「こら、ソフィア。ユリウス様の前だぞ」

流石にまずいと思ったのか、父がソフィアを注意する。

妹は特に悪びれた様子もなく、「ごめんなさい」と口先だけの謝罪をしてから父に問う。

「でも、要するにこれってのない結婚ってものでしょ？」

「ああ、そうだ。私はアニス嬢をしているから選んだわけではない」

問いに答えたのはユリウス本人だ。

そしてにんまりと微笑むソフィアを無視して、私を指名した理由を靜かな聲で語り始める。

「私は今、仕事をこなしている時間が何よりも楽しいとじている。故にその他のことにはまったく興味が湧かない。もちろん、異に対しても。だが周囲の環境が、それを許してはくれない」

それはそうだろう。若くして家督を継いだ。しかも、これほどまでの形なのだから。

「毎日のように大量の釣書が送られてくる。他國の貴族や王族からのものもある。親族からも早くを固めろと言われ続けている。なのでひとまず、結婚だけでもしておくことにした」

ユリウスはそこで一拍置いて、私へ視線を向けた。

「結婚するなら、私に一切執著しないようなを選ぼう。そう考えた結果、君が最適だと判斷した」

「……それはなぜですか？」

私が質問すると、父がすかさず口を開く。

「お前は何も気にする必要はないんだ。黙っていなさい」

「いや、彼の疑問は尤《もっと》もだ。知る権利がある」

「そ、それはそうですな。ははは……」

父は後頭部に手を添えながら半笑いを浮かべていた。

その様子を一瞥してから、ユリウスが続きを話し始める。

「……以前一度だけ、私の誕生パーティーなんてくだらないものを開いたことがあった。思いついたのは私の両親。當時まだ家督を継いでいなかった私に拒否権はなかった。そして大勢の招待客が訪れたが、欠席者もごく數存在した。大抵はオラリア家と敵対している家の人間だったが……一人、面白いがいた。他の家族は全員出席しているのに、彼だけがパーティーの場に現れなかったんだ」

ん……？

「調を崩してしまったのかと思えば、その後の調査によって飲食店で働いていたことが分かった。そのが君だ、アニス嬢」

「……その節は、大変失禮いたしました」

「謝らなくていい。私にとっては理想の人だ」

「はぁ……」

とりあえず話を合わせることにしたものの、私は知らなかった。

誕生パーティーがあったことも。我が家にその招待狀が送られていたことも。

父のほうへ目を向けると、「余計なことは絶対に言うな」と言いたげに私を睨みつけていた。