日間総合4位にランクインしました。

ブクマ・評価いただいた方には、本當に謝です(≧◇≦)

激戦続きの話が多かったので、今日はまったりですが、

どうぞ最新話をお楽しみください！

ヴォルフは見上げる。

視線の先にあったのは、ガラス、さらに金銀、あるいは寶石がちりばめられた豪奢なシャンデリアだった。

一面を磨き抜かれた石床は、普段凸凹な路面を歩くことが多いヴォルフには信じられないほどらかで、あらゆる所に彫り細工が施された階段は、天國へと至るような雰囲気がある。

さしずめ踴り場に掲げられたヘイリル・ローグ・リファラス大公の肖像畫は、神様といったところだろう。

王都に長年住んでいたが、こんな景ついぞ拝むことはできなかった。

ともかく――田舎生まれ、田舎育ちであるヴォルフにとって、常軌を逸した景だった。

急に自分のなりが気になり出す。

一応、一番綺麗な上著とズボンを著ていたつもりだが、周囲の狀況はとてもそういうレベルになかった。

「あ……。下著を履き替えてくるのを忘れた」

ぼんやりと自分の失態を悔いていると、奧から使用人がやってくる。

玄関ホールに立ちすくんでいた田舎者を案した。

マザーバーンを倒したヴォルフは、リファラス家に招かれていた。

最初は斷っていたのだが、事を聞いた村の長に説得され、渋々屋敷に行くことになった。

ヘイリルは権力を使って、小さなコミュニティを破壊するような人間ではないと思うが、何も知らない人から見れば、大公の威に背くことは恐ろしいことらしい。

連れて行かれたのは、浴場だった。

汗を流し、出てくると綺麗な服が畳まれて置かれていた。

さっと腕を通す。気持ち悪いぐらい軽く、ごわごわしない。

天界の服か、と思うほどだった。

使用人に案されるまま大きな広間に通される。

お待ち下さい、というので待ってみると、まず最初に現れたのは短槍を持った警護の兵だった。

処刑――という２文字が頭に浮かぶ。

逃げ出したくなったが、次いで出てきたアンリのドレス姿に心を奪われた。

武姿もしいが、ドレス姿も増してしい。

白を基調としたシンプルなデザインのドレスは、彼を一本の白百合に見立てていた。一點意見するなら、大きくの辺りが開いていることだろう。今にも果がれ出しそうな勢いで、プルプルと震えていた。

