《悪魔の証明 R2》第24話 018 セネタル・スワノフスキー(2)

結局、もっともらしい――もとい噓の理由をつけて、ウェイトレスに年に関する報の提供を依頼することにした。

馬鹿正直に真実を話して、騒ぎでも起こしたら元も子もない。

年が高名なテロ組織、ARKとの関與が疑われている人であるとそのまま彼に伝えてしまうと、車が一斉にパニック狀態になってしまう。

テロリストが存在することは、未だ私たちとそのテロリスト自しか知らないのだ。

「今、車で発生したスリの捜査をしている最中でね。彼にはそのスリの嫌疑がかかっているんだ。だけど、私には彼がスリを働くような人間には見えない。ゆえにこのまま彼に職務質問をするのは気が引ける。無実の人間を理由もなしに疑いたくないからね。だから、スリが発生した時間帯、彼が、いつ、どこで、何をしていたかというのが知りたいんだ。とりあえず、彼がいつからあの席にいるのか、教えてくれるかい?」

「スリ……ですか。年って、あの奧に座っている男の子のことですよね。いつからって――」

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そう聲を零してから、ウェイトレスは天井に顔を向けた。

口元の薄いマニキュアが淡い照明により引き立ち、妙にっぽく見えた。

「ああ、その年だよ。で、いつからいる?」

「ええっと、彼なら十分程前からあの席に座っていますよ。れ替わり立ち替わり誰かが話しかけてましたから、何か変だと思っていたんですが――やっぱり何かしらの事件に関係があったんですね」

「いや、まだ事件に関與しているとは……まだ容疑者でもないよ。嫌疑がかかっているというだけだから」

年の立場をわざと曖昧に濁すことにした。

事を荒立てないため、彼をスリの犯人に仕立てあげることはできないからだ。

「あら? そうなんですか。まずいこと言っちゃいましたね、私」

「いや、私の言い方もまずかった。で、その話しかけた人たちというのは、もしかして、ひとりはライトグレーのスーツを著た――人目を引く程の大きな男ではなかったかな?」

「そうですね。そののスーツ姿の大きな背丈の人でしたね。あ、後……彼はの人と食堂車にってきました。これは使える報かはわかりませんが、そのの人は、ずいぶん安そうなブルゾンを著ていましたよ」

ブルゾンを著た……

それを聞いた私は、鼻息を荒くした。

「參考になったよ、ありがとう。で、そのの人のことなんだけど、スタイルが良くて……もしかして、手にシルバーのアタッシュケースを持っていなかったかな?」

最終確認の意味を込めて、そう訊いた。

ケバいファッションの割に――と前置きした後、ウェイトレスはこくりと頷いた。

想定に間違いはなかった。やはりあのもテロリストの一味だったのか。

私はで気概を吐いた。

「……すまないが、このことは他言無用だ」

とウェイトレスに斷ってから、席を立ち上がった。

もはや正面をきって探りをれなければ埒があかない。それに風だけで判斷すれば、あの年が一番組しやすいはずだ。

彼の仲間は判明しているだけで三人。人數はもちろん不確かだが、いても十人以下といったところだろう。

だが、その全員が今はこの食堂車、ないし周囲にいないこと私は確信していた。

食堂車でアタッシュケースを所持している人間は彼以外いないことからも、そうであろうと推定できる。

彼の行を監視しているとすると話は別だが、もしそのような奴がいれば、クレアスかエリシナがすでに私の元へ聲をかけにきている。

現狀を鑑みると、その監視さえ行なっている可能は薄いはずだ。

これが意味するところは、彼のみがこの車両の破を擔當している可能が高いということだ。

そして、自、逃亡する前提の破。いずれにしても、発に巻き込まれる危険がある以上、彼の仲間がこの場にいる理由が見當たらない。

あくまで推定とはいえここまで積み重なると、もはや現在彼しか食堂車にいないと斷定してしかるべきだろう。

周囲の狀況から鑑みると、素早く年を対処してしまえば、他のテロリストに気づかれず、洗いざらい吐かせることができるはずだ。

今がチャンスだ。席に行って無理矢理にでもアタッシュケースの中を確かめてやる。

気合いをれ過ぎてオーバーに腰を席から浮かせたせいか、ウェイトレスはその場でびくっとを後ろに引いた。

その拍子に、テーブルとウェイトレスの間にできたわずかな隙間をうように通り抜ける。

その瞬間だった。

予期せぬ衝が私を襲った。何もされていないのに、なぜかが大きく橫に揺れたのだ。

し先にあった窓の外を確認すると、すぐにその原因はわかった。

過ぎ去っていく背景の速度がかなりのペースで落ちている。つまり、スカイブリッジライナーが減速しているということだ。

急いで私は年へと目を向けた。

彼もこちらを注視していた。當然、ふたりの視線はぶつかり合った。

どうやら自分が私設警察であると完全に認識されているようだ。だが、もはやそんなことを気にしてはいられない。

私は一刻も早く年を拘束しようと歩くスピードを上げた。そして、間もなく年の座るテーブルに到著した。

「いったい……何をやったんだ、おまえは。吐け」

開口一番、ぐらを摑んでそう尋ねた。

年の小さな目玉が私の方へと向いた。

かと思うと、年は額から大量の汗を流して、はあ、はあ、と挙不審な吐息をつき、私の腕へと手をばしてきた。

な……どういうつもりだ、こいつは。

年に腕を摑まれた私は、素直な疑問を心の中で述べた。

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