《悪魔の証明 R2》第19話 016 アカギ・エフ・セイレイ

スピキオは心配そうな表をしてこちらを見つめていた。

この様子から推察すると、現時點で僕に対し何か含むようなところはないように思える。

「大丈夫だったかい?」

と、尋ねてくる。

「あ、あの……」

僕は口籠った。

この國際共通分証明書を手にしていること自、非常にまずい。何も知らないスピキオさんには、どのようにけ止められてもおかしくない。

「あの、おばあさんが僕に……」

そこにいるはずの老婆を引き合いに出して、この狀況に至った経緯を説明しようとした。

だが、そこで予想外の事態が発生したことにより、僕がその先の臺詞を吐くことはなかった。

老婆がいたはずの場所――そこはすでにもぬけの殻だった。

あの老婆はどこに行ったのだろうか。

まさか、明人間だったとか。いや、あんなお婆さんの明人間がいるものか。

と頭に混をきたす僕。それを目に、スピキオはゆったりとした腰でシートに腰を下ろした。

「なんだ、さっきのやりとりを見てなかったのかい。あの老婆はスリだよ」意外な臺詞を述べた。「手洗いに行く途中すれ違った時に、ポケットにった手帳を盜んでいったのさ。今、返してもらったけどね」

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「え……」

僕は言葉を失った。

呆然とする僕の目の前で、し暗い赤の手帳をひらつかせながら、スピキオはさらに言う。

「もちろん、彼には、もっと文句をつけようとしたんだ。だけど、ひと睨みしたら、どこかへ逃げてしまったよ」

ひ、ひと睨みって――

薄い笑みを浮かべるスピキオを僕は恐々と見上げた。

手をし震わせながら、國際共通分証明書を彼の手前に差し出す。

「あのスリ、こんなものまでスっていきやがったのか」

スピキオは顔をし赤らめた。

「この寫真――別人のように見えるだろう。本當は誰にも見せたくなかったんだけど……仕方がない」と前置きしてから、再び口を開いた。「まあ、正真正銘私の寫真だから、安心していいよ。といっても、この寫真の髪型がつい最近までやっていたドレッドヘアだったら、こんなこと言っても君は信じなかっただろうけどね」

ドレッドヘアって、スピキオさんが……?

いったい何が……

僕は片眉を上げた。だが、スピキオの穏やかな顔を見てそれ以上追求することを止めた。

「でも、よくあの人が、スリだってわかりましたね」

この僕の臺詞に対し、當然といったじで薄い息を吐く。

そして、なぜか手帳を開いてから、スピキオは獨白を始めた。

「それは簡単だったよ。本當はスられた瞬間に、気づくべきだったことはさておきだ……食堂車にある手洗いを出たとき、スリにあったことに気づいた私は、まず事を荒立てないよう注意した。なぜ騒がなかったかというと、これだけ人がいるのだから、車掌に言いつけたところでスラれたは返ってこない可能が高いと考えたからだ。數のない乗務員がひとりひとりの荷をあさるわけにはいかないからね。だから、こういったケースでは基本、現行犯で押さえなければスラれたものは返ってこないと思った方がいい。となると、私としては犯人がくのを待つしかなかった……さて、ここからが核心なんだけど――そこにる前に斷っておかなければならないことがある。実は私は日常的にあることを心がけているんだ」

「あること……ですか?」

「そう。私はいつも出會った人の顔を一時的に覚えることにしているんだ。その理由は用心深い格をしているからとしか言いようがないけど――それで、手洗いに行く前、そこの通路ですれ違った彼の顔は覚えていたんだ」

「だから、彼を探していた……ということですか?」

「そう述べると若干語弊がある。當然途中何人もの人とすれ違ったから、この時點ではあくまで老婆はスリの候補のひとりというだけだったからね。だから、探していたのではなく、しばらくの間、スられたと思われる場所――寢臺車と六號車の様子をうかがっていたというのが正解だ。私には犯人が犯行現場に帰ってくるという確信があったからね」

「確信があった……?」

「だって、スリとしては気味が悪いだろう。騒ぎが起こってもいい頃なのに、何の聲も聞こえてこない。だから、老婆は不安になってスリを働いた場所に戻ってきたんだ。放火魔が現場に戻ってくるという話を聞いたことはないかい? まさしくそれだよ。だから、彼は戻ってきた。私がどんな行をしているか観察するためにね。無論、私に顔を見られていない、もしくは覚えられていないという前提だけど」

「だけど、老婆の予測に反してスピキオさんは彼の顔を見ていたし覚えていた。となると、もう老婆が犯人であると斷定するのは簡単だったということですか?」

「その通り。手洗いを終えた人間が、手洗いのある食堂車両、寢臺車両方面から六號車方面に去っていったにも関わらず、こちらに戻ってくる必要がある人間はそうはいない。ましてや、その近辺で、うろうろしている人間などいるはずもない」

「なるほど。結局、寢臺車近辺に戻ってきたのは、彼だけだった。そして、その場をうろついていたから、スピキオさんは彼を犯人だと確信したということですね」

「その通りだ、アカギ君」

スピキオはこくりと頷いた。

凄い。

運の要素が含まれているような気もするが、それでも偶機を悠々と待てるこの男には、敬というより畏怖すらじる。

このスピキオならこれもわかるかもしれないと思い、「スピキオさん。なぜあのお婆さんは、僕に聲をかけてきたのでしょうか?」と僕は尋ねた。

すると、スピキオは失笑にも近い吐息を鼻腔かららす。

「老婆は君をカモだと判斷したんだよ。私を探している最中、たまたま風からして一人旅をしていそうな年を見つけた。そこで、彼は、私の証明書を見せて君が悩んでいる隙にスリを働くことを思いついたんだよ。ひとり旅の人間は話しかけられた見知らぬ人につい心を許してしまいがちだからね。特に若い年齢の人間だと、それは顕著だ。若者は世界の人間全員を友達だと錯覚しがちだからね。そう、世界に住む人間全員が宇宙船地球號の乗組員だと勘違いして……ああ、しまった。こんな言い方だとまた誤解をけそうだね。悪い風に取らないでくれないか……そんなことより、アカギ君。君はジャケットの右ポケットにお金をれているだろう。念のため、スラれてないか確認した方がいいよ」

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