《悪魔の証明 R2》第17話 013 セネタル・スワノフスキー
様々な人種の人間が視界の両端にっては消えていく。
先ほどまで私が所在した車両の中の方へと目をやってみると、弁當を食べている者、眠りこけている者、赤ん坊をあやしている者。それぞれがそれぞれ、多種多様な行をしていた。
あの金髪の大男は一向に見當たらなかった。
それは四號車も同じ。座っている人間が違うだけ。棚におかれた荷、人々の行、どれも似たようなものだった。
「例の大男はここから先の車両に絶対いるはずだが――殘念ながら、現狀どれがそいつのアタッシュケースかわからない」
クレアスの橫に並びかけながら、私は言った。
「確かにシルバーのアタッシュケースは數が多過ぎて調べてられない。それより、男の特定を先にした方がいいかもな」
クレアスが強い口調でそう返してくる。
その後四號車を抜けた私たちは、次の三號車をしながら黙々と前進し続けた。
だが、この車両にもめぼしいものは見つからなかった。
そして、二號車にった時、重くなっていく一方の雰囲気を変えようと、軽い小話を始めることにした。もちろん目は周囲に配りつつだ。
Advertisement
「クレアス。おまえ、エリシナのことをどう思っているんだ?」
開口一番場違いな質問を投げかけた。
「どう……どうって?」
訝しげな顔をしてクレアスが訊き返してくる。
「あいつは、本當にいいだ」
斷言するかのように言った。
「まあ、それはそうだと思うよ」
眉をしかめながらも、クレアスは同意する。
「クレアス、あいつが、両親は亡くしているのは知っているよな?」
「ああ、それは知っている。確か、自殺だったよな」
「そう、自殺。生活苦でな。で、その時、親戚に養子縁組をされた妹がいることは?」
「……いや、聞いたことがないな」
クレアスは首を橫に振った。
これを見た私は、エリシナのやつ、やはり妹のことは何もこいつに教えてないのか、と吐息をついた。
「両親が死んだ時、エリシナは高校卒業間近だったから引き取られなかったんだが、妹さんは親戚に引き取られたんだ。エリシナに生活能力がないという理由でな。その時は、ずいぶん悔しい思いをしたらしい」
「悔しいって、何で?」
「その親戚は、エリシナの分と折半される……妹が得るはずの両親が生前懸けていた保険金――自殺だから、貰える金は安いものだったらしいが――それが目的だっただけで、まともに妹さんを育てる気はなかったんだ。満足に食事も小遣いも與えられていなかった妹を見て、エリシナはすぐに家庭裁判所へそれを訴えた。だが、家庭裁判所はまったく稼ぎのないエリシナに妹を育てる権限を與えなかった。だから、合格していた國立大學を蹴って、妹さんがエリシナが危険だからという理由で大反対していたのに、てっとり早く稼げる私設警察に就職したんだよ。いち早く妹を親戚から引き離すためにな」
「……そんなことがあったのか」
「結局、自分の稼いだ金を妹に送り続けて、無事、妹はその親戚の家から抜け出られたらしいんだが――もうずいぶんと長い間、妹とは疎遠になっていて、お互い連絡さえとっていないらしい」
「私設警察に就職した件で仲違いしたからか? 信じられないな」
クレアスが若干呆れた聲で想を述べる。
「ふたりとも強なんだろう。何せ、あの気の強いエリシナとその妹だからな。喧嘩はいつまで経っても終わらないはずだ」
「まあ、そうだろうな」
「いや、言いたいのはそんなことじゃない。言いたいのは、そんな狀態になった後も、エリシナは妹の銀行口座に送金を続けているって事実だ。あの子が困ったらだめだからっていう理由だけでな。な、いいだろ?」
「だから、セネタルに言われなくても、それはわかっているよ。なんで、そんなことを何度も俺に確認してくるんだ?」
「なんだ、その――」一旦言葉を濁した私だが、意を決して再び口を開いた。「私設警察にって、うちみたいな潛を基本とするチームにれられちまったもんだから、さらにエリシナと妹さんの間が疎遠になってしまったような気がしてな。実は、あいつをうちのチーム――スカッドに引きれた張本人は俺なんだよ。の新人の配屬が社ドラフトで決まるってのは、おまえも知ってるだろ? そのドラフトで、私はエリシナを一位指名したんだ。で、競合多數の中、つい引き當てちまったんだよ。だから、リーダーとしても責任をじているわけだ。だからだな……エリシナに……その幸せになって貰いたいんだよ。とんでもなく幸せにな。あいつはおまえの三つ上だが、おまえになら、それができると思っているんだ」
「なるほど、セネタル。何を言いたいのかと思っていたら……俺にエリシナと妹の仲を取り持てって言いたかったんだな。若干、面倒な気がするが――まあ、いいぜ」