最後に現れたヘイリルは、玉座に見まがう程の豪奢な椅子に座り、手を広げる。

ヴォルフの名を呼んだ。

元冒険者は平伏することも忘れ、ピンと背筋を立てる。

ヘイリルの橫で、アンリがくすりと笑った。

「マザーバーン討伐、見事であった。みをいうが良い。出來る限りの待遇を約束しよう」

「いえ。俺は別に……。アンリ様を助けることに一杯だっただけで」

「褒はいらんと？」

「はい」

きっぱりといった。

ヘイリルは口髭をでる。

「がないのう。まあ、良い。では我からそなたにみがある」

「……？　俺が葉えられるものであればいいのですが……」

「我に士するつもりはないか？」

「……。それはリファラス家に仕えよ、ということですか？」

「悪いようにはせん。給料もＡランク冒険者待遇を用意しよう」

同席していたダラスが目を剝く。

リーマットも軽く口笛を吹いた。

軍の階位でいうなら、無條件の大尉待遇。

しかも、自的に年金までつき、余生は遊んで暮らすことが出來る。

王都に家を建てるのも夢ではない。

Ｄクラスの冒険者、しかも引退したの人間に出す條件としては破格だ。

しかし反論するものはいなかった。

本人を除いては。

「折角の申し出ですが、お斷りします。俺はもう引退したです。村でつつがなく暮らす。それが俺のみです」

「そなたの強さは、誰もが認めておる。かくいう我もそうだ」

「ヴォルフ様、父――閣下はあなたの力に惚れ込んでいるのです」

アンリも口を開く。

それでもヴォルフの意志が揺らぐことはなかった。

「俺の役目は、娘が帰ってこれる場所を用意することなので」

「頑固だな」

「申し訳ありません」

「あいわかった。殘念だが仕方あるまい。が、せめて何か褒を出させてくれないか。恩人をタダで返したとなれば、リファラス家の名折れだ」

「では、村に來る行商人の商品を買い取っていただけませんか？」

ヴォルフは理由を説明する。

鋼の剣を行商人からもらったのだが、その代金をいつか返そうと考えていたこと。

その代金だといっても、行商人はけ取らないであろうから、こっそりその分の商品を買って上げてほしい、と頼み込む。

あくまで他人の幸せを優先する。

彼らしい提案だった。

あまりの無に、ヘイリルは思わず閉口してしまった。

「失禮。わかった。そなたのみであれば、仕方あるまい。行商人という輩の馬車が一級品になるほど、買い取ってやろう」

にやりと笑う。

大公の力を見せつけるかのような言だった。

謁見は終わった。

最後にヘイリルはこう締めくくった。

「いつかお主の強さは、世界が知るところになるだろう。我以上にお主の力をむものが現れる。助けてくれとぶものがいる。必ずだ。そうなった時、お主はどうするつもりだ？」

ヴォルフはすぐには答えられなかった。

Ｄクラスの自分では、とても回答できない。

世界の真理にれそうな重苦しい言葉に思えた。

「次に會うときまでの宿題だ、ヴォルフ。……それと我が娘がほしければ、持っていくがよい。そなたがそう――むのであればな」

ヘイリルは謁見の間から引き上げる。

加えて臣下やリーマット、ダラスもいなくなる。

殘ったのは、ヴォルフ、そしてアンリだけだった。

「ヴォルフ様、あの――」

アンリはすべてを話した。

ヴォルフと結婚する許可條件が、鉱山に巣くう竜を退治することであったこと。

自分が竜にさらわれたというのは噓偽りであり、ヴォルフを連れ出す方便であったこと。

そして、そのすべては自分に責任があること。

「ごめんなさい」

金のしい髪が垂れる。

を結び、泣きそうになるのを堪えていた。

「（これできっと私はヴォルフ様に嫌われるだろう……）」

リファラス家の姫の中が掻きむしられる。

それでもヴォルフに噓を突き通すよりマシだった。

彼の純真な心にれ、アンリは初めて自分が飛んでもないことをしてしまったのだと、反省した。

ヴォルフの手が挙がる。

影のきだけでわかった。

きっとぶたれる。

いつぶりだろうか。

昔、父が大事にしていた花瓶を壊してしまった時以來かもしれない。

覚悟してんだアンリだったが、おろされた手はそっと金髪の頭に置かれた。

わしわしとでる。

ちょっと気持ちよくて、アンリは火照りをじた。

「ヴォルフ様？」

「あなたが無事で良かった」

「それだけですか？」

「噓はダメです。でも姫は謝ってくれました。それで十分伝わりました」

ヴォルフは笑う。

その笑みだけで、アンリは自分にのしかかっていたすべてのものから解放されたような気がした。

鼓がはっきり聞こえる。

それは次第に大きくなり、耳から音がれているのではないかと思うほど、気恥ずかしくなった。

これまで幾人かの殿方に惚れ込んできた。

しかし、これほど強く意識したのは初めてだった。

「またお會いしたいのですが」

そういうのが一杯だった。

本當であれば、引き留めたい。

だが、ヴォルフの意志もまた固いことは、アンリ自がよくわかっていた。

「ニカラスにお立ち寄りの際には是非我が家にお越し下さい。満足なもてなしはできないかもしれませんが」

「……はい！　是非」

アンリは目を輝かせる。

この時、姫騎士は１つの揺るぎない決心をめるのだった。

◇◇◇◇◇

リファラス家から帰って、３日が経った。

マザーバーンの討伐から、大公との謁見。

々なことが立て続けに起こりすぎて、ヴォルフはすっかり參っていた。

これには、いかな【大勇者(レジェンド)】が仕掛けた強化魔法も通じなかったらしい。

１日中寢てもはだるく、２日も何もする気が起きず、ようやく３日目に畑に行く気力を取り戻した。

「ん……？」

家を出てまず気付いたのが、杭を打つ音だった。

中にいた時から気にはなっていたのだが、どうやら村に誰かが引っ越してきたらしい。

さほどヴォルフの家から離れていない場所で、人だかりが出來ていた。

野次馬を押しのけた先にいたのは、ヴォルフもよく知る人だった。

「アンリ様！！」

大木槌を両手で持ち、頭にはねじり鉢巻きを巻いて、大公家の娘自ら家の柱を打ち付けていた。

ヴォルフを見ると、汗とともに目を輝かせた。

「ヴォルフ様、こんにちは」

「こんにちは――じゃなくて……。なんですか、これは」

「見てわかりませんか？　家を建てているんですよ」

聲は別方向から聞こえた。

木槌の柄の先に顎を乗せ、けだるげに手を挙げているリーマットがいた。

後ろにはローブをぎ捨てたダラスもいる。

「家を建ててるって……。もしかしてここに住むんですか」

「はい！」

いい笑顔でアンリは答える。

補足したのは、ダラスだった。

「正確には我ら『葵の蜻蛉(ブルー・ブライ)』の拠點だ。ここを中心として、魔獣に困っている村々を守るつもりでいる」

「大公家に一旦帰るより、ニカラスを拠點として活する方が効率がいいですからね」

説くリーマットだが、嫌々やっているのがみえみえだった。

それでもヴォルフは納得しない。

振り手振りをえながら抗弁する。

「そんなことをしてよろしいのですか？　大公閣下はなんと？」

「父はこういっておられた。『ヴォルフ様を手本とし學べ』と」

「大公閣下もいたくあなたをお気にりのようですよ。今から仕してはいかがですか？」

最後にリーマットが肩を竦める。

すでに村長の許可は取っているらしい。

魔獣から守ってくれるとなれば、村民たちも大歓迎だった。

アンリはヴォルフの手を取る。

花のように笑った。

「これからもよろしくお願いします、ヴォルフ様」

ヴォルフは頭を掻き、照れを誤魔化すのだった。

これにて竜殺し篇が終了です。

ちょっと長くなりましたが、いかがだったでしょうか？

気にってもらえたら、是非ブクマ・評価をお願いします。

次回は【最強勇者の竜殺し篇】です。

こちらは１話で終わりますｗ

今後ともよろしくお願いします！