《悪魔の証明 R2》第16話 015 アカギ・エフ・セイレイ

車両の照明に照らされた鉄橋の側壁が先の見えないようなじで続いていた。

常に同じ風景だな。

半刻程前から窓の外を眺めていた僕が、初めて外観に対して持った想はこれだった。

退屈を持て余すかのように目をし下へ持っていく。

やはりスピキオさんが言った通りだ。

壁と車両の間に異常な程の幅がある。

で呟いてからひとりで頷いた。

スピキオに聞いた話によると、ひと昔前のリニア新幹線は線路と側壁両方に磁界を発生させる機械を埋め込み、その磁力で車を持ち上げなければならなかったそうだ。

両端を側壁に挾まれ窮屈そうに走っていたとも彼は言っていた。

だが今はラインハルト式フライング・レイルという単で車両を浮上させる線路が開発されたおかげで、側壁とスカイブリッジライナーの間に子供が砂遊びできるほどのスペースがあった。

そのスペースの拡大に乗じて、列車のサイズも拡大し、現在のスカイブリッジライナーは縦も橫も昔の列車の約二倍。寢臺車の各部屋に余裕を持ってセミダブルのベッドが置ける程、その車は大きくなった。

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とそこまで思って、ぽかんと空いている隣のシートを僕は見やった。

先程までシートにあったスピキオの小さなおが造り出した型はとっくに消え去っていた。

そういえば、ずいぶんと長い間スピキオさんはお手洗いに行ってるんだな。

何気なく思った。

スピキオと初めて出會ったのは、スカイブリッジライナー十六時の便に乗り込んだ僕が出発間際、自分の手に余る大きさの荷と格闘している時のことだった。

屆きそうで屆かないところに棚があり、僕の長ではバックを奧にれ込むことができず困っていたところに、そこを通りかかったスピキオが後ろから聲をかけてきた。

「六號車。五番シートは、ここでいいのかな?」

あまりにも穏やかな表で訊いてきたので、僕は思わず黙り込んでしまった。

一方のスピキオは意に介さないといったじで、ひょいと僕のバックを持ち上げ棚の奧にそれをしまい込んでくれた。

一瞬の間が空いた後、僕は我に返り、「は、はい。ここで大丈夫です。いや、それよりも、あ、ありがとう」と禮を言った。

しどろもどろになって、つい変な言葉遣いをしてしまった。

恥ずかしさとがあいまって額から大量の汗が流れてきた。どういう態度を取ればいいのか、その時はまったく思いつかなかったのだ。

やはりそれがおかしかったのだろうか、スピキオは頬に笑みを浮かべた。

「さあ、座ろうか。どうやら隣同士のようだしね」

「は、はい。ありがとうございます」

禮を言い直してから、僕は自分の名を告げた。

「ああ、よろしく。アカギ君。私の名は、スピキオ。スピキオ・カルタゴス・バルカ。スピキオで構わないよ」

――出発間際、このような話すきっかけがあったおかげで、座席についた後はスピキオとの會話に困ることはなかった。

スピキオは持參の手帳をたまに読んでいる時間はあったが、僕が退屈しないよう積極的に話しかけてくれた。

道中、ひとりで暇だろうと思っていたから、隣がスピキオさんで助かったと心僕は彼に謝した。

だから、そのまま彼と一緒に食事に行くことになったのも自然な流れだった。

スピキオとの出會いから今までを一通り思い返した後、シートから腰を浮かした。

他の車両との連結部とは違い、六號車と寢臺車の連結部には仕切りドアはない。その代わりにといったじで紫のカーテンが間口に敷かれている。

僕はそのカーテンからってくる人間を観察することにした。

が、ちょうど人の往來がない時間帯だったのか、カーテンが開く様子はまったくなかった。

結局、観察を始めてから五分程時間が経った後、ようやくカーテンが橫に引かれた。

最初にってきたのは、ピンクのカーディガンを羽織った老婆。続いて、スピキオが――ってくる気配はなかった。

はー、と僕が何度目かのため息をつき、下を向こうとした矢先のことだった。

「坊や」

しゃがれ聲が耳にってきた。

顔を元に戻すと、前方には先程のカーディガンを著た老婆。手に持ったカードを差し出してきて、「これ、坊やのかい?」と、押しつけるかのように確認してきた。

カードを落とした覚えがなかった僕は首を振ろうとしたが、老婆は強引に僕の手を取り、無理矢理カードを持たせてきた。

そのカードは國際共通分証明書だった。

手にした瞬間、まず僕の目にったのはその中にある寫真だった。何とも目つきの悪い男が寫っていた。金髪のオールバックにスーツ。犯罪者のような面構え。

誰だ、この人相が悪い奴は。

最初はそう思ったのだが、右側を目にれた時、僕の瞳孔がぎょっと開いた。

視線の先にあったのは名前欄。そこにスピキオ・カルタゴス・バルカと印字されていた。

こ、これは……

僕は心は凍りついた。

ただ旅行するだけだったら、國際共通分証明書は不要であるはずなのに、なぜスピキオさんはこんなものを持っているのだろうか。

もしかして、僕と同じくロサンゼルスに永住を考えているのかも――そんな素振りは一向に見せなかったのに……

いや、今考えるべきはそんなことじゃない。

このスピキオ・カルタゴス・バルカは僕の知っているスピキオさんとは別人。あのスピキオさんは自分の名前を偽裝している――ということは、スピキオさんは僕を騙しているのだろうか。

そこまで思って、いや、と僕は再び首を橫に振った。

単に寫真寫りが悪いだけだ。よく見れば、目元や、髪型以外は、完全にスピキオさんそのものじゃないか。

それに貧乏人の僕なんか騙したところで、彼に何のメリットもないはずだ。

カードの寫真を見つめながらそのようなことを思った。

そこで、「アカギ君」と通路の方からスピキオの聲が聞こえてきた。

なんて間が悪いんだ。

名を呼びかけられた僕は、びくびくとしながら顔をそちら側へと向けた。

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