《スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜》第203話 殘影
「あ……」
「どうしたフウカ?」
の前方に展開した緋の翼。そこに表示された文様に手を當てたフウカの目が見開かれる。
フウカの翼が突然変形し、何かの表示板みたいな形になっている。
これが隠された力なんだろうか……?
見守っていると、フウカは自分の翼から手を放した。翼も元の位置、元の形に、彼のを回り込んで戻っていく。
変化はすぐに現れた。
フウカの背負う翼が、より鮮やかに、赤く染まり始めたのだ。
同時に、フウカの頭髪も本から赤へ変していく。
まるで炎ような赤。橙から、鮮やかな真紅へと染まった。開かれた瞳もまた真紅に彩られていた。
「フウカ、髪のが真っ赤に……!」
「ナトリのおかげで見つけられた。この力なら、きっと……!」
そう言って真剣な表で俺を見つめる。
まるで別人のようにの変わったフウカが心配になるが。
「大丈夫なのか、フウカ」
「私は平気。それよりも!」
「いけそうか?」
「うん。やろうナトリ。私たちの力でレヴィアタンを倒そうよ!」
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フウカが差し出す手をとる。
彼は俺を連れて浮かび上がると、右手を前に、地面に向けて突き出した。
「厄災のを貫く、厄災よりも固いもの。そう、迷宮みたいな……。そして、深くまで掘ることができる形」
真紅の翼が輝き、フウカの手先に周囲からフィルが収束していく。
俺にもハッキリ見えるくらいにフィルの粒子が渦を巻きながら形をしていく。
鋭く尖った先端を持つ白く大きな三角錐が空中に形作られていく。
槍の穂先のような形質の側面に、無數のが走っている。
形が終わると、それは高音の唸りを上げながら急速に回転を始める。
「いくよ!」
フウカはそれをり地面にめり込ませた。白い槍は掘削機のように、凄まじい速度でレヴィアタンのを抉りながら食い込んでいく。
フウカが俺の手を引き、その後を追うようにして表に空いたに飛び込む。
「厄災のを、こんなに容易く……!」
まるで砂でも搔きわけるかのように、フウカの作り出した槍は厄災のを引き裂きながら掘り進んでいく。
「もっと……、もっと速くっ!」
俺たちは真っ逆さまに急降下しながらレヴィアタンのを中核《コア》に向けて進んだ。
唐突に視界が開ける。
レヴィアタンの外殻を一瞬のうちに突き破り、へと侵したようだ。
「ナトリ、あれっ!」
を抜けて目に飛び込んできたのは、紫の眩い輝きだった。
暗く、見渡せないほどに広がるレヴィアタンのの底知れない闇。その遙か下方。
そこに遠くからでもよくわかる巨大な紫結晶《スタークリスタル》が浮かんでいた。
あれがレヴィアタンの中核《コア》。
俺とフウカはそれを目指して一直線に飛ぶ。
『リベル!』
『了解だ!』
リベリオンを顕現させ、結晶に向け構える。
マリアンヌの願い。レイトローズとルクスフェルトから託された意志。全てをこの一撃に込める。
「大罪に裁きを。叛逆の槍——、『ジャッジメント(審判の槍)・スピア』」
変形を始めるリベリオンを握る手に、フウカの手が添えられる。
「私の力も!」
真紅の翼が輝きを強め、フウカの手を伝って痺れるほどに強烈な力が流れ込んでくる。
青いを放つリベリオンに真紅のがり混じる。
杖はいつものパーツが分離した形狀ではなく、長い持ち手を備えた長槍《ランス》のような形態へと変化した。
二人でその長い柄を握り、持てる全ての煉気《アニマ》をリベリオンへと送り込む。
槍に送り込まれた煉気が非想子領域へと変換される。
フウカの翼からもたらされる力と俺の煉気が混じり合い、金の輝きを放ちながら周囲の闇を祓うほどの長大なの穂先となる。
それをまっすぐ結晶へ突きつけ、俺たちは猛然と闇を切り裂いて飛んだ。
「いっけえええぇぇぇ!!!!」
眼前に迫った紫結晶《スタークリスタル》にジャッジメント・スピアの先端が突き刺さる。
金の穂先が結晶を砕き割り、中へと侵する。
槍が突き刺さり、砕けた隙間から紫のの帯がサーチライトのように放出された。
巨大な結晶はその側から散するように砕け散り、紫の洪水となって周囲の闇を溶かしていった。
は俺たちへと押し寄せ、飲み込み、視界が紫一に染まる。
フウカの手を摑み、しっかりと握り込む。
全方位から絶のような咆哮が鳴り響いてくる。厄災のに反響し、幾重にも反し、それはまるで俺たちを責め立て荒れ狂う憎悪と怨嗟に満ち満ちているようにじられた。
「ぐううううっ!」
視界を覆っていた、散した紫の粒子が収まると、徐々に風とともに周囲の闇が薄れていく。
ごうごうと吹き荒れる風に晴らされるように、外の景が目にってきた。
「レヴィアタンが、消えて……」
天空を覆うようなその巨が、薄れていく。
威容を誇る長大な軀は影となり、ゆっくりと崩壊を始めながら下方へと落ちていく。
を維持する力が失われ、列島のように連なる巨軀が崩壊していく様はあまりに壯大だった。
吹き荒れていた風が大人しくなり、破壊の嵐が過ぎ去る。
もう王宮を躙する轟音は聞こえなかった。
俺とフウカは遙か空の下方へと崩落していく影を見送った。
「やったの……?」
「ああ……。やった。やったんだよ、俺たち」
「ほんとうに……?!」
「倒したんだ。あの厄災を!」
「…………」
俺の手を握るフウカの手に力が篭った。
突然俺は彼に引っ張られ、振り回される。
「や……ったぁーーっ! やったよナトリ、私たちの勝ちだよっ!!」
「う、うわっあああ!! ちょ、待、待った、危ないっ! わかったから!」
フウカに手を引かれて空を飛ぶのも慣れてきたとはいえ、こんな高空、陸地もない空のど真ん中でぶんぶん振り回されれば死を覚悟する。
「フウカがあの力を引き出せたからあいつを倒せたんだよ」
「もう駄目って思っちゃったけど……また私を助けてくれたね、ナトリ」
そう言って俺を見下ろすフウカは、本當に久しぶりに見た花開くような笑顔を見せてくれた。
心に晴れ間がすように安堵が広がっていく。俺は、フウカのこの顔を見たくて王宮まで來たのだと思った。
やっぱりフウカにはいつだって笑顔でいてしいから。
「……のんびりもしてられないよね。王宮に戻るよ。みんなの無事を確かめなきゃ」
「そうだな。すぐに探しに行こう」
王宮を襲ったレヴィアタンの尾の一撃は、街に甚大な被害を齎していた。
恐らくそれ以上の追撃は、ルクスフェルトが命を賭して防いでくれたのだろう。
みんなのことが心配だ。リッカやクレイル、マリアンヌ達に合流するため、俺たちは暗雲を掻き分けて差し込み始めたのを浴びて王宮を目指し飛び始めた。
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