《悪魔の証明 R2》第3話 003 ナスル・イズマイロフ

道中、散する瓦礫や死につまずいたりしながらも、強い足音を発生させることなく車両の間口付近へとたどり著いた。車には銃聲を鳴らした者――おそらく例のテロリストが所在するであろうことは想像に難くない。

列車のドアの前に到著するや否や、サニーと俺はそれぞれ車両の脇へとを隠した。

目の前には、四角いガラスの小窓が上部にはめ込まれたし経年劣化をじさせる鉄製のドア。発の前、車両の間口の辺りには別車両をつなぐ連結部があったはずだが、今はきれいさっぱりなくなっているようだ。

一方破の影響があまりなかったのか、ドアもガラス窓も無傷に近かった。

ハンニバル・ニトロ限定範囲指定戦略型ピンポイント弾――現代のテロリストたちがパブロフの犬のように使用する兵の名が、狀況を観察した俺の脳裏に過った。

ここからでは前方の座席しか視界にらない。

見えている範囲がな過ぎる。かといって、無理矢理正面から顔を出すわけにはいかない。考えもなしに通路を覗き込んでしまうと、テロリストにこちらの姿を視認される可能がある。

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しかし、ハンニバル・ニトロを使ったということは……いや、今は使われた弾のことなどどうでも良い。何かいい手を考えなければ袋小路だ。

どうする? 適當に窓から撃つか?

いや、もし一般の乗客がいたらどうする?

テロリストに弾が當たらない可能もある。

となると、やはり正面からり、何かしらの渉をするしかないのだろうか?

だが、果たしてテロリストが俺たちとの渉に応じるなんてことがあるのか? 下手を打ったら、こっちが先に殺られてしまう。

頭に々な臺詞が思い浮かんでくる。

窓の片隅からし中を覗き込む。

もう一度を元の位置へと戻した。

社會のゴミ――テロリストの標的にされるのはまっぴらごめんだ。

列車の小窓に視線を送りながらそう思った。

窓ガラスからは蛍燈の燈りがれていた。

列車はすでに機関部分を失っているのに不自然だ。なぜ、まだ車に電気が通っているのだろうか。列車はエンジンルームまで破されているというのに。

いや、と軽く頭を振った。

そんなことを考えている時間はない。

きっと、どこかに貯蓄された電気のおかげでまだ通電できているのだろう。

そう自分を納得させた後、間口の最上部に目を移した。

そこには六號車と書かれた小さな表札があった。

縁取りが金箔で象られており、質もそれなりに重厚だった。元々は上質なであったことをじさせるが、発で発生したと見られる煤に汚されたせいで、中央部分が今は銅板のようになっていた。

俺はサイレンサー38式を握り直した。

テロリストのものと思われる話し聲がドアを通して耳にってきたのだ。

年の聲? の聲? いや、男か……?

ドアの幅が厚いせいか、誰が何を言っているのかまったく判別できなかった。

まさか近くにいる俺たちの存在にもう気がついていて、その処遇を相談し合っているなんてことは――

いや、それはない。俺は首を橫に振った。

確かに、俺もサニーも、かなりの時間付近を探索していた。その間、奴らに姿を見られていたとしても不思議ではない。

だが、であるとすると、なぜ奴らは俺たちをその時襲ってこなかったのだろうか。

もちろん、無防備に調査を行なっていたわけではなく、人の視線は気にしていた。それを奴らが敏じとり、戦闘を避けた可能だってある。

しかし、それは単なる可能だけの話で……

そこまで考えた時だった。

突然、大きなび聲がしたかと思うと、ドン、と車両の中で銃聲が鳴り響いた。

反響音はすぐに消えた。

し待ったが、銃撃戦が始まる気配はない。

銃聲は中で鳴り、外に向けられたものではなかった。

ここから考えられるのは、一般乗客を撃った、もしくは仲間割れでもしてひとりを撃った。この二択しかないはずだ。

俺たちの存在に気がついていたとすると、わざわざそのような勘ぐれるような行をとるはずもない。殺したのが一般乗客であれば、人質にでもして俺たちと何かしらの渉材料に使おうとするはずだ。

だが、こちらに向かってくるような足音はしない。

渉の線が消えた時點で、撃ったのは仲間である可能が出てくる。となると、メンバーがひとり減ったことをわざわざ俺たちに教えているようなものだ。俺たちがこの場にいることを知っているとすると、今この時點で銃撃音を発生させることは愚策中の愚策といえるだろう。

果たして、テロリストがそのような甘い対応をするだろうか? するわけがない。

つまり、奴らは俺たちをまったく認知していないということだ。

そう考えた俺は、顔を車両へと近づけた。

辺りは乾ききった空気のように靜まり返っている。

話し聲が聞こえてくる気配は一切なかった。

いきなりドアを開けて虛をつけば、し相手が多かったとしても一網打盡にできるはずだ。

この奇襲は功する確率が高い。

今までの経験値から、俺はそう確信していた。

もしこいつらがエスパーであるというのであれば、俺たちのこの行を事前に読むことは可能だろう。

無論そんなモノがいるとすれば、の話ではあるが。

超能力とやらを信するとある教団に対する嘲りを心の中で唱える。

額から大量の汗を流しし怯えた表をしているサニーを見やった。

すかさず小さな聲で指令を送る。

「五秒だ、サニー。五秒後に突する」

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