《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》13.ユリウスの話③

「それだけフレイを必要としている者が多いのか……」

「「「「そりゃそうです」」」」

使用人が口を揃えて言う。

「だってフレイさん、や魚の下ごしらえを難なくこなすんですよ。おまけにフォン・ド・ヴォー作りの経験もあるっていうし」と料理人。

「フレイさんすごいですよ。掃除がすごい手早くて、なのに細かい汚れを全然殘さないんです。ほんとピカピカなんですよ!」と清掃擔當のメイド。

「フレイったら、洗濯の仕方も干し方もプロ顔負けですよ。変な皺とか跡が全然ついていないんです」と洗濯擔當のメイド。

「昨日ゼルヴィカ侯爵様がいらっしゃったでしょう? 侯爵様の応対をしたのがフレイだったのですが、完璧でしたよ……聲の出し方といい、お辭儀の角度といい満點です」と接客擔當のメイド。

とにかく全員拳を握り締めて力説してくる。

アニスに視線を向ければ、彼は恥ずかしそうに目を伏せていた。

引く手數多。

それは彼にとって喜ばしい事態なのだが、皆一つ大切なことを忘れているのではないだろうか。

「フレイ、君自の意見を聞きたい」

「えっ。ど、どこでも構いませんが……」

「どんな仕事が出來るかではなく、どんな仕事をしたいのかを聞いているんだ」

「……私はまだ新人のです。そんな我儘を言うわけにはいきません」

「私が許そう。だから、君が自由に選んでいい」

一番大事なのはアニスがどうしたいかだ。

ではなく、い子供に尋ねる時のように優しい口調で告げる。

するとアニスは視線を彷徨わせた後、恐る恐る口を開いた。

「……別に私をわざわざ連れて行く必要は、なかったような気がするのだが」

あの程度の騒なら、マリー一人で鎮圧出來たろうに。

執務室に戻ってから言葉を零すと、メイド長は「私を買い被りすぎですよ」と答えた。

「私だけでしたら、止めようとせずにポーカーに參加していたと思います」

「君もアニスを手元に置きたいと考えていたのか?」

「いえ。趣味特技がポーカーなもので」

「そんな理由で……?」

しかしアニスが使用人たちと打ち解けることが出來てよかった。

これで安心して仕事にも打ち込める。

安堵しながら椅子に腰を下ろしていると、マリーがこちらを見詰めていることに気づく。

「どうした? もう持ち場に戻っていいぞ」

「アニス様のことを隨分と気にかけているようなので、何かあったのかと思いまして」

「……これだよ」

マリーには教えておくべきだろう。

そう判斷して、読みかけの書類を彼へ差し出す。

「こちらは?」

「ロートリアス家に関する調査報告書だ」

「それならアニス様をお相手に決めた際に行い、問題なしと結論を出されたはずでは……?」

「どうにも引っ掛かることがあって、もう一度調べさせてみたんだ。その容がこれだ」

「……拝見させていただきます」

マリーが書類をけ取って目を通し始める。

その顔がみるみるうちに険しくなっていくのを見て、ユリウスはこめかみ付近の髪を人差し指で掻いた。

「どうやらあの屋敷は、悪魔の棲み処らしい」

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