《高収悪夢治療バイト・未経験者歓迎》第12話 無理です

急いで頭から飛び降りた凜太のはそのまま空中で一回転した。見える景があべこべで……脳が揺らされているような覚がする……。

今までにない経験で、どうのバランスを保てばいいのか分からない。

それも束の間――地表のアスファルトを視界にれると凜太は頭からそこへぶつかった。を取ることもできず、刺さるように。

しかし……凜太は夢の中に留まったまま、目覚めることはなかった。

頭部が無くなってしまったんじゃないかというほどの耐え難い鈍痛。下の歯や顎の骨まで鈍い響きが通り抜けてきて、顔中が麻痺している。

それでも意識は鮮明に……ここが夢であることを認識して、早く覚めてくれることを願っていた。現実なら即死なはずなのに……早く……早くここから。

凜太は痛みで顔を歪めながらも、仰向けになり片目だけを開く。見えたのは自分が飛び降りた大學で、この狀況の解決策なんて何も示してはくれない。

どうしようもこうしようもなくて、ひたすら痛みに耐えながら自然に夢が覚めるのを待つ凜太。けれど、やってきたのは希ではなく絶だった。

空から凜太を追っても降りてきた。手を広げてとびかかるような恰好をしている。

長い髪がなびいているのが見えたら、もうその表や曲がった首を見るのが嫌で目を閉じるしかなかった。ただ、目を閉じて何も起きないうちに夢から出られるよう神に祈るしか……。

「あああああああ!」

聲が自らを破ったように飛び出して、目を開いた場所は裝置の中だった。ガラス越しに悪夢治療室の景が見える。

現実に戻ってきたことを認識しても機が収まらない。ついさっき全力疾走したみたいな覚がする。汗も額から粒になるほどかいていた。

「おはよう。草部君」

馬場が裝置のガラスを開いて、凜太の顔を覗き込む。

「寢覚めが悪いようだね。大丈夫かい?」

「はあ―――大丈夫じゃないですよ。夢の中で俺……」

「何か問題があったのかな。先に起きた2人は元気そうだったけど」

「問題なんてもんじゃ……俺はさっき死ん……」

聲に出すことでもう一度想像してしまうのが恐ろしい。馬場にどう説明しようか言葉を考えていると橫から他の人の聲がする。

「草部君起きたみたいですね」

「うん。今しがたね」

増川と桜田も凜太が起き上がった裝置の周りに集まってきて、凜太は3人に囲まれる形になった。

「それで、草部君初めての悪夢治療はどうだった?面白かったでしょ」

「全然面白くないですよ。何なんですかこれは」

「え、ダメだったの。増川君の話ではちゃんと見學してたって」

増川に一同の視線が集まる。

「初めてなのにちゃんと見れてましたよ。腰も抜かしてなかったし」

「そうでしたね。私も初めてにしては優秀だったと思います」

「だよね。良かった草部君がバイト続けられそうで。またすぐ新人がやめちゃったらどうしようか心配だったんだよね」

まだ頭に痛みがしていた覚が殘っている……。周りからは見えないように抑えていたが、手の先は小刻みに震えていた……。

気絶はしていない。目が覚める前に一瞬だけした首の痛み。ついさっき自分は夢の中とはいえ死んだのだ。

3人で話を進めているが冗談じゃない。こんなバイト……

「無理です。俺……このバイト……」

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