《悪魔の証明 R2》第32話 023 フリッツ・リットナー

そこまで考えたときだった。カチャリという音がした。

撃鉄の音、いったい誰が……?

音のした方向へと顔をやってみると、そこにはシャノンがいた。

の手の中には當然かのように拳銃があった。

「仲間を殺してはいけないというルールもないわ」

そう宣言するや否や、安全裝置を外したばかりのそれをシンの後頭部にひりつけた。

「おい、シン、シャノン。いい加減止めるんだ」アルフレッドが再度止めにった。「こんなことをしている間に乗客が逃げっちまうぞ。こんな夜間に外へ出られたら、探すのに手間がかかるだろ」

これを聞いてようやく駄々をこねるのを諦めたのか、シンはちっと舌打ちをしてから、ショットガンの銃口を僕から外した。

「おい、アルフレッド。俺を舐めるな。俺は夜間でも目が効く。訓練でそれはわかっているだろう」

そうぶっきらぼうに言うと、シンは背後にあるシャノンの拳銃を暴に振り払った。

次に首を強く振りながら、ルーム六のドア側へと歩き出す。

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「まずいな」

通路へと消えて行くシンを見ながら、僕はそう呟いた。

あの様子では勢い余って六號車にいる乗客を全員殺してしまうかもしれない。もしそれでスカイブリッジライナーにいた乗客すべてが全滅となると、自分の命まで危なくなってしまう。

かといって、六號車に向かったシンを止めることはもう不可能だ。信じたくはないが、この狀況下では先ほどまで僕を殺そうとしていたシンを信じるしかない。

そうの中で零してから、僕自らも出口へとを向けた。

「シャノン、アルフレッド、ブランドン。シンは今のところ放っておく。僕たちは寢臺車に生存者がいないか探しに行くとしよう」

三人を引き連れ寢臺車の通路へとった。

その際、ちらりと六號車へと目を向けた。

シンはすでにその中にいるようだ。

車両連結部にあった仕切りのカーテンはシンが勢いよく開けたせいか、壁際にとどまったままになっていた。おかげで六號車にいるシンの行を寢臺車側からでも容易に観察できた。

「俺はARKだ!」

シンが予定通りの臺詞を乗客に向かってぶ。

計畫通りのそれを聞いた僕は、ほっとで下ろした。

とはいえ、安心するのはまだ早い。今のうちに部屋を探索するべきだ。

寢臺車のいずれかの部屋に人がいればシンが六號車にいる全員を殺したとしても、最低限の生存者を確保できる。

であれば、期待できない彼にすがる必要はない。

乗客を脅しているシンから目を切って、ルーム四のドアを開けた僕はそのままの勢いで部屋に足を踏みれた。

「誰もいないな」

続いて部屋の中にってきたアルフレッドが僕の背後で呟く。

「いや、アルフレッド。あそこを見ろ」

若干焦った聲で、窓の方へと彼の視線をった。

まずい――

窓が開いている。

わざわざあんなところから、好き好んで乗降する人間はいない。

ルーム四にいた人間はシンが六號車を襲ったことに勘づいて、次にこの部屋がテロリストに襲われると見越し、あの窓から逃げたのだろう。

「普通の人間にこんな真似は不可能だ。このような判斷をするのは――」

そう臺詞の途中までを言って、深く吐息をついた。

シンが六號車を襲ってからまだ一分も経っていない。それでこのように手際よく寢臺車から逃走するなど一般の乗客ができることではなかった。

「私設警察しかいない。どうやら、ここから逃げたようね」

シャノンが僕の臺詞の先を続けた。

それを聞いて軽く頷いた後、じろりと目を窓の外に向ける。

先に人は見えない。

私設警察の連中はここからでは視認できないところ――おそらく車両の死角にすでにっているのだろう。

「窓から顔を出すのは危険だ。私設警察のやつらに狙われるかもしれない。アルフレッド。君は、シンが六號車を去った後、座席に人が殘っていないか確認してくれ。ブランドンは外に出て、ここにいた私設警察を探せ。いいか、今回は誰も殺すんじゃないぞ。生存者を確保するんだ。あの様子じゃシンは全員殺してしまうかもしれない。くれぐれも早まった真似はするな。テロリストであるとも悟られるな。生存者が私設警察というのはまずいが――この際、仕方がない」

急いでアルフレッドとブランドンへ指示を送った。

「おい、フリッツ。おまえはどうするんだ?」

アルフレッドが思いもしない質問を投げ返してきた。

自分の指示に対し、當然考える中で最も短い返事が彼らから返ってくると想定していたのだが、どうやらそれは間違いだったようだ。

「部屋をすべて探し終わったら、シャノンとルーム六で待っている」

怪訝に思いながらも、僕は即答した。

「おいおい、おふたりさん。俺とブランドンだけ戦場に向かわせて、おまえらは高見の見ってわけかい」

「そういうわけじゃない。僕は君たちの頭脳だ。そしてシャノンはそのサポート。別に高見の見をしているわけではない」

この説明に対しアルフレッドはなぜか薄気味の悪い笑みを見せる。

続けて、首を軽く鳴らしながら言う。

「フリッツ――さっきはここで撃ち合いが始まったら困るから、シンを止めたんだ。別におまえに危険が及んだからってわけじゃない。なあ、ブランドン」

「ああ、その通りだ。アルフレッドの言う通りさ」

「聞いての通りだ、フリッツ。だから、俺たちもあいつと同じくおまえに完全服従する気はない。もうすでに金は貰っているからな」

「アルフレッド。もうしフリッツを安心させてやれよ。大丈夫だ。俺たちはARKのルールを破ろうなんて気はさらさらない。シンとは違うからな」

「ああ、そうだな。ブランドン。フリッツ、安心しろ。無論、お前を殺そうなんて気もない。ただちょっと楽しむだけだ。それならいいだろう?」

「……なあ、フリッツ。ここで誰も殺さなかったら、俺とアルフレッドにとっては本末転倒だ。まあ、そう心配するな。乗客に正がバレないようこそこそとやるからよ」

「フリッツ。言ってなかったが、俺とブランドンがおまえの仲間になったのは金の件も多はあるが、実は捕まらない場所でリアルFPSがやりたかったからなんだよ」

アルフレッドとブランドンの真意を聞いた僕は、ちっ、と舌打ちをした。

切羽詰まっているシンの心ならまだ理解できる。だが、こいつらの言はただの猟奇殺人者のそれだ。

僕は完全に人選を間違えてしまった。

で深く後悔した。

仕方がない。あのルールに則り、こいつらを今ここで殺してしまおうか。

狂気が一瞬頭を過ったが、寸前のところで思いとどまった。

乗客の人數、さらに私設警察の居所が把握できていない今、彼らは敵に近いとはいえ一応の味方だ。

このタイミングで、その味方の數を減らすのは得策ではない。

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