《高収悪夢治療バイト・未経験者歓迎》第36話 違和

高さが不揃いな位置に出てきた目は人間と同じでちゃんと二つ。その黒目は凜太の姿を捉えていた。

「なんだこれ」

蟲や爬蟲類の尾でも見たときのような心底気持ち悪い時の聲をらす。どんな不快な生か。確かにこりゃ気持ち悪い。

「どしたん?」

「何でもない……。潰してみるわ」

し面を食らったが、凜太は再び木の棒を構える。一思いにやってしまおう。確かに気持ち悪いが、気持ち悪いからこそ叩き潰したくなった。

狙いを定めて木の棒を振り上げる――

「待って!」

振り下ろす寸前の出來事だった。強張った腕が止めきれず數cmくようなタイミング、春山が凜太と芋蟲の間にり芋蟲を庇った。

「ど、どうしたの」

「うーん。何かおかしい」

「え……」

春山はしゃがんで芋蟲を見つめだした。よくそんなに顔を近づけられるなという距離で目の付いた芋蟲を観察する。

「そんなことして大丈夫?何がおかしいの春山さん?」

「うーん……」

凜太の質問に春山は答えず、じろじろと芋蟲のほうを見ていた。赤い部屋の中で妙な時間が流れた。

「この芋蟲さん。目が綺麗じゃない?」

「は?」

「かわいくない?」

「ええ?」

どういうつもりなのかと凜太は芋蟲を観察する春山を観察していたが、春山の答えはすごく素っ頓狂なものだった。

「かわいい?それが?」

「うん」

「何言ってんの?」

「ほら」

次の瞬間、凜太は反的にがのけぞった。なんと春山は芋蟲を手で摑んで凜太の眼前へ運んだ。一瞬芋蟲についた両目としっかり目が合ってしまった。

「ちょっと何やってんの」

「気持ち悪がらないで。よく見て」

「ええ……いや……」

「ほら」

凜太はあからさまに嫌な顔をしながらも言われた通り、もう一度芋蟲と目を合わせる。

……何を言っているのかと思ったが、數秒で凜太の歪んだ繭は通常の形に戻っていった。

「まあたしかに……言われてみれば、かわいいじの目をしてるね」

芋蟲の目には涙袋もあって、ぱっちりとして大きい目にはまつも綺麗に生えていた。

「でしょ」

「でも……それでも気持ち悪いよ。それがどうしたの」

「私、この子が敵だとは思えなくて」

春山の顔は真剣だった。凜太に向けていた芋蟲を戻して再びじっくりと見る。

「それに、なんか最初からおかしいんだよねこの夢。々と。長くこのバイトやってきたけど、ってすぐ患者さんが夢だと分かってたなんて初めてだし」

「あ、そうなの。それ俺も気になってたんだけど」

「うん。なんかおかしいよこの夢……」

不穏な空気をじる。自分の知らないところでなにかまずいことが起こっているような……。ここに來て簡単なはずだった悪夢が一変したりしないよな……。

「とにかく私、この子を殺しちゃいけない気がするの。勘だけど」

「まあ、それはいいけど。それで……どうするの。俺も初心者だから分かんないけどさ、おかしくても患者の指示に従っといたほうがいいんじゃないの」

「今から外に出てこの子をあのの子に見せてみようよ。それで確認してみようよ。ダメかな?」

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