《悪魔の証明 R2》第37話 034 シロウ・ハイバラ

正門からって真向かいにある大きな校舎の地下に、シロウ・ハイバラこと俺が所屬している第六研の研究室がある。

第六研とは、正式名稱國立帝都大學超常現象懐疑論研究所第六研究室のことで、超常現象や超能力者の能力を懐疑的な視點から研究する単なる一研究室のことだ。

正式名稱はあまりに長ったらしい名前なので、學生たちからは第六研という略で――まったく親しまれていない。

その実、彼らはこの名前を正式名稱で呼ぶことさえ忌み嫌っている。

なぜなら、この世界では超常現象はこの世に存在するものとして広く人々に認知されているからだ。

第六研は――超常現象懐疑論研究所という名前が一部にっているからには、超常現象を研究していて――多なりとも懐疑的な意見を持つ者の集まりであることは、誰にでも容易に想像できる。

ゆえにその集まりと関わり合うことは、就職を前提に帝都大學へ學してくる學生たちにとって非常にまずい。

超常現象が認知されている社會ではそれを認知させる側の人間の権力が非常に大きくなる。語るまでもないが、ゆえに超常現象を否定する側は自然と不利益を被る。

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要は認知させる側が會社の至るところにいて、そいつが面接になる可能も多大にあるわけだから、超常現象懐疑論的な研究に関わった生徒は必然的に著しく就職しにくくなるというデメリットを持つことになってしまうのだ。

こういった現狀もあり、俺を含めた第六研のメンバーと極數しか省略形で超常現象研究所第六研究室を呼んでいる者はいない。

そして、就職の圧倒的不利を顧みず第六研に所屬しているメンバーたちは、これも語るまでもないが、超能力で人を騙す行為は許せないという正義に燃えた者が多い。

といっても、その人數は俺、シロウ・ハイバラを含めて五人しかいないのだが――

そんなことを考えている最中のことだった。

「ねえ、シロウ。これ、おいしいよ」

隣での聲がした。

第六研の研究室へ向かって黙々と歩を進めていた俺は、はっと我に返った。

聲の主は俺の隣を歩くジゼルだ。ペロペロとソフトクリームを舐めながら、溶解したアイスのようにぼやけた目でにこりと笑いかけてきた。

第六研究のメンバー、ジゼル・ムラサメ。

俺は先にメンバーになっていたこのジゼルに頼みこんでこの第六研にった。理由は至極単純で、もっと自分を楽しませたいというポジティブなものだ。

それ以上でも以下でもない。

一方のジゼルは、教室で寂しくぽつんとひとりでいるところを第六研教授東城レイを含めた殘る三人のメンバーにわれたから、というのが第六研に參加したそもそもの機であるらしかった。

當時、俺以外友達がいなかったジゼルからすれば、斷る理由などはなかったのだろう。

だが、俺の場合、そんな曖昧なモチベーションで第六研に參加したのでは決してない。

寂しいとか憧れとか正義に燃えるとか、そんな腐った言葉はあいにくこのシロウ・ハイバラの辭書に存在しない。

相容れぬ者たちの元へと飛び込んだのは、自分の嗜好のためだけだ。

その相容れぬもののひとり、ジゼルの微笑みを一瞥した俺は、特に返答もせず視線を前方へと戻した。

先に広がる國立帝都大學のキャンパスは閑散としていた。

平日は人通りが激しいのだが、今日は週末なので、大學生は部活をやっている人間以外ほとんどいない。

その普段より心なしか広くなったキャンパスの中を、俺は今ジゼルと共に闊歩している。

とはいえ、ただぼんやりと歩いているわけではない。

ジゼルとは違い、俺には考えなければならないことがあった。

それは、今日の朝方発生した予期せぬ事態のことだった。

朝六時、第六研の研究室、すべての盜聴かされた形跡もなく、俺が取り付けたままの狀態であることを確認した。

埃の分量も以前見た時と同じだった。コンセントの差し込みプラグを覗くなど周到に探索したが、やはり自分が仕掛けた盜聴以外は何もない。

何も問題はない。

ほっとをなで下ろしてから、予定通り部屋中央に置かれたテーブルへと向かった。

白いテーブルの上に並ぶ五枚の赤茶けたカード。すべてが表に向けられていた。一息ついてから、一枚一枚丁寧にカードを裏返していった。

間もなく、すべてのカードの中が判明した。

ゾウ、トラ、サイ等のが、ディフォルメされた形でそれぞれのカードに描かれていた。

それを見てすぐに攜帯を取り出し、素早くメールのウィンドウを開いた。

アドレス手帳からスピキオ・カルタゴス・バルカを選択し、メールの宛先欄の中に反映した。

次に素早く端末畫面をタップ。フリック型のキーボードを出現させる。

カードに描かれているの名前を順に、メールに記述してから送信ボタンを押すと、攜帯畫面上部のツールバーに便箋の形をしたアイコンが浮かんできた。

アイコンが消え、メールが送信されたのを確認した後、攜帯電話をポケットの中にしまった。

カードを元の表側に戻した後、並びを等間隔に整えた。

先程と同じ位置にしておかないと、メンバーにスパイ行為を見破られてしまう可能があるからだ。

テーブルの上できれいに整頓された五枚のカードに満足してから、俺は研究室の出口へと足を運んだ。

すぐに、ドアの前に到著した。

右上にあった照明のスイッチを押す。もちろん、研究室の電気は一瞬で消えた。

そして、完全に研究室が暗闇になったことを確認してから、音を立てず靜かにドアを開けようとした矢先のことだった。

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