《指風鈴連続殺人事件 ~するカナリアと獄の日記帳~》2001年7月13日(金)

家を出るときに、またあの変なオジサンと出くわさないか、しだけ不安だった。

だけどオジサンはもういなかったから、わたしはホッとして、學校に移したわけだ。

登校途中に佑ちゃんにオジサンのことを話したら、なんだかすごくビックリしてた。それからものすごい剣幕で、そのままオジサンを探し出して毆りにいきそうだったから、わたしはもう「大した話じゃない」って言って話題を打ち切った。

だってそのときの佑ちゃん、ちょっと怖かったんだもん。暴力はキライです。

でも佑ちゃんが心配してくれたのは、ちょっと嬉しかったんだけど。えへへ。

そして學校が終わったあと、みんなでみなもちゃんの家に行った。

みなもちゃんの家に行くのは、佑ちゃんは初めてらしいけど、わたしとキキラちゃんは2回目だった。

だけどみなもちゃんの家はやっぱり大きい! さすが袴田工務店の社長の家だな~って思った!

あと、みなもちゃんの部屋からは海が見えるのが本當にすてき。こういう家に住みたいなって思う。

で、その海を見ながらキキラちゃんが「ウチらも海に行かん?」って言いだした。佑ちゃんも「俺はいいぜ!」ってOKして、みんなで海水浴に行く流れになった。

そういうわけで今度の日曜日、つまりあさって、みんなで海に行くことが決まった。

今年は初めての海だ。それも友達だけで行く海だ。去年もおととしも、佑ちゃんと海に行ったことはあるけれど、あのときはお母さんたちもいたもんね。ことしはわたしたちだけ。

お父さんたちに報告したら、お父さんは「今年は家族じゃなくて友達と海か」ってさみしそうだったけど、

「まあしかし高校生にもなって、親と一緒に海水浴もないわな」

「佑ちゃんもいっしょだから大丈夫でしょ、楽しんでおいで。……でも、変な人には気をつけなさいよ」

「うん、また例のコンニチハおじさんが出てきたら、逃げるんだぞ」

って言ってくれた。

確かにあのオジサンは怖いけど、まさか海には來ないでしょ。

というわけで佑ちゃんたちと海水浴決定。嬉しい! めちゃくちゃ嬉しい!!

でも、なんだか夢のよう。

あの佑ちゃんと同じ高校に通えて、いっしょに海に行けるなんて。

……いまわたし、昔のことを思い出してる。

わたしは小學3年生のとき、いじめられた。

わたし、いつも、あんまりうまくしゃべることができなくて、そのせいで、學級委員を押し付けられたり掃除當番をやらされたときもなにも言えなかった。授業中にあてられると、パニックになってなにも答えられなかった。子の一部からも「見ていてムカつく」なんて言われたりして、本當に辛かった。毎日泣きそうだった。學校に行くのが嫌だった。悪口やいじめはどんどんエスカレートして、しまいには、若菜じゃなくてバカ菜って呼ばれるようになっちゃった。あれはもう、死にたいって思うくらいきつかった。

だけどある日の晝休み。

佑ちゃんが、わたしのことをかばってくれた。

「お前ら、いくらなんでもやりすぎだろ。ずっと我慢してたけど、もう見ちゃいられねえ!」

クラスの半分以上に向かってんだ佑ちゃんは、すごくかっこよかった。

一部の男子は佑ちゃんを毆った。だけど佑ちゃんは毆り返した。それから教室は大騒ぎになって、やがてクラスの先生だけじゃなくて、校長先生や教頭先生までやってきて、クラスのみんなを叱り飛ばして――

だけどそこでいじめが発覚して、わたしをいじめてきたひとたちは、みんな親と先生に叱られた。

それ以降、いじめはとりあえずなくなった。いじめてきたひとたちとは、それからも別に仲良くなったりはしなかったけれど、なくとも悪口は言われなくなった。それだけでわたしにとっては地獄から天國。學校はまともな場所になった。

そしていじめが終わってからし経ったある日、佑ちゃんは言ってくれた。

「お前がいじめられてるの、気づいてたのに、途中までなにもできなかった。ごめんな」

その言葉が本當に嬉しくて、私は泣いちゃった。

佑ちゃんは慌てて「バカ、なんで泣いてんだよ。すぐ泣くなよ」ってんで――

「これから先、またいじめられたら、また俺が守ってやるから。だからもう泣くなよ、若菜」

そう言ってくれたんだ。

その瞬間から、佑ちゃんはわたしにとって、とても大切なひとになった。

そこから大好きになった。いまでも大好き。小學3年生のときから、中學生になっても、いまになっても、本當に好き。

――中學時代、他の男子から告白されたことはあるけど(それはそれで嬉しかった。わたしなんかのことを好きになってくれたんだから)、でもやっぱり、佑ちゃんじゃなきゃだめだよ。

やっぱり、もうちょっと勇気を出して、を頑張ってみようと思う。

いまのままじゃ、イヤだもん。もっともっと、佑ちゃんと仲良くなりたいもん。

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