《高収悪夢治療バイト・未経験者歓迎》第59話 ホラゲー

「私はカシスオレンジでお願いします」

「僕はビールで」

乾杯を待つ料理の香ばしい匂いが夕方起きてから何も食べてない腹を刺激して凜太の口に唾を発生させた。その唾を飲み込むときにメニュー表から手を離し、拳で口を覆う。

年齢の高い人は大とりあえずビールを選んで、周りの若いバイトの連中はんな種類があるカクテルやサワーから好きな味を選んだ。

「私レモンサワーにします」

「私も」

「草部君はなにがいいかな」

「僕もレモンサワーで」

集まった人たちはが多かった。病院で働く看護婦らしきグループが凜太から馬場を挾んで固まって座っていた。凜太よりし年上くらいの人が多くて、20代中盤から30代前半に見えるたち。やたら魅力的に見えるのは普段接することがないお姉さんと呼べる人たちだからか。

いや実際にレベルが高いと凜太は判斷した。顔で看護婦を選ぶ醫者もいると聞くしこの病院もその類なのだろうか。近くにいくといい匂いがしそうな栗の髪やアクセサリーが似合うお姉さんたちだった。

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大人の男は片手で數えられるほどしかいない。いつも晝間に馬場はこんな環境で働いてやがるのかと思う。

「おい兄ちゃん。元気か」

「元気ですって」

馬場ともう片方の隣には宮部が座っていた。もう既に酔っているかのような絡み方をしてくる。良い店で飲み會だというのに前と同じようなぼさぼさ頭をしている宮部に背中を叩かれるのは今日だけでもう四回目だ。

「院長。私ついでにこれ頼んでいいですか。めっちゃおいしそう」

「うん。何でもどうぞ」

「ありがとうございます。じゃあこの激辛麻婆豆腐も1つ」

「ええ。大丈夫ですか桜田さん。めっちゃ辛そう」

向かいに座る年上の看護婦にも負けず劣らずのルックスをした桜田がちょうど居酒屋でやっていた激辛フェアの真っ赤なメニュー表を嬉しそうに見ている。料理の寫真には唐辛子がこれでもかと寫っていて見ただけで舌がしびれるじがした。

全員に酒が行き渡ると馬場の挨拶でとまと睡眠治療クリニックの面々は乾杯した。凜太もまずは隣の宮部から次に馬場、正面の桜田とグラスを合わせる。春山とも目が合ったが席が遠いし手をばすことは無かった。

飲み會は賑やかに楽しく進んだ。凜太も酒がると上機嫌になり、日々の恐怖を忘れて聞くばかりではあるが近くの人と楽しく會話をした。最近のニュースの話題から噂話や愚癡まで。

「草部君は休日は何してるの?」

「僕ですか。えっと……」

馬場からの不意な質問がきた。それはいいのだが、そのタイミングで周囲の會話が途切れて凜太は注目されてしまった。

「最近は暑いし、家の中でゲームしてるのがほとんどですかね」

ゲームというと聞いている人にネガティブなイメージを持てれてしまうかと思ったが凜太は正直に答えた。

「へーゲームするんだ。草部君にはなんとなくゲームしなそうなイメージあったなあ。アウトドアな趣味持ってそう」

「あ、本當ですか。でも最近はばりばりインドアですよ。昔は運してたんですけど」

話を拾ったのは桜田だった。

「ホラゲーは。ねえ、ホラゲーはやらないの。私めっちゃ好きなんだけど」

「ホラゲーはやらないですね」

「ええもったいない。怖いやつはこのバイトするのと同じくらいどきどきするし超おすすめなんだけど」

「いやホラゲーは……どうっすかね」

たしかに最近のホラゲーは技の進化もあってやたらとリアルで怖いものがある。怖いものを忘れる為にゲームをしている凜太にとって絶対にやりたくないものだ。

「ねえ知ってます?最近流行りのホラゲー。この前出た滅茶苦茶怖くて難しいやつ」

「あ、あの部屋がいっぱいある洋館を見ていくやつですよね」

「そうそう!春ちゃん分かるの!?」

桜田の話に反応してしまった春山はその後、長いこと桜田のホラゲーの話に付き合わされていた。

桜田のオタクじみた早口に呆気を取られているとまた橫から背中を叩かれる。そして耳元で囁かれた。

「おい兄ちゃん。院長にこの前教えたったこと問い詰めてみ」

「え、いいですよ別に」

「ええからええから」

凜太は嫌がりつつも興味があったので聞くことにした。気になっているならはっきりさせておきたいし、何かあったら宮部にやれと言われたと言えばいい。

「院長。宮部さんに聞いたんですけど、最初に面接に來るときに聞かされたあの病院の廊下の歩き方のルールって僕を怖がらせる為だけのやつだったんですか?」

「ああ。そうだよ。今頃気付いたの」

馬場は笑いながら答えた。

「まじっすか。勘弁してくださいよ」

「ははは。まんまと引っかかってくれてたのね。草部君は純粋だな。でもそういう純粋さを計る通過儀禮でもあるんだよね」

「そんなんないでしょ……あと、あの病院にはの部屋があるって聞きましたけど本當なんですか?」

そこまで言うと宮部が急に焦って腕を引いてきた。

「ばかっ。それはまだ言わんでええ」

の部屋?また宮部君から聞いたのかい。こいつの話はふざけてばっかだからまともに相手しちゃいかんよ草部君」

「ですよね」

凜太の言葉を聞いた馬場には揺があったような無かったようなじだった。なくとも傾けていたグラスをすぐに機の上に戻すくらいのきはあった。

「そういえば草部君これも今日聞いておこうと思っていたんだけど」

「はい。何ですか」

続けて馬場は話題を変えた。

「君も悪夢を見るようになってないかな。実はこのバイトを始めて悪夢を見るようになった子が前にもいたんだよ。だから草部君ももしそうなら遠慮せず言ってね。無料で治療してあげるから」

「そうなんですか。はい……もし見たら言います」

凜太は自分とは関係のない話だという風に対応したが、の中では心當たりが暴れだしてざわついていた――。

凜太は見るようになってしまっていた。バイトを始めて間もなく見るようになった病室にいる夢。そこでにどうしようもなく慘殺されてしまう悪夢は今や凜太にとって當たり前になってしまっていた。

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