《悪魔の証明 R2》第5話 004 マウロ・パウロ

部屋の中央に置かれているセミダブルのベッドの上に腰をかけていた僕の額から、するりと汗が下へと滴り落ちた。そして、その小さな雫が、につけているクールネックセーターの白い生地に半明のシミを作った。

「マウロ、大丈夫かい?」

はっと顔を上げた。

視線の先にいるのはフリッツ・リットナー。心配そうにこちらを見つめていた。

しまった、このままでは信頼を失ってしまう。

とばかりに、僕は目に薄らと決意の火を燈らせた――ように見せかけた。

一応はやる気をじ取ってくれたのか、フリッツはトレードマークの青いニット帽の位置を直した後、にこりとした笑顔をこちらに送ってきた。

そして、その彼に僕の方からも微笑み返そうと、し口元を歪ませた矢先のことだった。

がばり、という音が、ルーム六に鳴り響いた。

アイボリーのレースブラウスを著込んだ茶髪の、シャノン・マリア・クロロードがベッドから起き上がってきたのだ。

急に上半を立たせた反で、丈の短いダブルボトムスカートから健康的な大部がわとなっている。だが、シャノンはそれを気にする素振りも見せず、し時代遅れにも思えるワンレングスの髪をさらりと後ろに流した。

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焦げ茶の目で隣にいた僕の顔を覗き込んでから、「ねえ、本當に大丈夫なの? 十五になったばかりの子供で」と、フリッツへ問いかけた。

は僕に対する嘲りを隠そうともしない。

「シャノン、それについては、心配ないよ」ライダーズジャケットの襟に手を通しながら、フリッツは即答した。「マウロは信用できるやつだ。問題なく――そう、計畫通りに事は進むよ……あの計畫通りにね」

この臺詞の何かが癇に障ったのか、ふん、と鼻を鳴らすシャノン。足を床に下ろし一息れてから、背後へとを振り向けた。

「あなたも同意見なの? シン」

壁にもたれ掛かっていた縦に細長い風の男――シンが、隣に置いてあったバイオリンケースの上に手を置いた。

短く「ああ」とシャノンの質問に答える。

言葉を終えた拍子に彼の蒼白のシャツの襟元から無造作に垂れていたネクタイがかすかながらに揺れた。

そのネクタイの上にあるシンの強面の顔に似つかわしい鋭い目へと僕は視線を送った。

こいつの目は狂気を帯びている、と心の奧底で囁く。

もし、今余計な一言でも彼に向けて吐いてしまったとしたら、突発的に毆りかかってきそうな気さえした。

今日初めて會ったとはいえずいぶんと長い時間一緒にいたのだが、まだ彼の名前しか知らないのはその予のせいだった。要は極力僕の方から接を避けるようにしていたということだ。

今更この期に及んであえて関わるまいと、僕はシンから目を逸らした。

ちょうどその先にあったドアが鈍い音を立てて開く。

「フリッツ帰ったぜ」

と、威勢の良い聲が聞こえてきた。

見覚えのあるふたり組が、颯爽と開いたドアの奧から現れた。

フリッツと初めて會った時一緒にいた極端に長の低い方と高い方。確か、小さくてのような顔をしている男はアルフレッド。大きくてごつい顔をしている方は――ブランドンといったはずだ。

あの時のカジュアルな出で立ちと違い、ふたりはライトグレーのスーツにを包んでいた。同じタイプのスーツを著て似たような白いをしているが、長差がかなりあった。

加えて顔は似ても似つかないので、誰も彼らを兄弟とは思わないはずだ。だが、実際にはそうであるとフリッツからは聞いていた。

「アルフレッド」

シンが小男へ呼びかけた。

壁からを引きはがして急に歩き出したかと思うと、アルフレッドの目の前に立ちはだかった。

「どうだったんだ?」

続けて訊く。

いささか挑戦的な口調だった。

そんな調子で問いかけられたら、誰だって腹立たしい。案の定、アルフレッドは怪訝そうにシンを見上げた。

一瞬間が空いたが、すぐに、ふん、と顔を逸らす。

顎をしゃくり上げながら、後ろにいるブランドンへと何やら合図を送った。

すると、アルフレッドを押しのけ、シンよりも図の大きい――ブランドンがのそりと前に出てきた。

シンに近づいてからポンと彼の肩に片手をかける。

まさに一即発。

そして、これから喧嘩でも始まるのかと思った僕が素早くを固めた瞬間だった。

「ほんと、相変わらず、おまえは無想なやつだな。シン」

と軽口を叩いてから、ブランドンがぷっと笑い聲をあげた。

「ああ、まったくだぜ」

アルフレッドも微笑んで――敬の意を表してだろう――シンの腹部に軽く拳をめり込ませた。

手を引いた後、へへっと笑うアルフレッド。彼の頭をでながら、「久しぶりだな、アルフレッド」と、シンも上機嫌な聲を出した。

これを見た僕がほっとで下ろしたのは束の間だった。

「久しぶりね、チビ」

どこからかアルフレッドの長を卑下する臺詞が吐かれた。

その聲の正は、先程ベッドから立ち上がったばかりの、いわずと知れたシャノンだった。

「うるせえ。相変わらず、だけはでけえな、デカ

吐き捨てるようなじで、アルフレッドが言い返した。

お互いに鋭い視線を送り合う。

またふざけているのだろうかと推察したが、今度は迫した雰囲気が流れたままだった。

どうやら、メンバー全員がフレンドリーだというわけではないらしいな。

その様子を眺めた僕はそう思った。

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