《【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~》第21話 おっさん、最強幻獣と契約する。

冒険者始篇終了です。

ここまで読んでくれてありがとうございます!

※ 2018/01/27 14:00

付嬢の描寫を加筆・修正しました。

行商人の名前をいうパートを戻しました。

付嬢とのやりとりを加筆・修正しました。

売人たちを憲兵に任せ、ミケとともに帰路につく。

屋敷の前には、せわしなく通りを眺めるミランダが立っていた。

夕闇の長い影法師が、老婆の足下へとびていくと、老婆は恐る恐る2人の方へと振り返った。

ヴォルフ、そしてミケの姿を認めると、思わず口を覆う。

涙がじわりと滲んだ瞬間、何かを思い出したかのように目元を拭った。

すぐに、いつもの仏頂面に戻ったが、キュッと引き締めたはずの顎が、わずかに震えている。

ちゃ、ちゃ、ちゃ、と石畳を歩きながら、ミケは近づいていく。

お互い睨み合った後、はじめに口を開いたのはミランダだった。

「この馬鹿貓が! こんな時間まで何していたんだい!!」

ミケは頭を垂れ、鳴き聲を上げた。

ヴォルフにはなんといったかわかったが、ミランダにはさっぱりだ。

「ちょいと、ヴォルフ。あんた、ミケの言葉がわかるんだろ? なんか言いたそうにしてるから、通訳しな」

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ヴォルフは頷き、1人と1匹の間にる。

『ごめんよ、ミランダ』

「ふん。反省はしてるようだね。今度、黙って――」

『……あんたの旦那を殺したのは、あっちだ』

「…………ッ!」

突然の告白だった。

ミランダは口を開けたまま固まる。

通訳をしたヴォルフも、戸っていた。

『あっちが殺したようなものだ。旦那の命令を無視して、挙げ句死なせてしまった。旦那のが弱っていることはわかっていたのに。側についてやれなかった。だから、ごめん……ミランダ』

再び【雷王(エレギル)】と呼ばれた伝説の幻獣は頭を下げた。

ミランダは呆然と、貓の頭の裏を見つめる。

やがて杖にすがりながら、ゆっくりと腰を下ろした。

ミケを抱き上げる。

「馬鹿だねぇ……あんたは。そんなことを、ずっと気にしてたのかい?」

そっと頭をでた。

ミケの2の瞳からは、明な涙がこぼれていた。

それを子供のようにあやすミランダ。

夕日に映える2人のシルエットは、母と子供の姿だった。

「恨んでなんぞいないよ」

『でも――』

「あの人のことだ。きっとあんたに迷をかけたことだってあるだろ。その時は、たまたまあんたが命令を無視して、たまたま旦那が不運を引いちまった。……ただそれだけだ」

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『そんな風に割り切れないよ。あんたの旦那が死んだんだ』

「覚悟はあったよ。あたしの旦那はね。伝説の雷獣使いロカロ・ヴィストなんだ。あの老で、年に300回以上のクエストをこなしていた。あんたたちが屋敷から出て行く時、いつも『今度こそは――』って気持ちで送り出してた」

