌てふためいた。

「大丈夫です。それも夢なんでほんとは痛くないはずです。私たちが付いているのでもう一度ゆっくり眠ってみましょうか。それとも散歩にでも行きますか?」

「本當だ……。言われてみれば痛くはない。……明日も仕事だ。寢ようか」

「はい」

増川と桜田はしばらく男が眠るベッドに座って、男を寢かしつけた……。

「草部君。帰ろうか」

男が眠りに落ちたのを確認すると桜田が笑いながら言った。その顔やにはまだ男のが生々しくしたたっていた。

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