《高収悪夢治療バイト・未経験者歓迎》第15話 ケース2:腐った園児
「夢の中の園児達が変なんです。毎日ではないのですが頻繁に見る夢の中で、私は現実と同じように保育士として保育園に勤務しているのですが、園児たちの容姿や行がおかしくなるんです。それは形容しがたいですがとっても恐ろしく……」
準備室で増川が教科書を朗読するかのようになく聲を出す。
「このままではせっかく夢だった保育士になれたのに1年も経たずに退職してしまいそうです。現実でもいつ夢と同じことが起きるのかと園児と接しているときにビクビクしてしまっています……だって」
「それが、今日の患者さんの悪夢の容ですか?」
「そう。草部君もバイトを続けるなら、來たらいつもこの紙をチェックするようにしといて」
「はい」
続けるつもりはないけど、一応返事はしておく。馬場院長とは距離を取る必要があるかもしれないがバイトの同僚には想よくして問題ない。
「そこの掲示板にいつもってあるから、俺たちは悪夢ファイルって呼んでる。桜田さんなんかはいっつも嬉しそうにこれ見てるよ」
「へー悪夢ファイル。今日は桜田さんはお休みなんですよね」
「うん。今日は2人だね。2人だけど張しなくてもいいよ。最悪1人でもこなせる仕事だし」
だったら1人でやればいいのに……。昨日やめさせてくれればよかったのに……。凜太はそう思って、実際言葉に出そうか迷った。
結果、言うことにした。
「だったら、何で今週シフトにるバイトが1人になるってのを理由に引き留められたんですかね?」
「それはね、ちゃんと理由あるみたいだよ。悪夢から救い出してくれる人が1人より2人のほうが安心あるでしょ。だから夢にるのは2人以上じゃないとダメなんだって。院長が言ってた」
「ああ。そうなんですか」
「だから、患者に聲かけるのは草部君にも一緒にやってもらわないといけないから」
「……はい」
22時が訪れて、シフト開始となった。増川が度のきつそうな眼鏡を布で念に拭いてからかけ直すと、凜太と増川はパソコンが並ぶ患者見守り室にった。
高い背もたれが付いたデスクチェアにしては質のいいイスに並んで座る。
「まだ悪夢は始まってないみたいだね。まだ眠ってすらないかな」
「そういうのも分かるんですか」
「うん。こういう暇なときにやっておくことになってる雑用がいくつかあるんだけど今日はいいかな。草部君やめるかもしんないんだし教えるのも大変だ」
「あはは。すみません」
凜太はなんて答えていいか分からず苦笑いで返した。
「いいよいいよ。俺個人的にはバイトが増えても増えなくてもどっちでもいいから。ちょっと忙しめではあるけど、俺は暇だしね。ははは」
「これって、もしかして一晩中患者さんが悪夢を見なかったりってこともあるんですか?」
「おお。気づいたね。そう実はそれあるのよ」
「ええ。じゃあ何もしなくていい日もあるってことですか」
「たまにね。そういうときはここで寢たりスマホいじってれば終わり。だから、本當に恐怖さえ乗り越えれば楽ではあるよ。このバイト」
凜太はモニターに映し出される波形を見ながら、今日がそのたまにあるラッキーデイだったらいいのにと思った。ついでに次のシフトでも患者が悪夢を見なければ、容易にこのバイトを終わらせることができる。
「でも悪夢見れないのは患者さんがかわいそうだよね。今日の患者さんだってはるばる鹿児島から來た人だってよ」
「そんな列島の最南端から來てるんですか」
「そうみたい。地元で睡眠治療けても治らなかったんだって。悪夢ファイルにも書いてある。悪夢専門なんてうちぐらいしかないからな。高い通費も払って來たのに悪夢見れなくて帰るんじゃ同しちゃうよ」
増川という男は本當に見た目通りお人よしだ。先輩の人柄が良いというのはこのバイトの救いだ。
「あ、あとこういうのは守義務みたいなのであんまり他の人には話しちゃダメだからね」
「はい」
それでも、凜太は今日の患者さんには申し訳ないが悪夢を見ないでほしかった。自分という新人がいるから神様がうまいこと楽ができるように調整してくれることを願った。
しかし、座り心地の良いイスでだらけていると、悪夢を告げる赤いが無にも凜太の眼にうつる……。
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