話を聞きながら、ヴォルフは思う。

ミランダもまた戦っていた。

夫が死ぬかもしれない。

その恐怖と……。

もしかしたら、それは魔獣よりも怖いものかもしれない。

そんな化けと、ミランダも長年戦ってきたのだ。

きっと、ミケと出て行く時、ミランダは夫の後ろ姿を見ながら、何度もその手を引こうと考えただろう。

してでも、夫を止めたいと思ったはずだ。

だけど、ミランダは必死に堪えた。

何故なら、彼もまた伝説の雷獣使いロカロ・ヴィスト――。

その、妻なのだから……。

「あたしは嬉しかったんだよ、ミケ。……あんただけでも戻ってきてくれたことを。ありがとう、。あたしを1人にしないでくれて」

ギュッとミケを抱きしめる。

老婆の瞳から滂沱と涙が流れた。

ミケはわんわんと犬のように(ヽヽヽヽヽ)鳴く。

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橫でヴォルフも涙を拭った。

「(やっぱ家族はいいものだな)」

ヴォルフは夕空を眺めた。

晝と夜の間に、1つの星が輝いていた。

◇◇◇◇◇

お互いの匂いがり付くまで抱き合った後、ミランダはヴォルフに向き直った。

「あんたには世話になったね」

「俺は何もしてないですよ」

照れくさそうにヴォルフは頭を掻く。

すると、ミランダは杖を突き、ヴォルフに近づいた。

「1つ頼み事をしていいかい?」

「俺が出來ることなら、何でもいってくれ」

「今の流れでこんな話をするのはおかしいとは思うんだけどね。……あんた、ミケをもらっちゃくれないかい?」

「ええええ!!」

思わず聲を上げてしまった。

だが、それ以上に驚いていたのは、ミケだ。

石化したかのように固まっている。

先ほどのを返せ、といわんばかりに、顎をあんぐりと開けて、控えめにいっても面白い顔をしていた。

「み、ミケはあんたの家族だ。それを俺になんて」

「あんただって、離れて暮らす家族はいるだろ」

「そ、そうですけど……」

「それにこの子の力は今の世の中には必要なんだろ。ババアのベッドの橫で寢かしておくのはもったいない。信頼のおける冒険者に預けた方が、人様の役に立つってもんさ」

『ま、待つにゃ! ミランダ! あっちがいなくなったら、あんた1人になっちまうじゃないか』

ようやく石化が解けたミケが、反論する。

対して老婆は余裕の笑みを浮かべた。

「孫が商売で1発當てたらしくってね。大きな家を建てたから、一緒に住まないかっていわれてる。実は明日、迎えにくるんだよ」

『な――ッ! 明日!!』

「どうだい、ヴォルフ? 生意気で無想な貓だけど、力は保障する。あんたの冒険者稼業に加えてやってはくれないかい」

【雷王(エレギル)】と呼ばれる幻獣が、ヴォルフのものとなる。

これほど心強い戦力はない。

ランクが上がり、クエストの難易度が上がれば、どうしても他人の力が必要になる。どれほど強かろうと、ソロでは限界があることを、15年冒険者をしていたヴォルフは理解していた。

ただやはり問題はミケが、それを認めるかどうかだろう。

『わかった。そういうことなら、こいつと契約する』

「いいのか」

『ミランダが1人じゃにゃいなら、それでいい。……それにあっちには戦場に戻る理由はあるんだ』

「主の仇か。でも、もう狩られているかもしれないぞ」

『あいつは生きてる。絶対――』

の雙瞳が、鋭くる。

それでもヴォルフは反論した。

「いいのか、俺で……」

『問題ない。てか、あんた……。相當強いだろ。なんでFクラスなのかは知らないけど。ああ、でもあんたが強い訳じゃなくて、あんたをそんなにしたヤツが強いのか』

かされていた。

ミケの意志の堅さを知って、ヴォルフもようやく観念する。

今の自分にとっては願ってもない申し出なのだ。

斷る理由はなかった。

早速、準備が始まる。

幻獣と契約するには、儀式が必要なのだ。

ミケはを切り、ペッとを吐き出す。

石畳にしみこんでいくと、赤い魔方陣が浮かび上がった。

「俺は何をすればいい?」

「その魔方陣に手をかざして。あっちがいいと言うまで離すんじゃないよ」

言われた通りに、手をかざす。

ごくりと唾を飲み込んだ。さすがに張する。

ミケは呪文を唱えた。

「雷よ、我の聲に耳を傾けよ。我、其の下僕ミケ。天の掟から外れし、傅くものなり。契約の名はヴォルフ。いかなる時も側を離れず、真命に従い、悪意あれば払い、命を共にするとここに誓う」

