《指風鈴連続殺人事件 ~するカナリアと獄の日記帳~》2001年7月15日(日) 後半
「M高校で昔、人が死んだって知ってるかい?」
「……え?」
俺は思わず、問い返した。
人が死んだ? なに、それ……。
俺だけじゃない。安愚楽のセリフを聞いたときは、若菜もみなもも長谷川も驚愕の表をしていた。
キキラだけは、さほど驚きもせず、ただなんとなくつまらなそうな顔をしていたけど、単に話題に関心がなかったからだろうかと思った。……このときは、まだ。
安愚楽は、俺たちの反応を意に介さない様子で、語り続けた。
「死んだといっても、もう何十年も昔の話さ。……そう、それは戦前の話。いま、このM高校がある土地には、病院があったのさ。地上六階建てで、地下室まであった、それは立派な病院だったらしいよ。なんでも、舊日本軍関連の病院だったらしいけど。――太平洋戦爭のときに、前線で重傷を負ったひとはここに運ばれて、手當てをけていたそうだ。戦況の悪化と共に、薬もどんどん不足していって、運ばれてきたはいいけれどそのまま死んでしまうひとも多かったということだ」
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病院……。
軍隊の病院が昔、ここに……。
俺たちは、なんとなく、砂浜からM高校の校舎へ目をやった。
30年ほど前に建てられたらしい校舎は、綺麗だとは言えないが、それでも人が死んだとかそういう話とは無縁に見えた。
しかしこの話を聞いたとき、俺は、戦爭は悲慘だとは思ったが、正直恐怖はじなかった。
「安愚楽よぉ。……人が死んだっていうからこのM高校で殺人か自殺でも起きたのかと思ったじゃねえか。軍隊の病院って、そりゃ大昔の話だろ。悲しいことだし、しは怖いけど、もういまのM高校には関係のない話だぜ」
俺がそう言うと、若菜たちも、そうだとばかりにうなずいた。
すると安愚楽も、確かにとばかりに首を縦に振って、しかし話はまだ続きがあると言った。
「そう、病院はとっくの昔に解され、その上にこのM高校の校舎が建った。ここまでならまだいい。ただ問題は」
「問題は?」
「さっき、言っただろう。病院には地下室があった、と」
安愚楽の瞳が、不気味にった。
「その地下室が、いまなおM高校の地下に、健在だとしたら?」
「……!」
そのとき俺は、背筋に冷たい汗が流れるのを実していた。
若菜たちもそうらしい。顔を、青ざめさせていた。
「その病院の地下室は、埋め立てられなかった。なぜかは知らない。予算の都合とか、最初は再利用するつもりだったとかいろいろ言われているけどね。……とにかくM高校の地下には病院の地下室だけがしっかりと殘された。さらにその地下室。えらいことに、ただの地下室ではなかったという話だ」
安愚楽の聲が、怪しげに歪んで俺の鼓を脅かしてくる。
砂浜だというのに、波打ちの音も聞こえなくなり、しいんとした、不気味な沈黙だけがあたりに広がった。
「その地下室は、患者を治療するところ、ということになっていた。――名目上はね。……実際は、戦爭に反対したり、あるいは當時の政府にとって都合が悪い人を、病気と認定して無理やり地下に監していたらしい。
ほとんど食事も與えず、病気の治癒と稱して、拷問に近いことを日々繰り返していたという話だ。毆り、蹴り、怒鳴り、叩き、生爪を剝ぎ、指を斬る。
ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ。毎日毎晩、地下室には、指を斬る音が轟いたらしい。
ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ。病院の醫者は、政府や軍隊に盲目に従うだけだった醫者は、毎日必ず一本ずつ、患者の指を確実に丁寧に斬り落としていく。
ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ。相手の耳元でそっとささやく。――ほうら斬れた。が出ているぞ、骨が見えてる。ピンクの筋が、つやつやとしくきらめているぞ。見てみろよ、そらちゃんと見ろ。お前の指はもうないぞ。さあお前の指は、毎日しずつ消えていくのだ。
ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ。いまは殘り19本。明日には殘り18本。その次は殘り17本……。しずつしずつ、お前の指はなくなっていく――」
「やめて!!」
そのとき、キキラがんだ。
目には、涙が浮かんでいる。明確に怯えていた。あの明るいキキラが、全に鳥を立たせて、震えていた。
いや――キキラだけじゃない。そのときは、俺ももちろん、長谷川も若菜もみなもも、みんなが恐怖で顔面を蒼白にさせていた。
人を無理やり地下に閉じ込めて、拷問?
しかも連日、指を斬った、だと? ……おぞましい。
しかもそんな行為が行われた地下室が、まだ健在で、さらにその地下室の上には俺たちの高校がある? すると俺たちは、そんな恐ろしい過去があった場所の上で、毎日學校生活を送っているっていうのか?
そう考えると、怖い。
ただ純粋に、恐ろしかった……。
「安愚楽」
俺は、震える聲で、しかしはっきりと言った。
「薄気味悪い話、やめてくんねえか。みんな、怖がってる」
「……ごめんよ。怖がらせるつもりはなかったんだ」
本當かよ。
安愚楽、お前。
お前もこええよ。どうして……
どうしてお前、そんな話をしておいて、しかも俺たちを怯えさせておいて――
なんだって、そんな。
にこにこ、笑っているんだよ……?
「――本當にごめんね、山本さん。そんなに怖がらせるとは思わなかった」
「…………」
キキラはなお、震えている。
話が始まったとき、興味なさそうな顔をしていたのは、もしかして、怖い話が苦手だったからかもしれない。
「ま、その地下室の話。実はまだ噂で聞いただけでね。本當かどうかも分からないんだ」
安愚楽はフォローするかのようにそう言ったが……なんだか腹が立った。
噓か真か分からないような話なら、最初からそれを斷っておけってんだ。
「――だから僕は探している。その地下室を。噂では、學校のどこかに、その地下室へのり口がまだあるって話だからね」
「地下室へのり口? うさんくせえな」
俺は、みんなを勵ますために、わざと明るい聲で言った。
すると、わずかにみんなの表にも笑顔が戻る。
「そ、そうだよね~。そんな話、ただの噂だよね~~」
「學校に怪談はつきものよね。……困ったものだわ」
若菜とみなもは、獨りごとのように言った。
ただその言葉は、キキラを元気づけるためなのは明白だった。……キキラはまだ、青い顔をしていたが。
「怖がらせて、本當に悪かったよ。……海水浴を続けてくれ。僕は地下室探しを続けるから。……それじゃまたね、みんな。……バイバイ」
安愚楽は手を振り、去っていった。
俺たちはしばらく黙っていた。……せっかくの空気を壊した安愚楽に、なんとなく腹が立ったのもあるし、話がやっぱり不気味だったこともある。
軍隊の病院……。
地下室……拷問……指斬り……。
……地下室?
待てよ、地下室って……。
そこで俺は、ふと思い出したのだ。
以前、長谷川と子更室をのぞける場所を探したとき見つけた、地下に向かっていくあの階段を。
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