《【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~》第45話 約束の景
『騎士団長はつらいよ篇』最終回です。
直撃だった。
右頬を強打したマダローのはゆっくりと浮き上がる。
數拍、虛空を漂った後、演武臺に叩きつけられた。
薄く砂塵が立ちのぼる。
貴族出の騎士はぴくりともかなくなった。
そこまでの様子を、観衆たちは目に焼き付ける。
大きくをかし、やがて歓聲と悲鳴がりじった。
札券が紙吹雪のように舞い上がり、男たちは頭を抱え、たちは聲援を送る。
半狂になりながら、罵倒するものまでいた。
これまで1勝もしてこなかった騎士が、とうとう相手を打倒したのだ。
誰の目から見ても、驚きの番狂わせであったことは間違いない。
當の本人はというと、構えたまま地面に伏した同僚を見つめていた。
まだ信じられないらしい。
肩で息を繰り返し、目を大きく見開いたままで固まっている。
やがて遅れてやってきた実が、1つの言葉を青年に吐き出させた。
「やった!」
子供のように目を輝かせ、エルナンスは振り返る。
視線の先に立っていたのは、自分に拳を與えてくれた師匠だった。
「痛ったそぉ……。すっげぇ、拳打だな。あれがあんたの仕込みかい?」
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ウィラスは橫のヴォルフに目を向ける。
腕を組み、仁王立ちを崩さぬ壯年の男は口角を上げた。
「まあ、そんなところだ」
とはいえ、一朝一夕でなったわけではない。
あれほどの拳打を繰り出すことが出來たのは、やはりエルナンスの才能――いや、彼の生い立ちに起因する。
エルナンスはこの騎士団にるために、辛い開墾作業を続け、地主から土地を買い上げたといった。
開墾の作業は苦労の連続だ。
木があれば切り倒し、巖があればどかし、土地を太らせるために鍬を振る。
いくら時間があったとはいえ、子供1人でやれるものではない。
それでもエルナンスはやり遂げた。
だが、その果は土地を買い上げた以上に、彼のにも変化をもたらしていた。
自が気付かぬうちに、拳闘に必要な筋を手にれていたのだ。
ヴォルフはそこに気付き、彼に近接戦を提案した。
むろん、簡単な道ではない。
エルナンスの苦手は、相手との接敵だ。
何より、槍は彼の憧れであるツェヘスの十八番。
恐怖と憧れを捨てさせるのは並大抵のことではない。
だが、エルナンスは克服した。
ヴォルフの期待に答えたのだ。
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勝利に酔う弟子の姿を見ながら、ヴォルフは顔を上げる。
「エルナンス……」
勝負はまだ終わってないぞ。
エルナンスの広い背中は、敏に殺気を捉えた。
振り返る。
よろよろと騎士が立ち上がろうとしていた。
足をもつれさせながら、二本の足で立ち上がる。
顔を上げると、右頬が真っ赤に腫れていた。
右眼が塞がっているように見えるが、ギラリと生気をらせる。
ウィラスはを乗り出した。
「おいおい! マダロー、立ち上がりやがったぞ!!」
「そりゃあ。立ち上がるさ」
ヴォルフは薄く微笑む。
【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】の眼にははっきりと映っていた。
拳打の直撃を喰らう直前、マダローが強化系の魔法で防したのを。
おそらく土屬の化魔法だろう。
【呪唱破棄】の技も見事だが、一部の化とはいえ魔法速度も速かった。
普段から魔力作を練習していないと出來ない蕓當だ。
「あいつ、いつの間にあんな魔法を……?」
「素質はあったんだ。俺と戦った時も魔を使っていたしな」
魔法がかかった武や道は、ただ裝備するだけでは効果を示さない。
使い手の魔力を流し込まなければ、寶石がついたただの嗜好品だ。
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「なんか……。やけにマダローのことをよく知ってるじゃないか、ヴォッさん」
「そりゃそうさ。……あいつを焚きつけたのは俺だからな」
「はあ!?」
目を剝くウィラスを見ながら、ヴォルフは思わず「くくく……」と聲を上げた。
『マダロー、次の試合……。お前、エルナンスに負けるぞ』
『はあ!? んなわけねぇよ! 引っ込んでろ、田舎者』
『何せ今、俺があいつを鍛えているからな』
『なにぃ?』
『それに……。お前自が気付いているんじゃないのか? あいつが日に日に強くなってるのを。だから、ムキになってちょっかい出してるんだろ?』
『ち、ちげぇよ!! んなわけ――』
『まあ、それはいいさ。……で、ここからが本題だ。お前、俺に鍛えられないか?』
