《悪魔の証明 R2》第4話 009 アカギ・エフ・セイレイ(1)
サイコロステーキの塊が腹の底に辿り著いたのを第六で察した僕は、チェックのクロスがかかったテーブルにフォークを放り投げた。
次の瞬間には、へ水を注ぎ込む。
油で汚れた口を迷彩ジャケットの袖で軽く拭ってからグラスをテーブルへと置いた。 すかさず戦場の兵士が落とした小銃を拾うかのように再びフォークへと手をかける。
そして、鉄板の上で焼かれている片へと、さらにフォークの切っ先を突き刺そうと手を前に差し出した。
対面からぷっと吹き出す聲が聞こえてきた。
はっと顔を上げる。
スピキオ・カルタゴス・バルカが優しげな笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「まるで戦爭のようだね、アカギ君。服が大変なことになっているよ」
冗談めかした口調で言う。
「あ……」
反的に自分の服を見やった僕は、思わず絶句した。
ジャケットの袖には。アイビーリーグのパーカーの部には黒い油。カーキのカーゴパンツの上には細かい片が散していた。
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おもむろに、対面のスピキオへと目をやった。
暗い焦げ茶のスーツを著込んでいるスピキオは落ち著いた様子で、ナイフとフォークを用に扱い、サーロインステーキを切り刻んでいる。首元に巻いた白いナプキンには塵ひとつ付著していなかった。
あれ? 自分とは大違いだ。
このときになって、ようやく僕は自分のこれまでのマナーが尋常でなく恥ずかしいものであったことに気がついた。
「すいません」
謝罪した後、さらなる気恥ずかしさが僕の心を襲ってきた。溫が10度程上昇した気がした。
「私は一向に構わないよ、アカギ君」
グラスを軽く持ち上げながら、スピキオは言う。
「君はまだ若いんだ。マナーなんてこれからいくらでも覚えればいい。ただ、早食いは健康に良くないからね。落ち著いて、ゆっくり噛んで、食をすり潰してからに流し込んだ方がいいよ」
「は、はい」
悟ったようなスピキオの臺詞に僕はようやく自分を取り戻した。
姿勢を正す。そして、今度はゆっくりとサイコロステーキにフォークを突き刺した。
片を口にれて、らかいの繊維をしっかりと何度も噛み砕く。次第にその片は狀化していった。完全にとなったのを確認しそれをに流し込むと、本當のの甘みが僕の胃を満たしていった。
「それで……なんだけど、アカギ君」
スピキオが何やら含みのある言い草をする。
最後の片を食べ終えた矢先のことだった。
「率直な……まったくと言っていいほど素樸な疑問をしていいかな」
「はい、もちろん構いません」
「では、アカギ君。尋ねよう。君はなぜロサンゼルスに行こうとしているんだい?」
なぜ、急にそんな質問を……いや、その前に、なぜ、ロサンゼルスにって……
回答に窮してしまった。ただ単純に、思いつきでとしか形容しようがない。
いや、こんな理由では呆れられてしまう。
そうだ……ここはもう一度考してから答えるべきだ。
やはり思いつきだったのか……思い付き? 本當に、そんな単純な理由だったのか? あれだけ苦労したのに。あれだけ抜け出したかったのに。
だから、思いつきなんかじゃないだろう。
変化だ。そう、そうだ、僕は自分を変えたかったんだ、僕は……いや、もっと正確に言うと……
「――自分の置かれた環境を変えたかったから、ですかね」
し考えた末に回答を導き出した。
「なるほど、変えたかった……」
とスピキオは微妙な頷き見せたが、なぜか直後に目を閉じる。そのまま、眠ったように目を開けようとしない。
なんだ……?
どうして良いかわからず、僕はもじもじとテーブルに目を落とした。
靜まり返った空気を伝導するかのようにウェイトレスが食を運ぶ音が聴覚へと流れてくる。
「僕は、中學を出てから、必死にアルバイトをしてたんです……」
「ほう、アルバイトね……」
スピキオが若干重々しい口調で相槌を打つ。
それ以上會話は続かなかった。
再び訪れる靜けさ。
後方の席にいるカップルのを切り刻む小さな音がここまで聞こえてくる。
極度の迫。張り詰めた空気。だめだ、これ以上耐えられない。
そこから僕は、堰を切ったように語り出した。
「だけど、一向に暮らし向きは良くならなくて。そんなことよりまず、僕、親がいないんです。だから、家賃は自分で払わなければならなくて。そ、そう。僕が住んでいた孤児院は中學までだったから。いや、例えその施設にいたとしても、ぎりぎりの生活が続いていたと思いますけど……とにかく、こんなことだったら、トウキョウにいても仕方がないって思い立って――全財産のほとんどをはたき、ロサンゼルス行きのチケットを買いました。もう國際共通分証明書くらいしか手元にないくらいです。ロサンゼルスに移住すれば、何かが変わるかもしれない。そう……そう思ったんです」
支離滅裂ながら長臺詞を最後まで語り終えた。反応がないその場の空気に不安になる。
何かまずいことでも言ってしまったんだろうか?
顔をそろり、そろりと前に戻した。スピキオはすでに目を開けていた。
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