《高収悪夢治療バイト・未経験者歓迎》第43話 お互いに

二重人格になったの新しく生まれた人格のほうが、オリジナルの人格を殺す為に悪夢治療という方法を利用した。容を偽ってただの悪夢という形で芋蟲にした対象を殺す。そんなことが可能なのかは分からないけど、今回の件はそういう話か……。

凜太と春山は顔を見合わせた。お互いに何とも言えない表をしていた。自分の所よりもまず、同僚の出方を確認したかった。

その結果、同じことをして顔を見合せたまま黙る形になったが、それはそれで考えていることは同じだということが伝わった。

春山は初めから芋蟲のことを信じている。凜太も頭の中で々と辻褄が合った。だから芋蟲の話を信じる。

「信じてくれますか……。分かってくれますか……」

「はい」

凜太が答えた。今まで生理的に無理できつい目で見ていたが、それを謝るように春山に持ち上げられている芋蟲にしっかり目線を合わせた。

「ありがとうございます。実は私も……夢にるなんて信じられない話ですけど、信じてます。こんなこと本當は頼みづらいですけど、どうか私を助けてください」

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「はい」

今度は春山が答えた。すぐに答えて、力強い聲だった。

確かに夢にるなんて信じられない話だ。誰でも最初は驚くことだろう。凜太は芋蟲の言葉に非常に納得がいって、より人間味をじ、親近が湧いた。

本當の患者であるらしいこの芋蟲を助けるのには異論はない。でも、助けると言ってもどうすれば……。

「はあ……怖い」

芋蟲が悲痛な聲を息のようにらす。外ではずっともう1つの人格、今は霊になったが暴れている。家の壁を叩き続けている。凜太にとってもそれは恐怖だった。

「春山さん。この場合ってどうすればいいの?」

「どうすればいいんだろう。私も今考えてる」

「だよね。春山さんでもこんなこと初めてなんだろうね」

言わずもがな、二重人格の人間なんて極めて稀だ。日本に何人そんな人がいるのか分からない。きっと何千人か何萬人に1人くらいの割合だ。

いざ、特殊な形だがこうして會ってみて、本當にいたんだというじがする。

「どちらも夢だと分かっているけど、お互いが存在する限りこれは悪夢ってところか」

「説得すればいいんじゃないかな。話は通じるみたいだし」

「それはたぶん無理だ。俺も話そうとしたけどあれの殺意は相當だった」

「私も無理だと思います。あの子はすごく攻撃的な私だから。その……私が気弱だから……々あって、ストレスを貯めて、できた自分があの子だから。あの子は気弱な私を消して全部自分であろうとする。絶対に」

じゃあ、どちらかがいなくなるしかない……。凜太はその答えを思いついたが、そんなこと言えるはずがなかった。

この夢の中でどちらかがいなくなれば、現実でもその人格は二度と出てこないのだろうか。だとしたら、もうこれは自分の手に負える話じゃないと凜太は思った。

二重人格なら睡眠治療クリニックなんかじゃなく神科か何かに通うべきだ。

「春山さん。悪夢を解決する以外で現実に戻ることはできないの?」

「できるよ。私たちのシフト時間が來ても悪夢が終わらなかったら院長が起こしてくれる。だから待ってれば、いずれ私たちは目を覚ます」

「じゃあ、ここで待ってようよ。現実に戻って、それから院長に話してこの件をどうにかしよう。それしかない」

逃げや問題の先送りだとは思わない。だって、今ここで芋蟲を助けるとなるとあの霊と直接戦わなければいけない。最悪、もう1つの人格であるあの霊を殺すことになるかもしれない。そんなの絶対に無理だ。

「そうだね。うん。私もそれが良いと思う」

「だめっ。そんなの絶対に嫌っ」

靜かに話していた芋蟲が突然大聲を出す。今日一番、さっきまでの何倍もの大きさの聲だった。春山も同意したのにそれを否定する。

「助けてくれるって言ったじゃないですか。私もうこんな夢明日も見たくないっ」

芋蟲にとっては最もななのかもしれない。けれど他に良い道はあるか……一応、別の道を探してみたが、凜太達に考える時間はもう與えられなかった……。

赤い部屋での會議中、ずっと聞こえていた大きな音が、増して大きな音となって赤い部屋に響いた。

ずっと壁を叩いていた霊がついに壁にを開けて、赤い部屋に姿を現したのだった。

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