『……お前。何を企んでんだ? 俺様は貴族だぞ。お前、農奴野郎に肩れしてるんじゃないのか?』
『貴族も農奴も関係ないさ。俺はただ単にお前たち(ヽヽヽヽ)に強くなってほしいだけだ』
痛ってぇ……。
立ち上がったマダローは、自分のの方へ視線を落とした。
鎧に赤いがかかっている。
當然、口は錆びた鉄の味がしていた。
つと何かに気付き、プッと吐き出す。
白い歯が転がった。
「(思いっきりやりやがって……。あの田舎野郎にいわれて、魔法を勉強してて良かったぜ)」
顔を上げる。
ヴォルフと視線が合わさった。
にやける客將の表を見て、マダローは反的に顔を背ける。
「(絶対認めないからな!!)」
言いながらも、マダローは思い出していた。
ヴォルフから基礎力と筋において、自分はエルナンスにかなわないこと。
だが、魔力作という點においては、まだ分があること。
だから、レベル3までの魔法を片っ端から覚え、家のつてを使って、魔導士から魔力作を叩き込まれた。
おかげで、レベル3クラス程度の魔法なら、瞬時に発現することが出來る。
しかし、魔法はうまく機能したものの、エルナンスの攻撃力はそれ以上だった。
「まだやれるのか?」
審判に確認される。
マダローは大きく頷いた。
右目が半分閉じかかっているが、左目はまだ健在だ。
落ちていたロングソードを拾い、今一度構えを取る。
「お前には絶対に負けねぇ……」
その言葉は呆然とするエルナンスに屆いた。
我に返った青年もゆっくりと構えを取る。
「うん。僕も負けないよ」
目をぎらつかせる。
そこに近接を許して、慌てる田舎者の姿はない。
ライバルに認められて、戦うことに真の喜びを得た騎士の姿があった。
審判は再開を宣言する。
瞬間、2人は前へと飛び出した。
◇◇◇◇◇
演武臺で戦う若い騎士を見ながら、ウィラスは尋ねた。
「なあ、ヴォッさん。マダローにもアドバイスしたのは、後で貴族側に難癖をつけさせないためか?」
エルナンスだけに肩れすれば、後で貴族出の騎士から贔屓だと後ろ指をさされる可能がある。だから、ヴォルフはマダローにもアドバイスを送った。ウィラスはそう言いたいのだろう。
ヴォルフは首を振る。
「別にそんなことは関係ない。マダローにもいったが、俺は2人の若者に強くなってほしかっただけだ。……それに、この景を見て、今さら貴族も平民も関係ないだろう」
ウィラスは演武臺に視線を戻す。
貴族と農奴が真剣に渡り合っていた。
れるように飛んでくる剣をけ、蜂のように突き刺す拳打をかいくぐる。
それに対して、皆が聲援を送っていた。
貴族も、分の低い家臣や給仕も関係ない。
皆、拳を振り上げ、手を叩き、聲を張り上げていた。
競技會の一回戦とはとても思えない。
まるで決勝戦のような盛り上がりだった。
ヴォルフの言うとおり、そこに分の差などなく、ただ2人の男の強さに注視するの通った人間がいるだけだった。
が熱くなるのを、ウィラスはすでにじていた。
久しくこんな景を見ていなかったからだ。
「競技會を開いたのも、大將や騎士団に対する疑念を払拭するためか?」
またウィラスは尋ねる。
ヴォルフはちらりと橫の副長を見たが、すぐに前を向いた。
「最初はそう思っていたかもしれない。……でも、今のウィラスの質問を聞いて、ようやく思い出したよ」
ヴォルフがやりたかったのは、やはりたった1つだ。
強くあってほしい。
騎士団はただこの國を守るためにあるのだから。
「ありがとうな、ヴォッさん」
ウィラスが呟いた謝の言葉は、大聲援にかき消された。
とうとう決著がついたのだ。
演武臺の上に、大の字になって倒れていたのは、マダローだった。
指先1つかすことが出來ず、虛ろな目を青い空にやっている。
確認した審判係は「勝負あり!」と宣言した。
それを耳で聞いたマダローは、かにを噛んだ。
「くっそ……。負けたのか、おれ……」
魔法を取りれた戦は完璧だった。
豆が出來るほど投げたナイフも、相手の虛を突くのにうまく機能した。
でも、エルナンスの化けじみた基礎力の前にやられた。
ちくしょう……。
涙が滲みそうな一瞬、視界にエルナンスの顔が映った。
農奴や田舎者と罵った男が見下ろしている。
その瞳は、マダローからすれば冷たく映った。
手を挙げる。
挑発するように軽く指をかした。
「ほら、來いよ。俺は瀕死だぞ。今なら毆りたい放題だ。今までの憂さを晴らせよ、ここで」
マダローは目をつぶる。
毆ったり蹴ったりしたのだ。
報復は覚悟の上だった。
すると、何か蓋を抜くような音が聞こえる。
さらに半開きになったマダローの口に何かが流し込まれた。
途端、の味よりも濃い苦さが、口どころか胃にまで広がる。
「にっが!!」
気を失いかけていたマダローは立ち上がった。
その様子を見て、エルナンスは微笑んだ。
「良かった。気が付いて……。大丈夫ですか、マダローさん」
