《悪魔の証明 R2》第21話 017 シャノン・マリア・クロロード(2)
次に、を前に突き出して車掌のを奧へと押しやった。
シャツの最も突起した部分にれそうになる度、車掌は「え、え」と慌てながら、それを避けるかのようにを引いた。
そのままじりじりと間合いを保ちながら、私と彼は機関室の中へとっていった。
ふたりのが完全に中へった瞬間、ドアはひとりでに閉まった。
と同時に、アタッシュケースを足元に置く。
カツン、という音が靜かな機械音を奏でる機関室に鳴り響く。
次に一瞬の隙も與えないよう素早く姿勢を整えた。
車掌は、「な、何なんですか、あなた……」と戸いながら尋ねてきた。
この反応は當然だろう。
何事が起こっているのかまったく理解できないはずだ。
その問いに答えず、車掌の腹部に拳銃を持っていった。
絶対に外さないよう拳銃の切っ先を制服にひりつかせる。
「ねえ、車掌さん。よくこの拳銃を見てね」
車掌に優しく指示を送った。
一瞬爭うような姿勢を見せたが、車掌は拳銃を軽く押し込むとすぐに観念したようで、「何がみなんだ?」と諦め聲で尋ねてきた。
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「だから、列車を止めてって、さっき頼んだでしょ」
先程とは一転して、強い口調で言う。
相手の狀況に応じ態度を使い分けるべきことは、ARKの訓練で初めに習うことだ。
どれほどそれが実踐で上手くいくはわからないが、とにかく今はやってみることが大事だ。當然だが、スカイブリッジライナーのハイジャック経験などない。だから、教えられたことには忠実に従うべきだ。
脅しの意味を込めて、顔を極限まで車掌に近づける。ごくりと唾を飲み込む音が車掌の元から聞こえてきた。
「わ、わかった。だが、スカイブリッジライナーを止めるためには、後ろにある機材を作しなければならない。だから……後ろを向いていいか」
車掌が確認してきた。
ふーんと軽く唸ってから、再び視線を車掌に戻した。
彼のけない表から推察すると、外部に連絡しようとしているわけではなさそうだ。
どうせ薄給しかもらっていないのだろうから、會社に対する帰屬意識もそうはないだろう。また、抗うにしても、一介の車掌が拳銃に立ち向かえるほど強い勇気があるはずもない。
さらにこの狀況で、スカイブリッジライナーが止まったとしても、彼の責任を追求されるはずもない。
「聞き分けがよくて助かったわ。後ろを向いていいわよ」
こくりと頷いてから、車掌は縦臺の方へとをやった。
「妙な真似をしたら、撃ち殺すわよ」
念のためさらに脅しをかけておいた。
「わかった」
短く了解してから、車掌は決して大きくはない背中を私に見せた。すぐに手がレバーの上に置かれる。
「止まるには、初めにスピードを落とさなければならない。急停車すると、立ち歩いている乗客に危険が及ぶからね」
律儀に斷りをれてくる。
「あ、そう」
私がそう短く返事をすると、車掌は頷きもせずゆっくりとレバーを下ろした。
続いて車掌の手は縦臺の上のスイッチへとびていく。
パチ、パチ、と小気味の良い音が機関室に鳴り響いた。
よくこんな複雑な機械を自分の手のように扱えるものね、と車掌の職人技に私は小さなを覚えた。
「これで作業は終了だ。スカイブリッジライナーは徐々にスピードを落として、おみ通り最後には停車する」
車掌は抑揚のない聲で言った。
スカイブッリッジライナーのフロントガラスから外の様子を観察してみると、車掌の宣言通り風景の過ぎ去っていくスピードが徐々に落ちていっているようだった。
「さあ、もういいだろう。何が目的か教えてくれ」
車掌は懇願するかのように言う。
私の目を見るためか、こちらを振り返ろうとした。
そのタイミングを見計らっていた私の手が車掌の口へとびる。
口を塞がれた車掌の目は恐怖からか大きく見開いた。
彼の顎に余った方の手を持っていく。
れたと同時に顔を人間がかせる可域以上に捻り上げた。
鈍いが私の腕に伝わってきた。
車掌は低いうめき聲をあげてから力なく地面に崩れ落ちた。
凍らせた目で死となった車掌を見下ろす。
「まるで糸の抜けたり人形ね」
不謹慎な比喩を述べた。
くるりとを翻してから、出口へと向かう。
発するまでそれほど時間はない。
こんなところではまだ死ねないとばかりに思わず早足になる。
まだ終われない。フリッツやミリアのために、私にはまだやるべきことがある。
そう思ってはいたが、私はドアノブに手をかけたところでぴたりと足を止めた。
先程ドアの近くに置いたアタッシュケースを橫目で見やった。
ケースは沢のないプラスチック。まったくありがたさをじないシルバー一のデザイン。そして、角張って持ちにくいグリップ。これを初めて見た時の想は、とてつもなく安っぽいということだけだった。
こんなちんけなケースの中に車両二臺をピンポイントで破できる高能な弾がっているなんて想像がつかない。
ハンニバル・ニトロ。果たしてどのような咆哮をあげてくれるのかしら。
そして、機関室の無機質な天井を見上げながら私は思う。
とうとうこの弾を使うときがきたのね、と。
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