すると、ミケは顔を上げる。

いよいよ出番かとなったその時、幻獣はこういった。

「出來れば夏と冬の休暇がほしい。ミランダに會いたいんだ」

一瞬、何をいわれたのかわからなかった。

しかし、言葉の意味が脳にしみこんでいくと、契約者は口角を上げて笑った。

ああ……。許可する。

魔方陣がり輝く。

夜の帳が降りかけていた街中を、赤く染めた。

ヴォルフはその強烈なに飲み込まれていく。

気がつけば、手に紋様が浮かんでいた。

焼き印を押されたように湯気が上がっていた。

「契約完了だ。よろしくな、ご主人様」

ミケはニヤリと笑う。

ヴォルフも満足そうに頷き、もふもふのでてやった。

こうして『竜殺し』『100人斬り』と呼ばれる冒険者のもとに、【雷王】ミケが仲間になった。

◇◇◇◇◇

「あの~、お願い出來ませんか?」

翌朝、ヴォルフはミケを伴って、ギルドにやってきた。

【雷王(エレギル)】と契約したのだ。

この実績を理由に、ヴォルフはクラスを上げてほしいと願い出た。

カウンター越しにミケを見つめた牙犬族のギルド職員は、頬をタプタプとかしながら怒鳴った。

「卻下です! これのどこが【雷王】なんですか? だいたいどこで拾ってきたんですか、こんな大きくて、小便臭い貓」

『ニャンだと!!』

激昂したミケは、貓パンチを食らわそうとするも空振りに終わる。

この後も何度か説得を試みるも、ギルド職員は強面を揺るませることはなかった。

「(弱ったなあ)」

ミランダのクエスト依頼の報酬で、なんとかニカラスに帰るお金は工面できた。

しかし、幻獣は金食い蟲だ。

これからミケを飼うことを考えれば、この町で高いクラスのクエストをやっておきたかった。田舎のギルドだと、報酬がないのだ。

そのためには、せめてDクラスの冒険者にヴォルフは戻りたかったのだが……。

「駄目なものはダメです。お引き取りを」

取り付く島もない。

また「弱った」とヴォルフは癖を掻いていると、背後に気配をじた。

振り返ると、黒髪、淺黒いがニコリと微笑みかけてきた。

「やっぱり、ヴォルフさんじゃないですか!」

「ああ……。行商人さん」

ニカラスの村に來ていた行商人だった。

最近見ていなかったが、どうやら元気そうだ。

いや、それどころか見違えていた。

前はもっとみすぼらしい格好だったはずだが、今はまるで違う。

家が被るような丸平帽に、丈の長い折り目のついたスカート。

口元には紅を差し、化粧が施され、魅力にさらに磨きがかかっていた。

最初に聲をかけたのは、ヴォルフだった。

「奇遇ですね。こんなところで出會うなんて」

「クライアントと待ち合わせしてるんですよ」

「商売がうまくいってるようで、何よりです」

「ええ……。でも、腑に落ちないんですよね。いきなりリファラス公の使者が來て、屋敷に仕れる食材の調達を任せたいって依頼されたんです。おかげで生活が一変しましたよ」

「そ、それは――」

その後の音沙汰は聞いていなかったが、どうやらヘイリル公は約束を守ってくれたらしい。

しかし、商売が順調なのは、大公閣下のおかげだけではないだろう。

安全で味しい食材を調達した行商人の功績だ。

長した彼を見て、ヴォルフは目を細めた。

「あ! まだ鋼の剣を使ってくれてるんですね。嬉しいなあ。『竜殺し』の噂は聞いてますよ。マザーバーンを倒したんですって」

「よくご存じで」

「リファラスの領民なら誰でも知ってますよ。『竜殺し』のヴォルフ。……最近は、あの【灰食の熊殺し(グレム・グリズミィ)】を壊滅させたとか」

「ええ、まあ……」

やや食い気味に行商人は、わざとらしい仕草で質問する。

よく通る聲は、ギルドの隅々まで響いていた。

すでに付近くにいる冒険者の注目を集めている。

行商人はヴォルフと付嬢のやりとりを見ていたのだろう。

ヴォルフはし後ろをちらりと見た。

先ほどまで顔を真っ赤にして怒鳴っていた犬顔が、真っ青になっている。

手元の書類をパラパラと取り落とした。

「う、噓……」

絞り出すように呟く。

すると、行商人はヴォルフの脇を抜け、カウンターに迫った。

「噓なんかじゃありません。私が保証します。この方は、ニカラスのヴォルフ。『竜殺し』そして『100人斬り』のヴォルフ・ミッドレスご本人ですよ」

「そんな……。こんなおっさ――」

慌てて口を噤む。

行商人は目を細めた。

単純に怖い。

こんな顔も出來るのだと、橫目で見ててヴォルフは心した。

「疑いますか? しかし、私はリファラス公の屋敷に通う用商です。それに私は竜討伐のお話を大公自らの口で聞きました。疑うというのであれば、閣下を疑うということですか、よろしいでしょうか?」

