《指風鈴連続殺人事件 ~するカナリアと獄の日記帳~》2001年7月14日(土)

なんていうかラッキーな日だった。超幸せな1日だった!

今日はやることがなかったんで、晝に母親の作った冷やし中華を食ったあと、チャリで1時間かけて姪浜《めいのはま》のほうまで飛ばしたんだ。うちの近所にはコンビニが1軒あるくらいだが、姪浜まで來たら、ボウリングとか本屋とか買いとか、いろいろできる店があるからな。

特に理由のない旅だったんだけど、そこで奇跡。姪浜駅前で偶然、若菜と會ったのだ。若菜も暇だったので、姪浜まで來ていたらしい。なんか運命の赤い糸ってじで嬉しかった(くさい?)。

俺は嬉しかったんで、思い切って若菜をった。

「なあ、腹減ってねえか? なんかパフェとか食べにいかん?」

「え? どうしたの、急に」

「いや、腹減ってないかなって思っただけ。てか俺は減ってるんだけど」

「なんだ、そういうことか。でもいいの、パフェで? ラーメンとかじゃなくて」

「ラーメンはいいよ。リキの學割ラーメンいつも食ってるしさ」

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『リキ』ってのは俺らの高校からチャリで10分くらいのところにあるラーメン屋だ。

學割ってことで、高校生なら290円でラーメンが食える。ありがたいので俺らはよく學校帰りに食ってる。

そのラーメンは確かにうまいんだけど……。とにかく俺は若菜と、キッサ店とか行ってみたかったんだ。ぶっちゃけ行ったことないし。

若菜は、いいよ、と言ってうなずいてくれた。

俺は天にも昇る気持ちで、駅前のキッサ店にった。

なんかすげえしゃれてるじの店で、正直るのに勇気が要ったけど、俺はがんばった。

お店の人が來たので、若菜はストロベリーパフェを注文。俺はアイスコーヒーを頼んだ。

「佑ちゃん、コーヒーとか飲めるようになったの?」

店員さんがいなくなったあと、若菜は驚いたように言った。

「まあ、ときどきな。あの苦みが最近、好きになって」

「びっくり。佑ちゃんはコーラ専門だと思ってた」

「まあ中學まではな。いや、いまでも好きは好きだけど」

俺はカッコつけて言った。

うそだ。いまでもコーラが一番好きだ。

コーヒーは苦くて、あまり飲めない。コーヒー牛ですら苦手だ。

若菜は――

俺のそんな心を見抜いたみたいに、にこにこ笑って言った。

「じゃあ、大盛りにしてもいいんじゃない? わたしがおごるから」

「……いや、そこまでは、しなくていい」

「どうして?」

「どうしても」

俺は苦しい言い訳を重ねたが、若菜はそこで、はあ、とため息をついた。

「佑ちゃん、本音を言ってごらん? ほらお姉さんに言ってみな」

「…………」

「言わなきゃ、本當にコーヒー大盛りにしちゃうぞ。すみませーん、店員さん。ちょっといいですか~」

「ごめんなさい、負けました。ちょっとカッコつけてました」

「ほれみろ~」

若菜は白い歯を見せた。

「どうしてそんなにカッコつけちゃうかな~」

「よく見抜いたな。俺が本當はそんなにコーヒー好きじゃないって」

「分かるよ~。佑ちゃんのことなら、わたしはなんでもお見通しなのだ~」

さすがにこのへんは、なじみだった。

俺のことをよく分かっていると思う。

ただ、

「わたしの前で、カッコなんかつけなくっていいのに」

そう言う若菜を見て、俺は、分かってないと思った。

若菜の前だから、カッコつけちまうんじゃねえか。

他の子の前だったら、こんなことしねえよ。

やがてコーヒーとパフェが運ばれてきた。

俺はミルクとシロップをたっぷりれて、一杯コーヒーを甘くして、頑張って飲んだ。やっぱり苦い。コーヒーはうまくない。

「後悔してる? コーヒーなんか頼むんじゃなかった~って思ってる? パフェにすればよかったって思ってる?」

「……しな」

「本音を言いなさい」

「かなり後悔してる」

「素直でよろしいっ」

若菜は笑みを浮かべて、

「それじゃご褒

「え」

「わたしのパフェ、し分けてあげる」

「え、え、え」

「はい、あーん」

若菜は、自分のスプーンにパフェのクリームとイチゴのきれっぱしを乗っけて、俺のほうへと突き出してきた。

俺は正直、めちゃくちゃドキドキしていた。

だって、そのスプーン、若菜が使っていたやつじゃん。

それを使ったパフェを食わしてくれるってことは、つまり、その。

考えている余裕もなく、俺は、あごをしゃくれさせたようなかっこうで口を突き出した。

若菜がパフェを、俺の口に運んでくれる。

食べた。

……うまかった。

「おいしい?」

「……うん」

「最初からパフェを頼んでおくべきだったね~? これ以上はあげないよ? わたしのわたしの~~」

若菜は、引き続き自分のパフェを食べ始めたが、俺はそれどころじゃなかった。

最初からパフェを頼んでおかなくてよかった。俺もパフェを注文していたら、こういう流れにはならなかったと思うから。

俺は、甘くなった口の中に、ニガいコーヒーを流し込むのなんかもったいなくて、そのままぼうっとしながら若菜のことを見つめていたんだが、そんなこちらの視線に気が付いたのか、若菜はふと、顔を上げた。そして言ったのだ。

「佑ちゃん、あのね。わた(痕)

(筆者注・わた、のあとの部分はまみれになっていて判読不可能)

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