《悪魔の証明 R2》第34話 040 セオドア・ワシントン(1)

「昨年発生したスカイブリッジライナーのテロについて、その後の捜査狀況は? また、先日のテロとの戦爭発言の意図を教えて頂けますでしょうか」

大量のフラッシュに囲まれた私に向け、記者が質問してきた。

まだ続けるつもりか。ったく、しつこいやつらだ。

記者の質問を無視して 私はちらりと腕時計を見やった。

もう小一時間この攻撃が続いている。確か、會見の時間は十五分だったはずだ。

いくら質問が多數あるからといっても、そろそろ終わっても良い頃合いだろう。

そう思った私は、首をぐるりと背後に回した。

であるミハイル・ラルフ・ラインハルトに視線を送る。

すぐに、あの野郎、と私は額に青筋を走らせた。

ミハイルが、我関せずといったじで顔を橫に背けたからだ。

こいつ、たかだかの分際で。

と鼻息を荒くしたが、すぐに元へと顔を戻し笑顔を造った。

苛立った表しでも見せると、明日の新聞の表紙一面を飾ることになってしまう。

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ましてや、ネットとなるとその瞬間の寫真が拡散され……もう、その先のことは考えたくない。

「大統領。テロは過去もう幾度となく行われていますが、これに対する防護策はないのでしょうか。政府の無策が世論で騒がれておりますが、見解をお願いします」

先程とは別の記者が尋ねてくる。

見解? 見解と言われても――頑張りますとしか答えようがない。

それにテロは、私が大統領に就任するしない関係なく大昔から発生している。

無策というのであれば、先人たちにまず文句を言ってしいものだ。

憤然とした心持ちになり、強く鼻から息を出した。

だが、そのような回答をしたら、世論どころか國會で大問題にされ自分の進退問題に関わってしまう。

と、気を取り直した。

そして、大統領が答えに窮したと見るや、この顔のない人間たちはにたかるハイエナのように、次々と獰猛に知る権利とやらを行使してくる。

しばらくしてテロの話題に飽きたかと思えば、「政教分離について進展はありましたか」とか「セオドア大統領。企業から不正獻金をけ取られたと報道されておりますが真実ですか。また、あなたの政黨から……」というような、およそテロに関係のない質問ばかり。

「いや、それは今関係ないでしょう」

そう注意したのだが、返ってくるのはもちろん怒號だけ。

これでは、話にならん。

頭を軽く振り、逃げるように私は壇上を下りた。

芝生の上を移する最中も、記者たちは私に質問を浴びせかけてくる。

こんなやつらは即刻退散させた方がいい。

私はSPに命令して、飛びかからんばかりに近寄ってくる記者たちを制止させた。

だが、それに負けじと、ジョージ・A・ロメロの映畫に出てくるゾンビのように止めにったSPの腕を乗り越えようとする記者たち。

蠢く彼らの手が肩にれる。

セキュリティー対策はこのようなじで大丈夫なのかと毎回不安になる。

それだけならまだしも、今回は私の後頭部にれようとする輩までいた。

園庭が目の前へと近づいてきた。

大挙差し迫る彼らから、ようやく離れることができたのだ。もうしでせっかく植したが奪い取られるところだった。

やれやれ、蟲どもが。

愚癡を零しながら、そのまま邸のエントランスへと向かう。レンガ造りの間口が瞳に映る。

そこでほっと一息ついた。

ようやくハゲタカどもの喧噪から逃れられる――はずだったが、私のこの思いが葉えられることはなかった。

り口の正面にある柵の前には、大衆が押し寄せていた。

大きなプラカードを手にもって、口々に私や政府の方針について不平不満をぶちまけている。

節度ある記者とは違い、民衆の方はテロやらデブやらハゲやら、言いたい放題だ。

それでは飽きたらず、石や卵までこちらに投げつけてくる。

前に銃を持たせた軍人を配置しているのに、それがまったく効果をなしていない。

くっ、今度はこの白蟻どもか――

もうたまらないとばかりに、歩く足の回転の速度を極限まで上げた。

邸の中へ飛び込むと、急いでたちにドアを閉めさせる。

外部の聲がまさしく蟻のささやきに変わった。

害蟲どもが。

と心の中で悪態をついてから、私は今度こそほっとで下ろした。

だがその直後に、「大統領、お話が」と、今もっとも會いたくない人の聲が背後から聞こえてきた。

こいつは――いや、振り返るな、振り返ってはならない。

そう思いつつも、私はつい振り返ってしまった。

やはりそこにはそいつがいた。

限りなく生気がみなぎった目。金髪のザンギリ頭。スーツの下からでも、筋が浮き出て見える分厚い板。そして、先程私を窮地に追い込んだ男。

「何だ、ミハイル」

うんざりとしながら、その名を呼んだ。

こいつの話を聞くといつもろくなことがない。

時と場合によっては、彼の父ランメル・ラインハルトよりやっかいなやつだ。

いっそ、記者たちと同じように無視してやろうかと思ったが、他のたちの手前、それもできない。

にも似た気持ちになった私は、大きく口から吐息を吐いた。

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