「え? いや、そんな決して――」

付嬢はオロオロし始めた。

その橫からギルド長らしき恰幅のいい男が現れる。

狀況は察しているらしく、冷靜に尋ねた。

「何か分証のようなものはお持ちでしょうか?」

「ギルド長! 待ってください。ここは私が――」

「君はし黙っていなさい」

冷たい視線を眼鏡越しに向ける。

ひぇ、と小さく悲鳴をあげ、付嬢は借りてきた貓のように大人しくなった。

分証はないが、カラのギルドの紹介狀ならある」

ギルド長に紹介狀を渡す。

眼鏡を上げながら、容を確認した。

「おお。パルシィ君の紹介狀じゃないか」

「ぱ、パルシィ?」

「君の前任者だよ。非常に優秀な付嬢でね。ゆくゆくは経営に関わってもらうため、今は地方の小さな支店で働いてもらっている。彼の見立てなら問題はないだろう」

「そ、そんな……。私はただ規則を……」

「地方のギルドの紹介狀を突っぱねるような規則はないと思うがね。せめて私に相談するべきだった。後で話し合おう、みんなと。……まあ、その前に我々にはやることがあると思うが、ね!」

「ひぃ! す、すみませんでした!!」

付嬢は遠吠えならぬ、悲鳴を上げた。

カウンターを飛び越え、その場で土下座する。

後ろのギルド長も、他の職員も立ち上がって、「申し訳ありません」と頭を下げた。

「いや、そこまでしなくてもいいですよ。俺はDクラスに戻りたいんです」

「も、もちろんです。Dでも、Aでも構いません。お好きなクラスをお選びください。だから、どうかお命だけは……」

完全に平服してしまった。

先ほど、カウンター向こうで息を吐いていた人とは思えない。

ぺたりと垂れた犬耳に、ミケは小便をかける。

ささやかな悪戯に【雷王】と呼ばれる貓の幻獣は、満足そうに笑うのだった。

◇◇◇◇◇

「よろしかったのですか? Dクラスで。あなたなら、実績はともかくAクラス相當(ヽヽ)の資格は取れるでしょう」

ヴォルフは行商人にわれ、ギルド近くの酒場でお茶を飲んでいた。

椅子の下では、ミケがを浴びながら、気持ちよさそうに寢ている。

行商人が言うように、めば高いクラスの資格を取れただろう。

だが、ヴォルフはDクラスから始めたかった。

ここからやり直したかったのだ。

理由を説明すると、行商人は笑った。

「相変わらず、がないなあ。まあ、そこがヴォルフさんのいいところなんですけどね」

褒められているのか。

それともけなされているのか。

ともかくヴォルフは癖を掻いた。

照れを隠すためだ。

「先ほど、ありがとうございました」

「なんのなんの。困った時はお互い様です。――あ、すいません。私、約束があって。自分でっておいてごめんなさい」

「いえ。お構いなく、行商人さん」

「あ。そういえば、私まだ名前を名乗っていませんでしたね」

ヴォルフは頷く。

昔から「行商人さん」と呼べば話は通じるから、ずっとこの名前で通してきた。

長年付き合っていながら、名前を知らないというのはおかしな話だ。

行商人は帽子の角度を直し、黒い髪を淺黒い手で直す。

南方生まれと思われる彼は、ミステリアスに笑った。

「私の名前はステラ。……ステラ・ヴィストって言います」

次回から新章が始まります。

もちろん、明日更新です。

まずレミニアパート『パパの名にかけて篇』を2話お送りします。

そしてとうとうヴォルフパート『災害魔獣討伐篇』では、ついにSクラス魔獣とヴォルフが激突します。

作者個人的に、今までの章の中で最高に“あがる”話に仕上がったと思っておりますので、是非最後までお見逃しなく!

まだまだテンション上げて話を書いていきます!

ブクマ・評価・想・レビューなどをいただければ幸いです。

今後ともよろしくお願いします。

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