「て、てめぇ! 何を飲ませやがった!!」
ぺっぺっと吐き出そうとするも、苦みは舌の上に殘り続けた。
悪態を吐くマダローだったが、自分の傷が治っていることに気付く。
「す、すいません!! ヴォ、ヴォルフさんからもらった薬……。ちょっと殘ってたから飲ませたんです」
「あの田舎者の?」
傷が完全に回復している。
力もだ。今からもう一戦できるぐらいに、活力が漲っていた。
「なんで俺なんかに飲ませたんだよ。俺は負けたんだ! 日頃の復讐をするチャンスだろうが!!」
「復讐……?」
「日頃、俺がやってることをやり返すんだよ!!」
「日頃やってるって…………訓練のこと?」
「はあ!?」
これにはマダローはおろか聞いていたウィラスやヴォルフも驚いた。
周囲の反応に、エルナンスは戸う。
口癖になっている「すみません」を繰り返した。
「ぼ、僕はてっきりマダローさんが僕を鍛えているのだとばかり……」
…………。
唖然とする。
やがて笑いがれる。
次第に大きくなり、大笑いへと変化した。
マダローはあんぐりと口を開けたまま固まっている。
やがて顔を赤くして怒りをわにした。
「俺は鍛えてたんじゃねぇ。いけ好かない田舎もんをいじめて楽しんでいただけだ?」
「す、すいません! え? でも、その……。いじめってなんですか?」
「はあ!!?」
ヴォルフもまた吹き出した。
エルナンスがわからないのも無理はない。
農奴だった彼にとって、理不盡なこととは、死に関わることだからだ。
天候不順や魔獣の被害で作が取れない。
作が取れなければ、自分たちの食べがない。
借金をし、返すことができなければ、今度こそ人権を失う。
そもそも作を狙った野盜が現れれば、簡単に命を奪われる。
塀があって、屋敷があって、溫かいご飯がある。
そんな貴族たちからすれば、想像も出來ない世界にエルナンスはを置いていたのだ。
蹴られ叩かれても、命がある喧嘩など、彼からすれば幸せなことかもしれない。
他人から歪んでいるように見えても、鍛えてくれていたとエルナンスが勘違いするのは、無理からぬことだ。
「マダローさん、ありがとう」
「謝されるようなことはしてねぇよ。あと“さん”付けはやめろ。今回の競技會で、お前の方が上になるんだからな」
「え? でも――」
「けどな、次の競技會で絶対に勝つ!! 覚えてろよ」
「う、うん。マダローさ――じゃなかった、マダロー。でも、次も僕が勝つよ」
そっと手を差し出す。
マダローは鼻を啜ると、エルナンスの手を握った。
引っ張り上げられる。
2人の紳士を見て、両者に溫かい拍手が送られた。
勝者が敗者を讃え、敗者が勝者を讃える。
その崇高な姿に、観客は心を打たれたのだ。
賛辭と拍手は、2人が演武臺から降りてもしばらく続く。
騎士団に対する疑念など吹き飛び、ただ溫かな空気だけが満ちていた。
「まったくよ……。1回戦から盛り上げてくれるじゃないか」
ウィラスは槍を持ち上げる。
その側でヴォルフもまた腰に刀を下げた。
「俺たちも負けないようにしないとな」
「俺はあんたに負けるつもりはない」
「俺もだ」
1回戦の注目カード。
実質的な決勝戦が今、始まろうとしていた。
ヴォルフVSウィラス。
演武臺に並んだ2人を見て、春の空気だった競技會のテンションは、赤く焼けた鉄のように熱くなる。
「準備(アーレ)……」
両者は構える。
會場は一気に靜まり、固唾を呑んだ。
「開戦(ヴァルド)!!」
湖面に金槌でも叩きつけるかのような気勢が、ルドルムに轟くのだった。
どちらかといえば、ヴォルフが裏方に回り、
若き騎士達が活躍するお話でしたが、いかがだったでしょうか?
こういう教語は、拙作『嫌われ家庭教師のチート魔講座』にて、がっつりやっておりますので、
気になった方はどうぞお求め下さい(本の宣伝を忘れないプロ作家の鑑w)。
さて次回ですが、2日ほどお休みをいただき、3月4日より連載再開いたします。
次の章タイトルは【北の奇跡篇】。
主にレミニアパートとなります。
魔獣戦線が行われた戦地を、ハシリー、ミケ、そしてルーハスとともに訪れたレミニア。
一行はそこである奇跡を見ることになる……。
ストラバールに隠された。そしてレミニアの研究テーマである【二重世界理論】とは?
これまで描かれてこなかった世界観の裏側を垣間見るお話となっておりますので、
是非ご一読ください。
引き続き、ブクマ・評価・想・レビューお待ちしてます!!
これからも『最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、無敵の冒険者となり伝説を歩む。』をよろしくお願いします。
ニセモノ聖女が本物に擔ぎ上げられるまでのその過程
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