《【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~》プロローグ Ⅲ

お待たせして申し訳ない。

第3章『伝説騎士道』が開幕です。

※ ちょっと長めなのでお気を付け下さい。

自分は農奴だ。

エルナンス・ウィットが、その現実に直面したのは、7歳の時だった。

首も據わり、自らの足で立ち、農場を歩き回れる頃には、両親の指示に従って、種まきや料を蒔く手伝いをしていた。

歳を取る度に仕事が増え、5歳になる頃には大人と比べても遜なく働いていた。

王都に住む貴族や商人の子供なら、初等學校に學する時分だ。

だが、農奴の子供は學校などいかない。

朝早く起きて、地主が管理する廄舎の清掃をし、それが終われば畑に出て水を蒔き、が高くなればびてきた雑草をむしった。

夕方になっても、蝋燭の明かりを頼りに鍬や鋤の研ぎを行い、そしてようやく泥のように眠る。

友達などいない。

話相手といえば、家族ぐらいだが、食卓に集まっても會話はなく、せいぜい明日の段取りを伝える程度だ。

唯一の取り柄といえば、上背が他の子供よりも高いことだろう。

おかげで、鍬や鋤を早くから扱い、畝作りの速さは大人顔負けだった。

他の農奴からも羨ましがられ、照れる父と母の顔が何よりの誇りだった。

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農奴は領主や地主から土地を借りけ、耕作する農民のことだ。

土地を借りる代わりに、そこで取れた農作などを稅金として納めることが義務づけられている。

基本的に領主に隷屬し、職業選択の自由はない。

だが、一生農奴のままかといえば、そうではない。

借りけた土地を自ら買い取ったり、領主の許可を得て、自ら農地を開墾することによって、自由小作者(レッダー)の分を手にれることが出來る。

その道は決してやさしくはない。

稅金の歩合は、領主や地主が決める。

また自由小作者となって農奴が獨立すれば、土地を買い取ったことにより一時的に金はるが、地主にしてみれば土地と人を1度に失うことになる。

故に、農奴がひからびず、また貯蓄を殘さない程度に歩合を決める地主がほとんどだった。

エルナンスが隷屬していた地主もそんな男だった。

だから、生活はいくつになっても貧しく、父と同じぐらい働いてもよくなることはなかった。

それに、農奴の悩みは、それだけではない。

ストラバールに棲息する魔獣も悩みの種だ。

ヤツらは雑食だ。

人間も食らえば、家畜や作も食らう。

1度、農場に現れれば、甚大な被害をこうむる。

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特に地中に住む魔獣は厄介で、ある年には野菜をすべて食べられた事があった。

稅金が払えなければ、それはそのまま地主への借金になる。

次の年に完済できなければ、奴隷市場に売られるのが常だった。

エルナンスが7歳の折。

再び魔獣は現れた。

昨年と同じだ。

地中から現れ、作こそぎ奪っていく。

今のところ、被害は3割程度。

このままなら、昨年の借金分なら返すことができる。

だが、魔獣はそれほど甘くはない。

それに魔獣を追っ払うため、寢ずの番をしていた父が怪我をした。

幸い足の骨を折った程度で命に別狀はなかったが、働き盛りの人間を失うことは、別の意味でショックだった。

エルナンスたちは何度か地主に魔獣討伐をギルドに依頼するように請願したが、頑としてれてくれなかった。

ここは辺境だ。

ギルドは遠く、依頼料と通費を合わせれば、結構な額になる。

払えない額ではないのだが、ケチな地主は渋っていた。

被害が出ているのはエルナンスの農場だけなのも、重い腰を上げない理由だった。

途方に暮れる中、エルナンスの農場付近を、ある騎士団が通りかかる。

の鎧を纏い、金と白の旗。

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旗には、獅子と鷹を掛け合わせたような幻想生が描かれていた。

