浮遊街區をつなぐ橋からを乗り出してアレイルの街を見下ろす。二層の中央に位置する浮遊船発著場の屋がのを反してっている。

「あの丸屋が浮遊船の発著場。役所はすぐ近くにあるあの角ばった大きな建だよ」

大の位置を指で指し示す。

「歩いたら結構遠いね」

「うん」

「ねえナトリ、飛んで行こうよ」

「えっ？」

言うが早いか、フウカは俺の手を摑むとふわりと飛び上がった。俺のは引き寄せられるように引っ張られて足が地面を離れた。

気が付いた時には塀を飛び越えていた。そのまま住居が積み重なって壁を形している街區の壁面を沿うように一気に落下して行く。

「ちょっ！　ちょっとまっ、うわあああああああ！！」

落下にをまかせるように垂直に落ちて行くフウカを見下ろす。風をうけて、彼は気持ち良さそうに目を閉じている。彼の手を離さないように強く握り返す。するとフウカは目を開けて、俺に向かって余裕で笑いかけてみせた。

「フウカ！　下、下！　ぶつかる！」

ものすごい勢いで民家の屋が迫っている。フウカはくるっとの向きを変えて下を向くと、俺たちの周りを勢いよく風が回り始める。

あわや屋に激突、という直前で強烈な風が下から吹き上げてきて、再びは空高く跳ね上がる。なんとか勢を立て直して次に著地した屋をフウカに続いて踏む。

それを繰り返しながら、フウカは長い距離を軽々と浮遊街區を足場にして渡って行く。

この子は俺と真逆だ。空の加護なんてレベルじゃない。空の恩寵とでも言ったほうがいい。彼は生まれながらに空にされている。羽が生えたように空を飛ぶフウカは、風をけて実に生き生きとして見えた。

駅前広場に続く賑やかな通りに靴音を響かせて俺たちは著地した。フウカの手を放すと、俺はよろよろと街燈に手をついて蹲った。

「ナ、ナトリ……？　どうしたの？　大丈夫？」

フウカが心配そうに覗き込んでくる。俺の顔は真っ青になっての気が引いているんだろう。

「あ、ああ。ちょっと酔っただけ。ごめん、しだけ休ませて……」

飛べない俺は振り落とされようものなら即死となる。高いところでぐわんぐわん振り回されて、必死でフウカにしがみついていることしかできなかった。彼はめちゃくちゃ楽しそうだったけど。

それにしてもフウカの飛力はとてつもないレベルだ。特に軽さはどうみてもネコ以上。あれだけの移を俺をひっぱりながらやってのけるなんて並大抵のことじゃない。

なんとか歩けるまで回復した後も多よろめきながら通りを進む。フウカは不安そうに俺の様子を気にしてくる。駅前広場を通って大通りを進み、三階建ての役所の前までやってくると正面階段を登ってり口から中にった。

§

公園のベンチで二人並んでトルタを齧る。最近アレイルで人気の食いだ。に薄焼きパンを巻きつけ、好みのトッピングで食べる。もそもそと頬張りながら、俺は空を見上げていた。

「見つからなかったなぁ……」

役所の付で市民係を案されて、そこでフウカの名前と家名について調べてもらった。

アレイル二層だけでなく、三層と一層も含めて調べたが該當する記録はないとのことだった。もちろん、五番街以外の街だったら記録がある可能もあるのだが……、ここではその記録は管理していないと言われてしまった。

市民係のには図書館を勧められた。全ての街を巡って役所で記録を探すのが確実ではあるけど、三層にあるアレイル図書館ならば王都の住民全の記録が保管されているらしい。ただし、図書館の住民臺帳はし古い報になるので確実に欠けるそうである。

「全ての街の役所……か。そんなので一いつになったら見つかるっていうんだ」

できるだけ早く家に帰してやりたい。記憶がないとはいえ、フウカだって寂しいはず。まだ時間はある。一縷のみを懸けて図書館に行って調べよう。隣に座ってトルタをむしゃむしゃと頬張るフウカを見る。

「おいしい？」

「うん！　アレイルの街にはおいしい食べがたくさんあるねー」

「食べ終わったら、発著場から三層に上がって図書館に行ってみよう」

一見フウカは家が見つからないことが堪えているようには見けられないが、心はわからない。比較的わかりやすい彼のことだから多分大丈夫なんだとは思うけど……。

浮遊船発著駅まで歩き、構で二人分の切符を購する。ちょうど三層中央駅行きの浮遊船が上がってきたので俺たちは急いで乗船した。

船は垂直に浮かび上がり、街區の間を上昇していく。俺とフウカは甲板の手すりにもたれて二層の街並みを見下ろした。アパート、師匠の家、廃墟街などを指差してフウカに教える。彼は何もかもが新鮮に目に移るらしく、始終楽しそうにしていた。

やがて船は三層まで昇ると、駅のホームに橫付けに固定狀態にった。

「なんだかここ、高い建が多いね」

「うん。アレイルでは三層に偉い人が勤める施設なんかが集まってるんだ。街並みもきれいだろ？」

「たしかにー」

ここに住んでいるのは偉い役職にいる者や金持ちが多い。そういう奴らは庶民を見下ろせる高い場所を好むってわけだ。

目指すアレイル図書館や中央庁舎などの公共施設も三層に集まっている。ここを訪れるのは大抵何かお堅めの用事がある時なので、実は俺も三層に來るのは初めてだ。

さすが第三層、道を歩いても糊のきいた一張羅やお堅い制服を著込んだ人々が行き來している。この著飾った雰囲気は、自分達が場違いに思えてどうにも居心地が悪い。

中央通りのゆったりとした階段を上って行くと、やがて右手に図書館が見えてくる。聳え立つ高い本館を中央に、それをぐるりと分館が囲むように建っている。等間隔で細い尖塔が並び立ち、まるで堅牢な要塞のようにも見える。

歴史をじる厳つい門構えの大きな正門の前に立ち、二人してその偉容を見上げた。

「なんか、すごいね」

「近くで見るとやっぱりでかいな」

それでも王宮にある王立図書館はこことは比較にならないほど大きいと聞く。ここより大きいって、どれだけばかでかいのか。一度この目で見てみたいもんだ。

高いアーチの正面り口をって薄暗い廊下を歩く。廊下の先には両脇にカウンターが設置され、そこに二人のコッペリアの司書が座っている。そこを通る時彼たちは俺たちにちらと一瞥を投げただけで特に何も言わなかった。

「珍しいな。コッペリアだ」

「こっぺりあ？」

フウカが小聲で囁く。そうか、彼はそんなことも忘れてしまっているのか。

「コッペリアは七種族の一つだよ」

「七種族」

「あー、うん。つまり」

この世界、スカイフォールに生きる人間は七つの種族で構されている。最も人口の多い俺たちエアル。エアルと同じくどこにでもいるネコ。あとは水辺のラクーン、北部のユリクセスとか。

コッペリアもその一つだ。彼らの特徴を一言で表すなら……人形みたいな人種、ってところか。頭の小さいスリムな型で、のないそうなつるつるしたをしてて、どこか作りめいた造形みたいなものをじる見た目。

有名な研究者や學者、作家などが多いらしい。その詩的で耽な生態は市井でも憧れの的だ。要するにモテるってこと。それらを簡単にフウカに説明した。

「すごいってことだね」

フウカは真面目な顔でそう言った。

「うん、……まあね」

俺たちは廊下を抜け、ガラス天井を通してやわらかい日差しが降り注ぐ図書館の中央ホールへ出た。