赤い部屋の壁はあっけなく突破された。夢の中だからか現実の壁が崩れるのとは違って見えた。大きな音と共に壁全に渡るひびがって、その後は組み立てた積木のパーツを1つ抜いたときのようにバラバラに崩れていった。

そこからは足を踏みれてってきていた。霊が。後ろから月明かりをけて、ただ立っている。

「春山さん。行って」

春山はさっきまでとは違い、すぐに凜太の橫で構えることができていた。守るものができたからか。だから、凜太は逃げるように促した。

急ぐ足音が遠ざかる。霊はまだかない。

凜太は霊のきに注意しながら、一歩前に出てしゃがむ。指を床に付けたままそ、そっと腕をばし、一応そこに落ちていた木の棒を摑んだ。最初に家にるときに持っていたものだ。

そのまま凜太は霊の顔を見上る……霊は笑っていた。だから、凜太は逃げることで頭がいっぱいになった。

春山を追って部屋を飛び出し、階段も飛び降りるように降りる。

霊は笑っていた――。夢と希の國にやってきたような恍惚とした笑顔だった。

家の玄関まで足が屆く。すると、もう一つき出す足音。今度は霊も追ってきた。

走りづらい不揃いなアスファルトの道、こけないように気をつける余裕がないから、躓くことを恐れず走るしかなかった。

強張って上手くかせない、無理やり拳を振り上げていた。

後ろから迫ってくる足音、それは自分のものよりもずっと數が多かった。

逃げられないことはすぐに分かった。真っ直ぐにしか進めないふざけた道で、敵のほうが速度が速い。さらに、今は前を走っている春山は凜太よりも足が遅い。芋蟲を抱えたまま必死に走っているけれど、もう十秒もかからないうちに追いつかれてしまうだろう。

凜太は……覚悟を決めた。揺れる視界の中、春山を見て、この子の為ならと両手の拳に力を込めた。

歩幅を狹めて、ブレーキをかけながら振り返る。足音はしていたのに霊は一瞬いないのかと思った。それも束の間、闇から高速で這ってくる霊がいた。

凜太は止まり、木の棒を振り上げ――力いっぱい振り下ろす。不意を打てるように、背中を見せた狀態から流れるように素早くこなした――。

命中した。狙い通り、霊の脳天に。

かなりの手応えがあった。絶的なで、やったことを瞬時に後悔するほどの。

自分の意志でいてそうしたのだけれど、間違ったことをしてしまった気がする。なぜだかその覚が高速で凜太の中を走り抜けた。

自分がやったのにそうなるとは思わなかった。霊は一撃でぐったりしてしまった。頭からを流しながらうつ伏せで倒れ、指先すらかなさい。

違う……そこまでするつもりはなかった。

眩暈がする。中が一瞬で熱を帯びる。気分が悪くて、木の棒も道の脇に投げ捨てた。

「……草部君？」

後ろから春山の聲がする。すごい音もした。鈍くて重いのに響く音。いくところまでいってしまったが確かにあった。

だけど、霊ならこれでもまだけるだろう。霊なら大丈夫だと思ったから躊躇しなかったんだ。本當に、本當に自分はやってしまったのか。

「やった！これで私が本だ！」

場違いなトーンの聲、反的に振り向くと春山の隣に元の子中高生の姿があった。

「ありがとうお兄さん。でも、ごめんね……そっちが本で私が偽だったの」