初めてみた騎士の姿……。

子供のエルナンスは、憧憬の眼差しを向けた。

そしてフラフラと一騎の騎馬の前に踴り出る。

慌てて騎士は手綱を引いた。

「馬鹿者! 馬の前に突然現れるなど。怪我をしたいのか!!」

牛がくしゃみしたような罵聲が飛んでくる。

だが、エルナンスはひたすら平伏した。

そして聲を張り上げた。

「す、すいません……。で、でででででも!! お願いがあります!」

「ふざけるな! お前みたいな農奴の――」

「待て……」

進み出たのは、1人の騎士だった。

先ほどとは聲音が違う。

穏やかだが、の底には厳しさが垣間見られるような聲だと思った。

「我ら騎士団の前を遮ったのだ。よほどの覚悟があってのことだろう」

「しかし――」

「くどいぞ!」

聲で黙らせる。

そこにはきっと、強い睨みもあったのだろう。

だが、頭を下げているエルナンスには見えなかった。

「聞こう、坊主」

エルナンスは禮をいい、農場の現狀を訴えた。

魔獣に畑を荒らされていること。

地主が討伐依頼に応じてくれないこと。

このままでは借金が返せず、を売られること。

すべて話を終えると、騎士は「面をあげろ」といった。

エルナンスは恐る恐る顔を上げる。

そこにいたのは、騎馬に乗った熊だった。

思わず小さく悲鳴を上げる。

だが、よく見ると、それは人だった。

顔には変わった隈取りがなされ、見たこともない大槍を握っている。

「俺の名前はグラーフ・ツェヘス。お前の願い、我が葉えようではないか」

それがエルナンスとグラーフとの出會いだった。

◇◇◇◇◇

騎士団はグラーフを殘し、帰ってしまった。

列を率いていた司令らしき男は、グラーフを叱責したが、頑として聞かず、彼の直近の部下と思われる者たちも、自の言葉によって王都へと返してしまった。

グラーフの下に殘ったのは、黒く大きな騎馬だけだ。

その馬も半ば興気味で鼻息を荒くしている。

何か怒っていることは確かなのだが、厄介ごとを引きけた主を叱っているのか、それとも主だけを殘して帰ってしまったことに猛っているのかわからない。

ただエルナンスは、今まで見た馬の中でも飛びきり大きい軍馬を見上げるのみだった。

「案(あない)せよ」

グラーフはいう。

たった一言だけだったが、を叩かれたような迫力があった。

被害があった畑へと來る。

めくれた地面を見ながら、グラムドウォームだと當たりを付けた。

Cクラスのモンスターだが、大きさによってその難易度は上がる。

地面の合から察するに、かなり大きい。

恐らくBクラスに匹敵するかもしれない。

所見を述べると、グラーフは地べたに腰を下ろした。

槍を抱きしめるように目をつむる。

その姿を遠巻きに見つめていたエルナンスは、両親に呼ばれた。

魔獣を倒してくれる、と事を話すと、父と母はなけなしの野菜を息子に渡した。

グラーフの下に戻ると、野菜を差し出した。

どれもやせ細った野菜ばかりだ。

貴族が食べるような太った野菜ではない。おそらく甘くもないだろう。

「こんなものしかありませんが……」

「いらん」

「お気に召しませんか。だったら、もっといい野菜を」

「俺が勝手にやってることだ。気を遣う必要はない。だが、どうしてもというなら、水をくれぬか」

「えっと……。すいません。雨水を溜めたものしかないですけど……」

「構わぬ」

一杯の水を差し出すと、グラーフはを鳴らして一気に飲み干した。

お腹よりも、どうやらが乾いていたらしい。

エルナンスは気になって尋ねてみた。

「どうして……。助けてくれるんですか?」

「お前が頼んだのではないのか?」

「す、すす、すいません。えっと、でも……」

「俺は騎士だ。弱い者を守るために騎士になった。……それだけでは理由として不足か?」

「いえ……。ご、ごめんなさい。けど、他の人は」

帰っていった騎士団たちが向かった先を眺める。

グラーフはふんと鼻息を吹いた。

エルナンスはまた「ごめんなさい」と謝る。

そしてグラーフは一言こういった。

「そういう騎士もいる」

それからグラーフはひたすら魔獣を待ち続けた。

が落ち、夜になっても、槍を抱き続け、隈取りの向こうの瞳を閉じている。

エルナンスはし離れた位置で、騎士の背中を眺めていた。

すると、突如立ち上がる。

槍で夜気を切った。

「坊主、家にっておれ」

エルナンスは大人しくいうことに従った。

家に帰り、両親とともに窓から様子を伺う。

変化があったのは、その直後だった。

地鳴りがする。

続けて、地震が起こった。

あばら屋のエルナンスの家が揺れる。

を抑えていた石がゴロゴロと転がり、落ちてきた。

それでもエルナンスは、グラーフから目を離すことはしない。

一方、騎士は槍を構えたままだった。

空気の中に潛む気配を手繰るように集中している。

エルナンスもまた息を飲んだ。

地中から何かが迫ってくるような揺れは、間違いなく魔獣のものだ。