親指を立てながら、クレアスは言う。
クレアス・スタンフィールド……なんと鈍いやつ。
おまえが、ではなく、私が、おまえとエリシナとの仲を取り持ちたい、と言っているのだ。
なぜ、それが理解できないのか。
私は図らずも強く頭を振ることになってしまった。
【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺愛され聖女に目覚める
※舊タイトル【追放のゴミ捨て場令嬢は手のひら返しに呆れつつ、おいしい料理に夢中です。】 「私はただ、美味しい料理を食べたいだけなんだけど」 幼少期にお腹を空かせてばかりいたため、食いしん坊 子爵家の養女となり、歌姫となったキャナリーだが、 他の令嬢たちは身分の低いキャナリーを標的にし、こきおろす。 「なんでもポイポイお腹に放り込んで、まるでゴミ捨て場みたいですわ」 不吉な魔力を持つ娘だと追放され、森に戻ったキャナリー。 そこで怪我をしていた青年二人を助けたが、 一人はグリフィン帝國の皇子だった。 帝國皇子と親しくなったキャナリーに、 ダグラス王國の手のひら返しが始まる。 ※本作は第四回ビーズログ大賞にて、特別賞とコミックビーズログ賞のダブル受賞をいたしました! 目にとめていただき、評価して下さった読者様のおかげです。本當にありがとうございました! 【書籍情報】 2022年10月15日に、ビーズログ文庫様から書籍として発売されます! また、書籍化にともないタイトルを変更しました。イラストは茲助先生が擔當して下さっています! 先生の手による可愛いキャナリーと格好いいジェラルドの書影は、すでにHPやオンライン書店で解禁されていると思いますので、ぜひ御覧になっていただけたらと思います! 中身は灰汁をとりのぞき、糖分を大幅に増し、大改稿しておりますので、WebはWeb、文庫は文庫として楽しんでいただければ幸いです。 【コミカライズ情報】 コミックビーズログ様などにおいて、10月5日からコミカライズ連載がスタートしています! 作畫はすずむし先生が擔當して下さいました。イメージ通りというより、はるかイメージ以上の素敵な作品になっています!漫畫の中で食べて笑って話して生き生きとしている登場人物たちを、ぜひチェックしていただきたいです! 【PV情報】 YouTubeにて本作品のPVが流れております! キャナリー役・大坪由佳さん ジェラルド役・白井悠介さん と豪華聲優様たちが聲を當てて下さっています!ぜひご覧になって下さいませ! どうかよろしくお願いいたします!
8 76エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。もう一度もらった命。啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。 前世の知識を持った生き殘りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、アルファポリス、ツギクルにも投稿しています。
8 108殺人狂の隣に
―あなたは正義と愛どちらを貫く?― 川橋高校3年、橘明日翔はごく平凡で充実した毎日を過ごしていた。しかし、とある事件がきっかけに彼の人生は崩れゆく。 *ほぼ毎日投稿 *グロ描寫あり
8 196日本円でダンジョン運営
総資産一兆円の御曹司、笹原宗治。しかし、それだけの金を持っていても豪遊はしなかった。山奧でひっそりと暮らす彼は、愛犬ジョセフィーヌと戯れるだけのなんの変哲もない日々に飽きていた。そんな彼の元に訪れた神の使いを名乗る男。彼との出會いにより、ジョセフィーヌと供に異世界でダンジョン運営をすることに。そんなダンジョンを運営するために必要だったのが、日本円。これは、笹原宗治がジョセフィーヌと供に総資産一兆円を駆使してダンジョンを運営していく物語。
8 72幻想魔動人形記
新・幻想入りシリーズ とある事であっさり死んだ未練たらたらの青年、気持ちを新たに取り敢えず閻魔の所に行こうとするも、謎の光(魔法)の穴(円)に吸い込まれてしまう。新たな人生の幕開けとして・・・ 穴に吸い込まれた護速(ごそく)霊夜(リョウヤ)は、魔動人形に取り込まれ、新たな體を得る。 この話はそんな青年の幻想録だ
8 133Licht・Ritter:リッチ・リッター
ここは日本、生まれてくる人間の約90%は魔法・能力をもって生まれてくる時代。 そんな日本で生活する主人公、耀 練(かがやき れん)は様々な騒動に巻き込まれ、それに立ち向かう。 彼自身にも色々謎が多いなか、一體どうなっていくのか。 魔法の世界がやがて混沌にのまれる時...全ての謎が明かされる。
8 68