《スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜》第23話 見えざる敵
波導士達を前にしてクレイルが呟く。
「ラクーンの老士、いや、師サマか。まさかとは思うが、『銀嶺のガルガンティア』……か?」
「知っているのかクレイル」
「……うむ。銀嶺のガルガンティア。東部三大賢者に數えられる高名な師。全てを凍てつかせる氷のアイン・ソピ(神の叡智)アル、『銀嶺(ニヴルヘイム)』の使い手。拠點にしとるプリヴェーラでその名を知らん士はおらん」
とにかく偉い人だってことはわかった。この結界が敵の攻撃からこの船全を守っている。
今船が無事なのはこの老師のお蔭なのか。しかしたった一人で船を覆うような大波導を行使するなんて、やっぱりすごいお人だ。
「あなた達、ここは危険よ。船室へ戻った方がいい。……ん、あなたも士なの?」
俺たちの接近に気付いた士が聲をかけてきた。
「ああ。この狀況、なんとかせな思うて出てきたんや」
「協力謝します。我々はガルガンティア波導士協會の者です。今はしでも力がしい。ガルガンティア様のお力で船の崩壊は免れていますが、あれをなんとかしないことには」
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士は後ろを振り返る。依然として船を猛追してくる黒い艇が見える。
偉大な師が乗り合わせているなんて、すごい幸運だ。彼の小さな姿がとても頼もしく見えてくる。隣のクレイルが歩み出た。
「俺にまかしとき。この炎の波導士クレイル様があんな艇蹴散らしたるわ」
クレイルは腰に下げた杖を抜いた。黒っぽい木製の杖は、先端に鳥の頭のような意匠があしらわれた中程度の長さ。取り付けられた揺らめく淡いを放つ寶玉は火の力を閉じ込めたエアリアだろうか。
「原初の炎《ほむら》。その赫きで萬を灼き盡くせ――『火焔(ロギアス)』」
クレイルが波導構築のための詠唱を口ずさむ。これは波導においては重要なプロセスであるとクレイルは説明していた。
ごとにある程度詠唱のテンプレートは存在するが、本人が一番波導をイメージしやすい言葉を選ぶとのことだ。
無詠唱でも波導を行使することは可能だが、威力を高めたり正確に波導を構築するためには、詠唱文に含まれた要素(エレメント)を言霊に乗せて直接口に出す行為が重要なのだ。
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多分、今の詠唱の場合火を想起させる言葉が重要な要素(エレメント)になっているのだろうか。
クレイルの言葉に呼応するように杖のエアリアが赤く燃えるように輝きを増し、右手で掲げる杖先の空間にフィルが収束していく。
やがて渦巻く火球が現れ、急激に膨らみ両手がまわらないほどの大きさまで一気に膨れ上がる。船のデッキを赤々と照らし轟々と回転しながら燃え盛る火球を近くで見ているとがジリジリと灼けるように熱い。
「おらァ! 炎上せえ!」
クレイルは上げた気炎と共に杖を振り抜く、杖先に収束した火球は振り抜かれた勢いに乗って高速で撃ち出された。
クレイルの火焔(ロギアス)は楕円にたわみながら目にも止まらぬ速さで艇へと飛んでゆく。これが波導。間近で見るのは初めてだ。
火球が飛び出す瞬間、一瞬だけ三界多重障壁(ノア•ル•ウィオルマ)にが開いたように見えた。ガルガンティアがクレイルの攻撃に合わせて結界に抜け道を作ったのか。
クレイルの放った波導の火球は一瞬の後艇に著弾した。だが、燃え盛る火球はまるで黒い軍用艇に吸い込まれるようにフッと消えた。
「なッ?!」
「……?」
「どうなっとんのや。まるで手応えあらへんぞ!」
艇は燃えてもいなければ傷ついた様子もない。あんな攻撃を浴びたら艇の表面は火の海になるはずだ。まさしく火球は艇に吸い込まれたように見えた。
「くそ! もう一発や!」
「君、相手の正がわからない以上無駄撃ちは非合理的よ。今は煉気《アニマ》を溫存すべき」
「ちっ……!」
クレイルは悔しそうに杖を握る手を下げた。無意味だと悟ったんだろう。波導を放ったクレイルが多分一番それをじている。
「どういう理屈かはわからないけど干渉反応が見られない。あれは波導を無効化しているのかもしれないわ。こちらの攻撃は無意味なのかしら……」
「無効化やとォ? そないなことが……」
船前方から何かがぶつかる大きな音が聞こえてきた。甲板がその衝撃でわずかに振する。
「なんだっ?!」
「まさか、被弾?」
「噓、そんなはずは……」
黒い浮遊艇からの線はガルガンティア老師の結界に完全にカバーされているはず。なんだ、今の衝撃は。まさか他にも敵がいるのか。慌てて甲板から左右を見渡すが、それらしき艇影は見えない。
「モーク、左舷の狀況を見てきてくれないかしら。君たちは右舷を頼める?」
「了解だ」
寡黙な隻眼ネコの士は一言呟いてのそりと左舷通路へと向かった。
「おい姉ちゃん、俺らはあんたらの協會にった覚えはないで」
「お願いしてるの」
「クレイル、こんな時だし協力しようよ」
「……しゃーない。見てきたる」
俺とクレイルは右舷通路へ戻る。船に沿って通路を回り込んでいくと、さっきまではなかった真新しい破壊の痕を見つけた。
船壁面が大きな力で毆られたように凹んでいる。運が悪ければが空いていたかもしれない。
「さっきの音はこれか……」
「砲撃の跡か。角度が悪けりゃ船にが空いとったな」
「…………」
「どうした?」
「クレイル。なんかおかしくないか」
「……敵の正が検討もつかんちゅうのは認めるがな」
船舷通路は既にそこそこの被害をけている。通路にの空いている箇所や柵が吹き飛んだところもある。
しかし今、船は最大速度で航行しているため謎の艇はずっと真後ろに追いている。
結界によって砲撃は防いでいるにも関わらず再び側舷での被弾、そして破壊の痕をよく見ると、衝撃の加わった角度は明らかに明後日の方向を向いている。しかし船外に別の船の影が見えるわけでもない。どういうことだ……?
ふと破壊痕から顔を上げて前を見ると通路の先にフウカが立っている。柵に摑まって船外の様子を探っているようだ。
俺がなかなか帰らないから船室から出てきてしまったのか。今ここは危ない。彼を船室へ帰すために立ち上がってフウカに駆け寄ろうとする。
「フウカ! 危ないから出てきちゃだめだって――――」
背後で空気が弾けた。フウカに駆け寄ろうと走り出した直後、音が響いて背後で何かが破裂したのだ。
事態を把握した時には、俺のは通路の板張りの上を吹っ飛んでいた。
「え?」
けも取れずに背中から通路に落下する。完全に虛を疲れて、ひっくり返ったまま背中の痛みがやってくるまでのわずかの間ぽかんと通路の天井を眺めていた。
遅れてやってきた鈍痛にくが、さらに焼け付くような痛みを脇腹辺りにじる。
左手を右脇腹に當てると刺すような痛みを覚え、手を顔の前にやるとそれはべっとりとで濡れていた。全部俺のか。
「ナトリっ!!!」
両肘をついてをしだけ起こす。視界がブレるが、向こうからフウカが走ってくるのが見えた。首を回し、背後を見る。
さっき調べていた破壊の痕、そこにあったはずの通路は大きく抉れている。抉れた通路の先、そこには杖を構えてこちらを見下ろすクレイルの姿があった。
こっちに來ちゃだめだフウカ。クレイル、一何を――――。
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