地面が隆起する。

気付いた瞬間、それは現れた。

大地から竜のように夜天へとのぼっていく。

をまき散らし、甲高い鳴き聲を上げた。

をくねらせ、井戸のように丸い口を開口する。

その周りには、16本の鋭い牙が蠢き、すでに犠牲になった野菜のが引っかかっていた。

「大きい……」

グラーフでさえ見上げるような巨軀が、立ちはだかる。

騎士は一歩も引かなかった。

悲鳴を上げることも、焦って顔を歪めることもない。

隈取りに彩られた表は、常に憤怒の形相を示していた。

グラムドウォームは武を構えた人間を指向する。

自分に殺気を向ける騎士を、瞬時に敵だと認識した。

をよじらせ、瀑布のようにグラーフに接敵する。

「危ない!!」

エルナンスはんだ。

グラーフはやはりかない。

居すくんでいるのかとすら思えた。

しかし、構えを変える。

槍を両手で握り、を弓なりに逸らす。

そして一気に自分のを弾いた。

が弾丸のように飛び出した。

【旋巖突破(ドライム・グリル)】!!

グラーフが纏う闘気が高速で回転する。

熱を帯びた1発の砲弾は、グラムドウォームに突き刺さった。

と胃を浴びながら、グラーフは魔獣のを穿孔する。

後尾から飛び出すと、地を削りながら、農場の向こうでようやく止まった。

グラムドウォームはパクパクと牙をかす。

やがて絹がはだけるようにを2つに割ると、どぉと地面に倒れた。

「すごい……」

1発――。

たった1発だ。

大人が全く手も足も出なかった巨大魔獣をたった一人、一突きで倒してしまった。

見ていたエルナンスからすれば、奇跡のような出來事だった。

外へと飛び出し、恐る恐るグラーフに近づいていく。

月下を背に立つ騎士の姿を、瞳に焼き付けた。

すると、騒ぎを聞きつけた地主がやってくる。

グラーフよりも一回りも二回りも背の低い地主は、魔獣の死骸に呆気に取られた後、騎士に食ってかかった。

「あんた、勝手に……。報酬なんて1銭もやらんからな!!」

「かまわん。お前のいうとおりだ。これは俺が勝手にやったことだからな」

まるで議論を遮るように、石突きで地面を叩く。

その鋭い音に地主は1歩さがりながら、額にかいた汗を拭った。

「な……なら、いいんだ」

「だが、2匹目は別だ」

「は?」

「さっきお前が來た方向へともう1匹が逃げていった」

「う、噓を付け!!」

噓ではない。

ウォーム系の魔獣は番(つがい)で行するのが常だ。

おそらくもう1どこかに潛んでいる。

グラーフが持つ探知系のスキルによれば、地主の農場の付近にいることは間違いなかった。

「そいつについては、報酬をもらおう。そうだな。金貨2枚でどうだ?」

「わ、私の農場に魔獣が……」

地主の顔が青ざめる。

おろおろと慌てたが、どうしようもない。

今、ここで魔獣を倒せるのは、目の前にいる男以外いないのだ。

「わ、わかった。よろしく頼む……」

グラーフはその後、もう1のグラムドウォームを倒した。

地主は渋ったが、最後は騎士の迫力に押され、金貨2枚を差し出した。

そうこうしているうちに、次の日の夕方になる。

赤い夕日が、草原の向こうの地平へと沒しようとしている。

「水の禮だ」

グラーフは先ほど地主からもらった金貨2枚をエルナンスに手渡した。

初めて見た金貨は、まだ騎士のぬくもりが殘っていて溫かい。

「い、いいんですか?」

「借金には足りるだろう」

借金分どころではない。

ここにし儲けを足せば、土地を買い取ることだって夢ではない。

だが、今より作を増やすためには開墾し、農地を広げる必要はある。

それでも、きっかけとしては十分だった。

そしてこの騎士との出會いも。

年に渦巻いた憧れと意志を決めるのに、十分すぎるほど鮮烈なものだった。

エルナンスは顔を上げる。

「あの……。僕、騎士団にりたいんです! どうしたらなれますか?」

「坊主……。貴様今、何歳だ?」

「な、7歳です」

「ほう……。その割には背が高いな。それは貴様の長所になるだろう。それを忘れるな」

馬上からグラーフはエルナンスの頭をでる。

その雄大な手の平の大きさは、一生忘れられないと思った。

グラーフは馬の腹を叩く。

黒馬は何か「やれやれ」という風に嘶くと、ゆっくりとき出した。

「ありがとう、グラーフのおじ――グラーフ將軍!!」

赤い夕日に向かって歩く騎士の背中に手を振る。

この時のグラーフはまだ大佐だ。

エルナンスが將軍といったのは、その位しか知らなかったからだ。

だが、この5年後、グラーフはレクセニル王國軍を率いる將軍となる。

主人公不在のオープニングですが、

明日からきちんとヴォルフが活躍しますので、どうぞご期待下さい。

後々、この2人は出てきますのでお見逃しなく。

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