屋敷の中を一通り案されたあと、私の柄は予定通りマリーに引き渡された。

「では、アニス様。まずは浴室へ參りましょうか」

「？　湯浴みなら朝に済ませていますが……」

臭がキツいので、洗い流せということだろうか。

心傷ついていると、マリーは鋭い眼を放った。

「の汚れを落とすためではなく、に潤いを與えるための浴でございます。全が酷い狀態のようですので」

「ぜ、全ですか……」

「その顔と髪を見れば分かります。汚れが落ちやすい分、刺激の強いソープを使っていたせいもあるでしょうけど、過労や栄養失調も原因のようですね。……平民ならともかく、貴族のとはとても思えません」

マリーが頬に手を添えながら眉を寄せるのを見て、私は気まずさから視線を逸らした。

朝から晩まで働き詰め。食事も賄いが食べられない時は、何も口にしないことが多かったのだ。當然の結果だろう。

所に案されると、マリーに素早くぐるみを剝がされて浴室へと放り込まれる。

途端、ふわりと香る甘い香り。

広くて大きな浴槽には淡い白のお湯がたっぷりと張られており、薔薇の花びらが浮かんでいた。

その傍らには數本のボトルが待機している。

「効果のある植のエキス、蜂、ミルクなどをれて作ったお湯です。さあどうぞ、おりください」

「で、では失禮します」

浴槽に恐る恐る足をれてみて、そこからゆっくりと腰を下ろす。

あまりにも心地よい湯加減に、思わず聲がれそうになった。

それに全を包み込むような甘い香りに、心ももけそうだ。

どうにか理を保とうとしていると、マリーに浴槽から出るように言われ、背憑れのついていない椅子に座らされた。

「髪を洗わせていただきます」

青のボトルを手にしたマリーは、いつの間にかメイドの服裝から半ズボンと袖のないシャツというラフな格好に著替えていた。

彼の申し出に、私は気恥ずかしさを覚える。

「あ、あの、髪を洗うくらいでしたら、自分でもできますので……」

「まあそう仰らず、私にお任せください。ちょっとだけ頭を下げてもらって……ああ、このくらいでちょうどいいです。では暫くの間、目を閉じていただけますか？」

お湯を數回かけてらせた髪に、何やら上品な香りのするシャンプーをかけられる。

「いところがあったら、遠慮なく仰ってください」

マリーの両手が私の髪をわしゃわしゃと洗う。

かと思えば頭皮を優しくマッサージしたり、絡まっている髪を丁寧に解したり。

死ぬほど気持ちがよくて、この時間が永遠に続いてしいと思う。

他人に髪を洗われるのが、こんなにも素晴らしいことだなんて初めて知った。

髪が終わった後は。

お湯と似た香りのするソープと、ふわふわのブラシを使って全を優しくられていく。

こちらも気持ちよすぎて、頭の中がぼんやりとし始める。

「む。が隨分とくなっていますね……これはお風呂から上がった後はマッサージコースです」

「そうですね……いは食べづらいと、お年を召したお客様からの苦も多いですから……」

「……眠いのなら眠ってしまって構いませんよ。アニス様のおはとても軽いので、私一人でも簡単に持ち上げることができます」

「そういう……わけには……」

何とか睡魔に耐えようとするものの、つい瞼を下ろしてしまい、私はそのまま意識を手放してしまった。