《スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜》第26話 犠牲

「影に潛む者(ゲーティアー)……」

エレナが小さく呟いた。

「なんやて?」

「東部で報告が上がるようになったのは近年にってからよ。機械とも、モンスターとも異なる正不明の存在。突然湧き出るように現れることから『影に潛む者(ゲーティアー)』と呼ばれるようになったの」

ゲーティアー、か。こんな短期間でまたお仲間に會えるなんて、非常に嬉しくない。

「とにかくや。あいつをなんとかすりゃあこの騒は収まるんやろ。とっととカタつけたる」

そう言うとクレイルは杖を低く構えた。

「待って!」

エレナさんが短くぶ。

「ゲーティアーはフィルタンクに著しているわ。もしあなたの波導に巻き込まれてタンクに大が開けば……」

「ふん。浮力を失って俺らは船ごと空へと真っ逆さまってわけか。アイツ、それがわかっててあそこにおるんやないやろな?」

その時、船室の方から派手な破壊の音と悲鳴が響いてきた。影鎧が船を荒らし始めたのか。モークがく。

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「エレナ。船り込んだ敵を排除する。ここは任せた」

「お願いします。私はここでガルガンティア様を護衛しながら敵の相手を」

「そんならバケモンの親玉をしばくのがワイらの役目やな」

「えっ? あ、ああ……」

「……あなた達を頼ってもいいかしら」

「鎧の対処と障壁の維持で手一杯なんやろ?」

俺も當たり前のように頭數にっているのだろうか。

船上のゲーティアーにきらりと紫が瞬いた。それは俺とフウカを捉えていた。

「來るっ!」

「……っ!」

フウカの波導によって波導の壁が張られ、紫の弾が目の前で弾ける。一定の間隔を置いて紫は何発も降りそそいで來る。なんとか防いでいるが一発一発は結構重たいらしく、障壁を見つめるフウカの表は優れない。

「くそ、遠距離攻撃か。こっちは思い切り攻撃できないってのに……」

「ナトリ、どうしよう!」

敵の暗示が解けた以上、全力で俺たちを攻撃してくるだろう。追い詰められる前にゲーティアーを叩く。

「ナトリ、フウカちゃん! 二手に別れて仕掛けんぞ。俺は右から行く!」

「いけるか、フウカ」

「まかせて!」

フウカの手を取る。が軽くなり、俺たちとクレイルは甲板を蹴って左右に飛んだ。船上に被さるように載ったタンクのへりを蹴って思い切り船外に飛ぶ。

ゲーティアーは完全にこちらをマークしており、規則的な間隔で弾を放って來る。

フウカは飛びながらそれらを波導の壁で防ぐ。

「フウカ、壁に角度をつけるんだ! 正面から防ぐより斜めにしてけ流すんだ!」

「わかった!」

完全に船外に飛び出すが、うっすらと浮かび上がる結界の壁を蹴ってフウカは方向を変え、タンクの頂點に陣取るゲーティアーへ突っ込む。

近くまで接近した時、ぞくりと背筋に悪寒が走る。頭部と背中からびっしりと生えた大量の管がぞわりと蠢き、手のようにこちらへ押し寄せて來た。

「っ!」

俺たちはタンク上に著地し、フウカは波導障壁を目一杯に展開してうねる管の束をまとめて食い止める。

しかし脅威はそれだけではなかった。上空からこちら目掛けて飛んで來る影の鎧が目にる。

「この野郎、俺だってッ!」

持ってきた、破壊された船舷通路に転がっていた金屬柵をフルスイングする。強烈な打撃をに食らい影が吹き飛ぶ。

しかし影鎧はそこそこの度を誇っているのか、鉄棒程度じゃ凹ませる程度で倒すには至らなかった。

「くそっ!」

「俺を忘れんなやボケ」

ゲーティアーを挾んだ反対側で赤い火花が激しく散った。蠢く手の隙間から、クレイルが火剣《メルカムド》を振り回すのが見えた。

だが、ゲーティアーには屆いていないように見える。目を凝らすと、闇に混じって奴の周囲に球狀の紫を帯びた壁が存在しているのが見えた。

あのバリアでクレイルの炎を防いでいる。

「ちィッ! 守りが堅ぇ。厄介なバケモンやなァ!」

クレイルはなんども火剣を紫の障壁に叩きつけながら、こちら側から向こうへの攻撃に回った手の束を捌いているようだ。

弾き飛ばした影が再度フウカを狙って飛びかかって來る。攻撃に合わせて加速をつけ、棒を振る。

なんとか敵のきを止めるが、攻撃は止まない。鎧の振るった腕を弾くが、鋭い爪が腕を切り裂き傷を負う。

「があっ! ぐうううっ!!」

「ナトリ!!」

目の前の影に白いが炸裂し、そのまま影は掻き消える。振り返るとフウカがこちらに片手をばした勢で息を付いていた。波導の攻撃で助けてくれたらしい。

「すまんフウカ!」

クレイルの方に多回ったとはいえ、フウカは手を障壁で抑えるのでかなりきつそうだ。

棒を抱えて壁の橫へ回り込む。障壁に叩きつけられている管の束に向かって棒を叩き下ろす。

「うらっ! このっ!」

棒を力一杯振り下ろし管の束をへし折る。

やせ細ったの上半にも見えるミイラのような本がこっちを向いた。眼球などない暗い眼窩と目が合ったのがわかる。

憎悪、苦痛、怨嗟。そんな負のイメージが流れこんでくるようだ。

はあんなに細いのに。あそこまで攻撃が屆きさえすれば……!

に気を取られて注意が疎かになったせいか、視界外から鞭のようにしなる管が迫って來るのに気づくのが遅れた。

管をもろに脇腹にけ、俺はタンクの上を転がった。

「かはっ……!」

うつ伏せに倒れた狀態から腕をつき上だけ起き上がる。

「きゃあああ!!」

「フウカっ!!!」

フウカが手に捕らわれ、両手を縛り上げられ吊るされていた。

は管に絡め取られたままゲーティアーの面前に引き寄せられていく。フウカの表が恐怖に引きつる。

「やめろ……やめてくれ!!!」

「ああぁぁぁっ!!!」

止める間もなく、フウカの手が貫く。びくりと彼が大きく震えた。

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