凜太は考えるよりもまず先にのスイッチを全開にした。とりあえず正面に見えている階段に向かって地面を蹴りだす。

広さも構造も分からない洋館の中を奧に向かって階段を上った。右へ行くか左へ行くか迷った階段の分かれ道では、直で右折する。

桜田は即死した。思っていたよりもずっと一瞬で無力なまま。このバイトで一番強い桜田が敵と遭遇してすぐにやられてしまった。

階段を上り切った凜太は化けのほうへ振り返る。自分を追ってきているのかいないのかそれを確認した。

手の化けはエントランスでまだ桜田の死の近くにいた。何をしているのか目を凝らすと、どうやら桜田の死を口の中にれていた。

このゲームの化けはプレイヤーを食べる。食べる為に襲い掛かってくる。そこにどんな理由があるのか知らないがそういう設定になっている。殺す為ではなく食べる為に襲う。捕まったプレイヤーは食べられてゲームオーバーになるのだ。

凜太はその景に立ち止まった。そして桜田をあっという間に食べ終えた化けが急にこちらを向くと凜太は再び洋館の奧へ走り出した。

桜田は死んでしまったが現実世界で本當に死んでしまったのではない。ただ夢の中から現実へ戻っただけだ。

凜太は逃げることに全ての神経と細胞を集中した。一瞬でこの悪夢治療を功させることは諦めた。全く知らない洋館の中を自分一人で化けから逃げ回り患者を救うなんて無理だ。

真っ暗な廊下を行き止まりになっていなそうなほうへひたすら走った。さっきの手の化けは後ろから追ってこようとしていた。ちらりとしか見えていないがエントランスで凜太を視界に捉えた手の化けはそういうきをした。4つの足音も離れた後方で聞こえる。

壁についた大量の手形と足形、何か意味ありげな絵が並んだ廊下。そういったものを見つけたら別の道へ進んだ。

まずはあの手の化けを振り切り、目指すは安全そうな部屋。ゲームなら逆に安置となる場所がしくらい用意されているはず。そこで患者の夢が覚めるまでじっとしているしかない。それしか自分も死を経験しない道はない気がする。

分かれ道をいくつか経て、もう1つ見つけた階段を上ると手の化けの程からは逃れて振り切ることができた。それが分かったのは化けと遭遇してからずっと聞こえていた音楽が消えたからだ。

ゲーム中のBGMだと思っていいはず。おそらく接敵したときの。恐怖を煽るようなピアノの音だった。高くなったり低くなったり大きくなったり小さくなったり、気持ちの悪い曲だった。

凜太が最初にその音を聞いて固まったのは凜太の悪夢で聞いた病室のがひく曲に似ていたから。BGMが無くなり靜かになった廊下で早くなった鼓を鎮めるのに努める……。

しかしBGMが止まってからものの十秒ほどで再び同じBGMが流れ出した。どういう訳なのか前と後ろを見ても何もいない。暗くて奧までは見えない。

不快なBGMの中いつ何が來てもけるように警戒していると、次第に大きな足音が正面から聞こえてきた。今度は足の化けだ。

凜太は再び逃げる為にをかした。足の化けが來たほうとは逆に向かって。

次に現れた化けは足だけが大木のように太くでかい。踏みつぶすだけで人が容易に殺せるほど。姿を見たところ廊下の半分以上の空間が足だけで埋め盡くされていた。

そして何故か上半部分はボディービルダーのようにマッスルポーズをとっていた。上腕二頭筋の力こぶをこちらへ見せつけながら迫ってきていた。

凜太は足の化けを振り切るときも慎重に道を選んでいたけれど、2個目の分かれ道を進んだ時についに先が続かない壁にたどり著いてしまった。

焦りで頭がいっぱいになる。足の化けはすぐそこまで來ていて今から道を選びなおすことはできそうにない。

しかし、凜太が訪れた行き止まりには扉が付いていた。そこがどんな部屋かは分からないがもうそこにるしか選択肢はない。

ドアノブに手をかけた――。回そうとするとホログラムのようにそこから文字が飛び出してくる。

「カギがかかっていて開かない。」

凜太は扉を暴に叩いた。ドアノブを蹴り壊そうとした。ただのゲームならゲームではできないきをすれば脆いんじゃないかと思った。

でもゲームだからこそ扉はかった。木の扉の見た目をしているけれどそれは鉄のようにくて押しても叩いても全くびくともしなかった。

そして最後には廊下の角にうずくまった……。

諦めた凜太に足の化けは容赦なく腕をばす。腕はそこまで大きくないのにもの凄い力。を摑まれてごと持ち上げられた凜太は震えながら目を閉じて覚悟した。