《高収悪夢治療バイト・未経験者歓迎》第51話 問題児

「俺、草部です。新しくここでバイト始めた。聞いてないですか?」

「ああ。お前が草部か」

「宮部さんですよね?」

「そうそう。俺が宮部や。ちょっと苗字似てんな俺達」

噂に聞いた宮部ではあるようだった男は笑った。容姿もワイルドなら笑い聲まで汚かった。

「初めまして。今日はよろしくお願いします」

「おう。よろしく。そんな固くならんでええよ…………それで、何で俺の周りはこんな汚れてるんや」

「えっと、それは……」

「そりゃ俺が汚したからよ。ははは。ビックリしたやろ。ははは」

「は……はは……」

凜太はこの短い會話だけで宮部がなかなかの強者だと悟った。今日一日の仕事が不安になる。

宮部はひとしきり笑うと散らかったゴミを片付けだした。ナイロン袋の中へ片っ端からごみを放り込んだ。凜太はしばらくその様子を唖然として見た後、著替えに取り掛かる。

「兄ちゃん學生か?」

「はい。そうですね」

「へー。勉強しとんか」

「まあ。今は夏休みですけどね」

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「そうか。だからバイトか」

凜太が著替えている時に宮部は隣に立ち、しきりに話かけてきた。その佇まい、凜太を兄ちゃんと呼ぶこと、剃られていない髭。どこを取ってもやはりおじさんに見える。

「どうや?このバイト上手くいってる?」

「はい。まあ……」

「そやな。大抵の奴はやめていきよるのに続ける言うてんねんもんな。金貯めて何すんの?」

「旅行とか行きたいですね」

宮部はその後もずっと凜太になんやかんや話しかけてきた。勤務時間が始まってもずっと。

「この前さあ、河川敷歩きょうたら下のグラウンドで小學生の野球チームが練習しょうたのよ。そんで、その小學生たちがまあ下手糞で。見とるうちに腹立ってきてなあ。遊びでしか野球したことのない俺より下手糞や」

「へー」

凜太はその宮部のどうでもいい話達を適當に相槌をうちながら聞いた。本當にどうでもいいことしか話さないので逆にちょっと面白いくらいだった。

「だから、ちょっと下まで降りて10分くらい指導してやったわ。腰の使い方はこうや、腕のばし方はこうやって言ってな。そしたらどうしたと思う?」

「えっと。お禮言われたんですか?」

「保護者に不審者扱いされたわ。すみませんお話しだったら私が聞きますよって遠回しにな。余計に腹立ったわ」

でもまあ、悪い人ではなさそうだった。よく笑うし、一定の距離を保って接していれば自分に害を及ぼすようなじではなかった。そのことは良かったと思った。

ずっと宮部の雑談の相手をするのも疲れてきたので、さっさと悪夢が始まってくれないか。始まってくれないのなら覚えたての雑務でも始めようかと思った時に赤いランプはりだした。

「お。始まったな。行こうか兄ちゃん」

「はい」

悪夢治療室にると今日も馬場が出迎えた。

「おはよう。今日もよろしくね」

「おはようございます」

馬場は前の二重人格子中高生の件があってから、凜太に接するときにし真面目な姿勢になった。前のようににやついて話しかけてこない。

「今日の悪夢はたぶん問題ないでしょ」

「はい。まあ簡単なほうな奴ですよね」

「うん。頑張ってね」

凜太が馬場と話す間に宮部は真っ直ぐに夢の中へる裝置に向かった。「うぃーす」と軽い挨拶だけで。

宮部は害を及ぼすような人ではなさそうだが、このバイトでの仕事ぶりはどうなのかと気になる。今のところ霊を怖がらないような図太さを見せているが、こういう人に限って頼りにならなかったら面倒だ。

「おやすみなさい」

ガラス越しに馬場の聲が聞こえると、眠くなる……これもどういう仕組み何だろうと気になって考えていればすぐに眠りに落ちて……次の瞬間全く違う場所に立っている。

曇り空の下のどこかの住宅街に立っていた凜太はすぐに周囲を見渡した。夢の中にって來た時の頭の切り替えは早くなった。すぐに狀況を把握する為の行を取れる。

そして、凜太の近くで不審なきをする者が1人いた……一緒に夢の中にってきたはずの宮部だ。

「ちょっとどこ行くんすか」

宮部は近くにあった住居の塀によじ登って向こう側へいこうとしていた。

「ちょっと良さげな家見つけたから」

「え」

凜太を置いて、宮部はまるで泥棒のようにその家の庭へ侵していった。

確かに、塀が高くて門もしっかりしている良さげな家だった。だけど何故いきなりその家の中へっていったというのだ。

宮部の行に戸いながらも追わない訳にもいかない凜太はその家の門が開くか確かめた。しかし押しても引いても駄目だったので仕方なく凜太も塀に向かってジャンプする。

そうしているに、窓を開けるような音がした。凜太には全く分からなかったが患者か霊の姿でも見えたのかもしれないと思った。

しかし、宮部がっていったであろう窓の先を見て凜太の考えはあっけなく打ち砕かれる。

「お。良いもんってんじゃん」

宮部はキッチンにある冷蔵庫を楽しそうに漁っていた。

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